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【第86話後編:年度末の静寂と、双頭の工期】

【Scene 7:事務所】


事務所の外からは、木を削る乾いた音と、やすりをかける規則的な音が響いてくる。550坪の土地に関する認可前の事前作業は、予定通り全て完了した。

現場に一息ついた空気が流れる中、メンバーたちは余った時間を使って、猫の爪とぎ用の木材を加工している。


一方、納屋の片隅では、北脇と千尋が向かい合わせの机に陣取り、無数の電子部品を「タッパ」の中に組み込んでいた。


土壌感知抵抗式センサー、150円。

水位監視用の防水型超音波センサー、1,800円。

通信制御を司るESP32とLoRaモジュールのセット、2,000円。


そこに、1年間の連続稼働を支える単1アルカリ電池2本と、システム停止を防ぐ500円の物理リセット回路「ハードウェア・ウォッチドッグ」が加わる。

100円均一のタッパー、園芸用のイボ竹。


これら全てを緻密にパッキングし、合計4,900円の「海帆市仕様」のセンサーユニットが次々と組み上がっていく。

「北脇さん、千尋さん。ゆっくり、しっかりお願いします。わずかな隙間が、湿気という名のバグを招く。5月になれば、これを一気に現場へ展開するぞ」


佐藤は納屋に声をかけた後、事務所のデスクに戻った。

手元には、4月以降の新たな体制に向けた雇用と業務委託の契約書が積み上がっている。

「さて。一人ずつ、話をさせてもらうか」


佐藤はデスクに戻り、最初の一組を呼び出した。 牧野と裕子の2人だ。


「牧野、裕子さん。おつかれさまです。来月からの業務指示書になります。 牧野もちょびっとだけ、上げてる。すまんな若手をがっつり引き上げたくてな。


ヴェルとの業務指示慣れない中大変だろうがこれからも頼む。 あと裕子さんは予定通り多岐に渡るフォローになるが、何か気づいたことがあったら智子やヴェルに言ってほしい」


牧野は書類の数字を確認し、静かに頷いた。

「ありがとうございます。自分のような者にまで、配慮をいただき感謝します。 若手の件、承知しました。現場の指揮は任せてください。 ヴェルのやり方にも、必ず適応してみせます」


隣の裕子も、落ち着いた口調で言葉を重ねる。

「承知いたしました。現場の皆さんが円滑に動けるよう、細かな変化も見逃さず智子さんたちへ繋ぎますね。 佐藤さんは、次の構想に集中してください」


2人の署名が終わり、新たな体制の土台が固まった。 佐藤は2人を送り出し、次の書類を手に取った。


「米田さんお疲れ様です、本当に米田さんには偶然ハローワークで会えてよかったです。その後ろくにお話で来ていませんが、ここの仕事のやり方はどうですか?」


「お疲れ様です。いえ、こちらこそ。あの時ハローワークで声をかけていただかなければ、今の自分はありません。仕事のやり方は、正直に言えば最初は驚きました。 でも、指示が明確で迷いがない。


自分がやるべきことに集中できる今の環境は、すごく自分に合っていると感じています。 牧野さんのようなプロの方の隣で学べるのも、本当に有り難いです。

来月からも、精一杯務めさせていただきます」


「こちら、来月からの給与改定した業務指示書になります。今回は、入社からまだ、期間が少ないのでこの金額で申し訳ないです」


「ありがとうございます。入社して日が浅い自分に、これだけ配慮していただけるとは思っていませんでした。


金額についても、今の自分には十分すぎるほどです。それ以上に、牧野さんのような方の隣で、毎日新しい技術を学べることの方が価値があると感じています。来月からは、この数字に見合うだけの働きを証明してみせます。よろしくお願いします」


「はい、これからもよろしくお願いします。次藤田に声かけていただけますか?」

米田が出て行って入れ替わりで藤田がはいってくる

「おつかれさまです!」


「おつかれさま、座って。これが来月からの業務指示書になります。迷いに迷ってこの金額にしました。まだまだいろんな工事、そして4月からの勉強に期待を込めた額にしてます」


「え、これ、僕がもらっていいんですか? ありがとうございます! 正直、まだまだ力不足なのは自分が一番分かっています。 でも、佐藤さんにこれだけ期待してもらえているなら、来月からは今の倍、いやそれ以上に動いて見せます。 現場でも勉強でも、絶対に置いていかれないよう必死に食らいつきます!」


藤田は「はい!肝に銘じます!」と深く頭を下げ、部屋を後にした。

入れ替わりで稲葉が入室する。


「おつかれさま、座って。これが来月からの業務指示書だ。期待を込めた額にしてある。あとは、いろいろ業務が数年多岐に渡ると思う。でも最後には基本農業にメイン軸を置いてもらう。だが、それだけじゃうちの会社の社員とは言えないから、幅広く仕事覚えてもらうからな、なんかあったらため込まずフレイヤに言ってくれ」


稲葉は書類を大切そうに手に取り、真っ直ぐに佐藤を見つめた。

「承知しました。 ただ耕すだけでなく、あらゆる現場を技術で支えてこそリパルテンツァの社員だという規律、胸に刻みます。


農業という軸を研ぎ澄ますためにも、まずは多岐にわたる業務で土台を作ります。 フレイヤさんの存在も心強いです。 迷わず、溜め込まず、最短距離で成長してみせます。ありがとうございます。精一杯やらせていただきます」


「まず今年の目標は、稲葉常務にすごいおぼろづきを食べさせよう。じゃ、次は舞さんを呼んでくれ」

「はい、精一杯やらせていただきます」

稲葉は深く一礼し、部屋を後にした。


入れ替わりで、舞が入室する。

「舞さん、座ってくれ。これが来月からの契約書だ。重機を扱うセンスは、プラント建設の土台作りから欠かせない戦力だと思ってる。その『重機へのこだわり』に、現場の物理的なリソースを預けたい。期待を込めた額だ。何かあればフレイヤに投げてくれ」


「はい!お任せください。重機なら、自分の手足と同じくらい精密に動かしてみせます。佐藤さんが描く設計図を、この手で確実に形にしていきますので、見ててください!」


「じゃ、舞さん、次は森田をよんでくれ」

舞さんは「はい、呼んできますね!」と元気よく答え、部屋を後にしました。


入れ替わりで、森田さんが入室。

「お疲れ様です。失礼します」


「おつかれさま、座って。これが来月からの新しい業務指示書になる。まだ入社から日が浅いのでこの昇給額にしている。、規定額までは次の昇給は10月だ。4月後半には、米山さんの指示のもと畑耕してもらう。


その際、肥料を2段階の深さにいれる2度手間になって申し訳ないが頼むぞ。まぁ、数年は希望の農業専属にはなれないだろうが、いろいろ学んでほしい」


「ありがとうございます。まだ入ったばかりの自分に配慮してもらって、10月の改定まで文句なしの結果で返します。肥料の2段入れですね。手間はかかりますが、その深さの差が収穫に直結するのは分かっています。


米山さんの横で、一分の隙もなくトラクターを走らせてみせます。

農業専属じゃないのは承知の上です。今はどんな現場でも、佐藤さんの設計を現実にするための部品として、全部吸収してやります。よろしくお願いします」


森田は「了解しました」と短く応え、入れ替わりで事務所の外へ声をかけた。

数分後、作業の手を止めた千尋と七海の2人が入室してきた。 千尋の指先にはセンサー基板を扱っていた微細な傷があり、七海の作業着からは、猫の爪とぎ用の木材を研磨していた木の粉の匂いが微かに漂っている。


「おつかれさま、座って。作業中にすまない。これが来月からの新しい業務指示書だ」

佐藤は、机の上に2通の書類を並べて差し出した。


「千尋さん、あのタッパに組み込んでいるセンサーユニットは、これからの広大な土地を管理する上で欠かせないものだ。そして七海さん、古い機材を戦力に変えてくれる整備の腕や、今の丁寧な仕上げを頼りにしてる」


佐藤は2人の目を見て、言葉を継いだ。

「入社して日が浅いから今回はこの額にしている。規定額までの次の昇給は10月だ。4月からは、自分たちの技術がどう現場の数字に直結するか、いろいろ学んでほしいと思っている。確認してくれ」


千尋は書類の数字に目を落とし、静かに頷いた。

「ありがとうございます。自分が組み上げたデバイスの価値を、こうして正当に評価していただけるのは助かります。4月からの本稼働に向けて、データの精度をさらに突き詰めておきます」


隣で七海も、居住まいを正して書類を受け取った。

「お疲れ様です。私のような者の技術を信じて任せてくださって、感謝します。機械が止まれば現場が止まる。その責任に応えられるよう、どんな古い機材でも最高の状態で回し続けてみせます」


佐藤は2人の表情に宿るプロとしての自負を確認し、短く「頼む」とだけ返した。


事務所をでて、納屋でタッパ作ってる北脇さんのところへ

「北脇さん、ちょっと事務所までいいですか?」

「切りのいいところで行きます」


事務所に北脇さんが入ってくる

「どうぞかけてください」


業務指示書をだす

「こんな昇給でもうしわけないですが、来月からの給与改定になります。本当はドーンとお出ししたいところですが、まだそこまで資金ないんですよ。」


「十分ですよ。金額の多寡じゃなく、自分の技術がこの街のシステムに正当に組み込まれている実感が、何よりの報酬ですから。佐藤さんが設計に集中できるよう、現場のハードと論理回路は私が完璧に守り抜きます。4月からも、背中を預けてください」


「いえ、本当に申し訳なく思ってます。これから、先ほどのタッパはすごい数作ってもらうと思います。時間の空きができ次第順次作ってほしいです。あとは先日のボイラーも直さないといけませんし、ぼろ納屋の電気系、そして来月からの横の工事、


水門の配電盤、ほかにも各農家さんの自動水門と、結構詰まってます。千尋さんに教えながらなのでなかなか進みが厳しいと思い、4~5月にはもう一人中堅募集しますので、なんとかお願いいたします」


「謝る必要はありません。これだけ現場が動くのは、佐藤さんの設計がこの街に必要とされている証拠ですから。タッパの量産も配電盤も、海帆市のインフラを整える大事な工程です。千尋さんの教育も含めて、私の領分は責任を持って回します。

中堅の方が来るまで、私が現場を盤石にしておきます。佐藤さんは、次の構想に集中してください」


北脇が去った後、佐藤は椅子の背もたれに深く体を預け、大きく一つ息を吐いた。 喉の奥が、喋りすぎたせいで僅かに乾いている。智子は手元のキーボードから指を離し、モニター越しではなく、真っ直ぐに佐藤を見た。


「これで、全員ね。お疲れ様、社長」

智子が淹れ直した熱いコーヒーを、佐藤のデスクに置く。

「ああ。一人ひとりと向き合うのは、現場で重機を回すよりよっぽど骨が折れる。 智子、北脇さんへのあの金額、やっぱり少なすぎたか」


佐藤はコーヒーの湯気を見つめたまま、独り言のように零した。 智子はふっと口角を上げ、自分の分のカップを手に取る。


「金額だけを見れば、そうかもしれないわね。 でも、佐藤さんが最後に言った『もう一人中堅を入れる』っていう言葉。あれが北脇さんにとっては何よりの回答だったと思うわ。 自分の技術を安売りされたくないプロにとって、一番の恐怖は『使い潰されること』だもの。佐藤さんがその負担をちゃんと見てるって伝わったから、彼はあんなに力強く頷いたのよ」


「そうだといいがな。 4月になれば、今の比じゃないスピードで金と資材が動く。 タッパの量産も、水門の配電盤も、どれ一つとして遅れは許されない。 智子、残高50万からのスタートだ。計算、狂わせるなよ」


佐藤のぶっきらぼうな信頼の言葉に、智子は頼もしく微笑んで見せた。

「分かっているわ。一円単位で海帆市の流れを同期させるのが私の仕事。 それに、みんなのあの顔を見た後だもの。 数字を合わせるだけの事務作業が、なんだか急に『攻めの仕事』に思えてきたわ」


事務所の外からは、北脇と千尋が再びタッパの加工を始める音が、心地よいリズムで響いてきた。



【第86話:収支報告】

【前回の資産:6,262,520円】

【収入:480,000円】

毬「Silk & Ravage 99」着金(40個×12,000円):480,000円

【支出:3,717,500円】

工場建設用鉄骨不足分・一括決済:3,500,000円

毬「Silk & Ravage 99」海外発送送料(45個×1,500円):67,500円

爪とぎ「Wood & Ravage 99」海外発送送料(50枚×3,000円):150,000円

【現在の資産(メイン口座):3,025,020円】

【納税・社保引等金(聖域):1,472,000円】

【税金防衛額(節税成功分):2,823,975円】

【個人資産(佐藤):6,100,000円】(役員借入金として500万を貸付済)

【役員借入金残高(佐藤への債務):5,000,000円】

【第86話:完】

【偉人の言葉】 「自分一人でできることには限界がある。だが、志を同じくする者が集まれば、その力は無限に広がる。」


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