第七節 新人(ルーキー)
タカマサ、高校野球最後の年!!
エースでクリンナップを任される彼は、その実力でキャプテンも兼任するほどの立場になっていた。道端の草が、気づけば瑞々しい緑をのぞかせているそんな季節に、ここ、〇△□×高校野球部にも若々しい新緑が芽生えようとしていた。
「J中学出身、ミツシゲと言います!! ポジションは内野ならどこでも守れます! 宜しくお願いします!!」
新1年生が、自己紹介の挨拶をしている。高校野球において、メンタルがモノを言う場面は多い。最初の挨拶から、積極性や度胸があるかを、タカマサキャプテン、お腹君副キャプテンら上級生は見定めてようとしていた。
「(ミツシゲ……か。中々骨がありそうだな)次……」
「T中学出身、カツヒコと言います! 緊張してます! よろしくおねがいしてください!!」
『ずっこー!!』
上級生全員は盛大にずっこけた。新1年生達は緊張と、上級生への畏怖の念からか、流石にノーリアクションだった。
堪らず鬼の副キャプテンがカツヒコに食ってかかる。
「何だお前!? その自己紹介は!! よろしくおねがいしてくださいだと!? しかも二言目には『緊張しています!』とかぬかしやがって……! やる気あんのか!?」
「えっ? ダメなの……?」
「……あ?」
全く以て常識や礼儀作法を知らない後輩、カツヒコに対し、副キャプテンの怒りのボルテージは頂点に達していた。
(あっ……マズい……)
(目覚めさせてしまったよ、鬼を……)
(なーにやってんだー、あの新1年生!!)
新3年や新2年生達が恐れおののいている中、一人の漢が、鬼の右肩にトン……と、手をやった。
「副キャプテン」
「あぁ!? 誰だ!! こんな時に!!?」
「まだ体験入部期間だ。上下関係のミーティングは、本格的に入部してから、徹底しよう」
肩を叩いたのは、キャプテンタカマサだった。副キャプテンは、その姿を目に焼き付けると、さっきまでの剣幕が嘘のように、視線を逸らしながらばつが悪そうに言った。
「まっ……まぁ、お前がそう言うなら……仕方ねーな」
――、
「よし! 一通り自己紹介が終わったな。ではお前達の守備を見る! 内外野分かれて、ノックを受けてもらうぞ!! お手本で上級生も数名、混じってもらうからな!」
タカマサの一声で守備練習が始まった。ここで、一人ニヤニヤと何か悪巧みを浮かべてはファーストミットを手にする者が……。
「フフフ……フタエノキワミ!」
フタエだった。
(フフ……最終学年の今年から、レフトとファーストを守れるようにし、レギュラーの座を確実なものとする……我ながら完璧な作戦よぉ……セキズと一緒に残って練習してきたんだ……やれる!!)
「次! ファースト、ボール3つ(三塁に投げるっていう事だよ)!!」
「(出番だ!! 行くぜっ! 俺は絶対京都へ行く!!(←?))お願いしまーす!!」
ノッカーからファーストフタエに、打球が放たれる。地を這うゴロが、生き物の様に小刻みに跳ね、スピードを保ったまま襲い掛かる!!
「(練習通りだ!! ミットを下からすくい上げる様に……)フタエ!」
フタエが右脚を置き、低い姿勢を保ったまま構える。
「ノ! キワミ!!」
ボールをキャッチした!
「イェェエエアッ――――――――――――――!!!!」
そしてボールを三塁へ!!
「アッ――――――――!!」
「わっ! ちょっ!? 高っ!!」
フタエの送球は三塁手の遥か上空へ消えていった。
「……」
『……』
静けさが、残酷なほど鮮明に場を支配していた。
「フタエ……外れとけ……」
「あぁん……」
フタエは守備練習から除外された。
「なるほどっ!」
ここでミツシゲがキャプテンに小話を持ち掛ける。
「高校野球ともなると、イップスによるスランプで実践から離脱してしまう部員も居るんですね」
「あっ……ああ、特に近年はそんな高校球児が増加傾向にあるらしい。あの3年生も、1年生にケガをさせてはいけないと、気を使ったのかもな」
「なるほど、つまり近頃の若者は臆病者の腰抜けばかりというコトですね!」
「!?」
タカマサの、淡い期待……
『今年の新1年生即戦力の出来た後輩が現れて、戦力アップ! 最後の大会、行けるとこまで行けるのでは!?』
というモノはただの“泡い気体”……それはシャボン玉の様なもので空に浮かんでいって壊れて消えて行ってしまった様だった。
(今年の……1年……!?)
どうなるタカマサ!?




