第一節 パン
温かい日差しと、優しいそよ風――。
穏やかな、ある春の昼下がり――、2年と延安は河川敷の芝生の上で寝ころび、虚空を見上げていた。
二人の上空には、ゆらゆらと風船の様な雲が揺蕩っている。
「――、時に」
2年がふと、口を開いた。
「『メロンパン』って……さ。なんであんなに表面サクサクで、中はもっちりなんだろうな?」
「!――」
延安はあまりの突拍子の無い発言にたじろぐ。しかしここで怯む延安ではなかった。
「めっ……メロンパン! 良いっスよね! あっ……甘くて……。アレはクッキー生地とかいうのが表面にあるからサクッと仕上がってる見たいっスよ!? もっちりなのは……そういう生地を使ってるからかと……」
「!……」
2年は延安の発言に少々視線を向ける素振りは見せたが、口を閉じたままだった。
(――!! しまったぁ……。クッキー生地について知っていたまでは良かったものの、もっちりの理由が浅かったかぁ……。いや、待てよ? クッキー生地が具体的にどんなモノかを語れてないじゃねーか! 全体的に浅いというか、完全に浅はかだった……?)
2年の素っ気ない様子から、延安は失敗したと後悔し、ぐわんぐわんと頭を抱えていた。
「(なっ、何か話題を変えるしかない……)せ、先パ……」
「――、時に」
「!?」
「メロンパンのメロン果汁入りって……どう思う……?」
「あっ……。アレ! けっこうおいしいっスよね、先輩。俺も好……」
「アレ……。俺は邪道だと思う……」
「!?」
延安は瞬時に悟った……。またしても不用意に浅はかな発言をしてしまった、と――。
「あっ」
絶望の表情を浮かべる延安。時間にして数十秒程度だが、何倍も時間が経過したような感覚に陥る。その場から逃げ出したくなるような感情に襲われる延安を他所に、2年は語り出す。
「良いか!? メロンパンの時点でそれはもう既にメロンパンなんだ! それはメロンパンなんだからな! メロンパンにメロンの果汁? メロンパンにメロンの要素は要らないんだよ! メロンパンなんだからな!!」
(い……意味分からん……)
延安は2年のメロンパン理論を理解し切れないでいた……。しかしここで怯む延安ではなかった。
「そっ、そうっスよね? 俺も薄々そんなコトを秘かに思ってたんスよ。いやー、メロンパンっスからね。メロンの果汁は要らないっていうか……アレあんまりおいしくないっスよね。よくよく思い返してみるとそんな気がしてきました」
延安は無理矢理に話を合わせ、頭からつま先まで全肯定する様に2年に同調する。
時には、自身の意見を曲げ、先輩を立てるコトも後輩には必要なのだ!!
「……」
「……」
二人を、晴れた春の爽やかな風が包む。静けさが辺りを覆っていた。
(き……
気まずい……!)
延安はその静寂の平淡さを耐え切れないでいた。
(2年先輩に同調したものの、それ以降会話が続かない……! てか、俺の返し、高確率でシカトされてないか!? そんな! 2年先輩、内心俺のコト良く思ってないんじゃ……)
「――、時に」
「!?」
「アンパンとクリームパンとチョコパン、順位をつけるならどれが1位だと思う?」
「あ……」
2年の不意打ちに、完全に豆鉄砲を食らった形となる延安。
(迂闊だった……。THE三大庶民のパン。それに順位を……? パンの話なら一瞬で終わると踏んでいたが、まだあったとは……)
「……?」
(こ……答え待ち? 早く、何とかしないと……)
「俺は、日本人だから……」
瞬時――、ニヤリと笑みを浮かべる延安。2年の『日本人だから』というワードから考えを巡らせる。その間、0.2秒!!
。
(シメた! 日本人といえば、和菓子――。この3つの選択肢の中で和菓子的要素を含んでいるのは――)
サッと右手を高らかに上げる延安。次いで、口を開く。
「奇遇っスねー! 俺も、日本人なんで、その3つの中では『アンパン』が1位だと……」
「えっ? 俺、『クリームパン』が1位なんだけど……」
「はっ!(コイツ……
話が合わねー……!!)」




