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第八話『建国』

 最初、三人の〈創設者〉がいた。

 星には豊かな水源も土壌もあり、コロニーをつくるのにこれ以上、素晴らしい土地はなかった。


 なにより、この土地にはコンビニエンスストアが一軒あった。


「でも、おれたちはカネを持ってないんだ」


「体が資本ってわけさ」


 すると、優しい顔立ちの若い店主が言った。


「みなさん、おひとり、ひとつずつ、紫の紐で結んだ桐の小箱をお持ちですよね? それをひとついただければ、なんでもお渡しできますよ」


「じゃあ、この場はおれがおごろう。お前たちには出世払いで頼むぜ」


 三人は桐の小箱と引き換えにビールとおつまみスナックをもらい、店の外に座って、熱心に夢を語り合った。


「ここにこの星で一番のコロニーをつくろう!」


 三人は熱心に働き、コロニーは順調に建設された。

 まず、四角い広場がつくられ、そこから四方へ長く伸びる道路をつくった。

 道路沿いには様々な店をつくったが、まだ入植者がないのでロボットが店主をした。


 コロニーは広がり、その生産物が戦争にとって重要になり、外交上の地位は着々と上がっている。


 しばらく経ってから、二人の〈執政官〉がやってきた。

 ずいぶん齢を取っていたので、ふたりがかつての〈創設者〉だと気づくのに少し時間がかかった。

 なぜ、ふたりなのか、いないひとりはどうなったのか?


 いなくなったのは、あのときビールとおつまみスナックと引き換えに小箱を渡した男だ。


「懐かしいな。ここは何も変わらない」


 と、〈執政官〉が言った。


「店主も齢を取らない」


 もう一方の眼鏡をかけた〈執政官〉が言った。


 最初の〈執政官〉が先に出ていくと、眼鏡の〈執政官〉が声を潜めて、紫の紐で結んだ桐の小箱をそっと出した。


「これでなんでもしてくれるんだよな?」


「はい」


「じゃあ、もうひとりの〈執政官〉を殺してくれ」


「なぜですか?」


「あいつはコロニーに人間を住まわせようとしている。ロボットよりも劣る人間どもを。そんなことをしたら、コロニーの地位は下がってしまう。人間は気まぐれで均一の労働力も供給できず、そのくせ休暇を要求する。そんな連中が住人になったら、コロニーはおしまいだ。このコロニーはこの星で、いや宇宙で一番立派なコロニーにならないといけないんだ。やってくれるな?」


 こうして、ひとりの〈独裁者〉が残った。


 それからずいぶん経ったある日、ロボットの近衛士官がコンビニエンスストアにあらわれて、若い店主を呼んだ。


「はい。なんでしょう?」


「偉大なる指導者があなたをお呼びです。すぐに来てください」


 コロニーはいくつもの高層ビルで空を支え、各ブロックのロボットたちが電磁制御デバイスや粒子加速装置、兵站管理用ソフトウェアといった戦争に欠かせないものを製造している。


 壁という壁、全てのホログラフには眼鏡をかけた老人の姿が映し出され、ロボットたちには偉大なる指導者と崇め立てる時間がたっぷり一時間用意されていた。


 自動車はレストランが一軒もない街区を走り、偉大なる指導者が住む偉大なる塔の前で止まり、近衛士官が案内する。


 ひとつの国を武装させられるくらいの武器が塔のなかに配備され、偉大なる指導者に害意を持つものを数百の肉片にしてしまおうとボルトを引き、薬室に目いっぱい弾を詰め込んでいた。


 準軌道エレベータに乗り、偉大なる指導者が住む最上階へ。

 そこから先は近衛士官でも入ることのできない区域だった。


 そこは仮想空間だった。

 コロニーが建てられる前の草原が広がり、ビールとパーティ開けにされたおつまみスナックの袋があり、そして、年老いて数十本の管につながれたかつての〈創設者〉が生命維持装置につながれていた。


「きみは齢を取らないのか」


 かつての〈創設者〉は皮と骨だけの手に紫の紐で結んだ桐の小箱を握っていた。


「これをきみにあげよう。そのかわりにわたしの願いをきいてくれ」


「どんな願いですか?」


「時間をコロニーがなかったあのときに戻してくれ。時間を断ち切ってくれ」


「わかりました」


 シノビはすらりと刀を抜き、生命維持装置の管に混じった数本の悪しき時間の線を見事、余計な管を少しも傷つけず、断ち切った。


     ――†――†――†――


 最初、三人の〈創設者〉がいた。

 星には豊かな水源も土壌もあり、コロニーをつくるのにこれ以上、素晴らしい土地はなかった。


 なにより、この土地にはコンビニエンスストアが一軒あった。


「でも、おれたちはカネを持ってないんだ」


「体が資本ってわけさ」


 すると、優しい顔立ちの若い店主が言った。


「みなさん、おひとり、ひとつずつ、紫の紐で結んだ桐の小箱をお持ちですよね? それをひとついただければ、なんでもお渡しできますよ」


「そんなものは持ってないぞ」


「でしたら、申し訳ありませんが、商品をお渡しできません」


「しょうがない。川があるから魚を釣ろうぜ。塩くらいならある」


「車もひっくり返せば、ウィスキーの半パイントくらい見つかるだろ」


「ビールを醸造できるやつを住まわせないとな」


「おつまみスナックの会社もつくろう」


「そうしたら」


 と、眼鏡の〈創設者〉が言った。


「ここは星で一番、いや宇宙で一番のコロニーになるぞ!」

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