第三話
……とまあ、ここまではなんか良かったのだ。
だが、ここからだ。
初めに言うと、私の死因は車による圧迫死ではない。爆死なのだ。
ビビりな私には危機回避能力があるとばかりコンマ数秒前までは思っていた。
今回もそうだ。こんな時にも自分は危機一髪避けて、無傷で明日を過ごすと思っていた。
だが、これは聞いてない。
たまたま、車のブレーキオイルが漏れて、そこにたまたま私の吸っていた煙草の火種が引火して車ごと大爆発したのだ。『チャ~ンチャンッ⁉』と効果音を流してもいいところだ。
しかも、死ぬ前の一言なんて。
「クソったれー!」
と、どこぞの宇宙帝王みたく思い残しながら絶命。
もう、後味の悪いこと。そして、運の悪いこと。本日、いや。死んだから二度目というのか、これは。まあ、いい。
思えば、ろくに良いことはなかったものだ。
今日、一番の冷え込みに見舞われたりするわー、震えた手で着けた火は袖の方に焦がすわー、そして今みたいに死ぬわー。なんかああ、もう。神様というものがいるのならば、真っ先にグーで思いっきり嬲り殺しにしたい気分だ。
前世というものがあるのならば俺が一体、何をしたのだというのだ……。
いいや、前世も問わず私は今、死んでいるのだ。というか、死んでも尚、こんな意識自体あることも異常ではあるが、死とはこういうことなのかと改めて思った時、微かに光が差し込んできた。
「……っん?」
その拍子にうっすらと目を開けると、突っ立っていた。
私の意識が徐々に覚醒の方にいく。
「なんだ、ここは?」
青い空に山が連なる麓には雲がかかり、そして眩しい太陽が私を出迎えるように照らしてくれたのだ。
まるで芸術のような光景だった。
「ここが天国なのか……」
死んだら、人間はどこに行くのだろうと、小さい頃からそれはずっと疑問に思っていたことはあった。
ある人は天国か地獄に魂はたどり着き、閻魔大王に審判をかけられて行き先を決めてもらう的なことを言い、ある人は死んだ人間は仏となる修行をして、旅に出ていると聞く。
ある死神は死んだら『無』になるとも言っていた。
「なんだろうな? スゲー、不思議な光景だな……」
が、———どれも違っていた。
景色を見ていた同じ視界には木材や石材の建物、それと風車が緩やかに回り、明らかな人工物があり、それはまさしく村というべきもの。
そして、鎧や防具、ローブを身に纏う様々な色の頭髪の人たちが行き交っており、私にはどう見ても天国というよりかはある場所にしか見えなかった。
「これは……」
大きな翼で空を羽ばたかせて飛んでいるドラゴンを眺めながら、瞬時に理解した。
それは世に言う———異世界へと迷い込んでしまったことに。