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第一章 第一話

 わたくし———ヒスイミツキは苗字を翡翠色の翡翠と書き、名を満月と書いて満月(みつき)と少し変わった名前が付けられた者だ。

一見するとキラキラネームに聞こえる名前、満月という名前の由来は親が特に母が、星空や宇宙などと言った天文学通だったこともあり、いつか自分の子どもにそれっぽい名前を付けたいという母の願望からその名前を授けられた。

勘違いされる人も多いのか、この名前を聞くと真っ先に女性だと名前だけで認識されてしまうこと以外は結構気に入っており、自分の名前を書くときは、それはもうペン先に力を込める指先たちに躍らせたものだ。

そして、小中高と通い、何と不満のない卒業を果たし、元々、バイトとして入っていた職場に正式に就職したスーパーに二年勤めた。

ある日、私が十八を過ぎた後から自分でも時々、何かを思うようにはなっていた。

———夢がない。

 いや、別に人生が楽しくないとか、そんなことではないがなにかこう、人との距離の測り方とか接し方を学生バイトからやっていたせいか感情が置いてけぼりになってしまった。

 具体的には、『この人はこういう人間である』とか『この人はこれができないのか』とか、どこか俯瞰で見る自分がいるようになり、その他に人の機嫌の取り方や怒らせない把握力など社会人より前に先に知ってしまったことによりなにか自分という存在に価値すら置けていない自分になってしまったのだ。自分という自分に何か情けなさを感じてしまう。

そんなこんなもあってか、やはり大人になるにつれて娯楽が広がることに相俟って、私は煙草を吸い始めた。


「ふぅ……」

 そして今日も吸っていた。いつものコンビニでグラビアを立ち読み鑑賞し、その浸った頭のまま、外の灰皿で一服。と最近、自分のマイブームとなりつつあった二月。終盤に差し掛かる季節はいよいよ春の三月を迎えようとしていた。


「寒……」


 ぶるり、と足から頭にかけて何かのリズミカルとも取れるかのような震えを見せて、小声で一言。

 誰もが思うこの一言はコンビニに立ち寄った人間も然り、夕方に外に出ていた地方住民、全員が言わずとも思っていることを私が代弁したのだ。

特に寒がりの人間には厳しいことだ。今日の夕方から夜にかけての気温は一週間でもっとも寒く氷点下を下回ると気象予報士がそんなことを言っていたことを思い出した。

嘘だと思う反面、本当なのだろうかと内心、疑心暗鬼になりつつも外に出たが、まさか天気が的中するとは感心に浸る。

だが、感心に浸るのはほんの数分程度。

外にいるだけで体が凍えるような寒さに見舞われて、私という特異体質なのか基本的に暑いときは暑がりで寒いときは寒がりと極端に体が正直なため、それはジッポライターを持つ手に力が入らなかった。そして、やっと震えた手で着火したとホッと安堵した瞬間、着ていたコートに火が着いてしまい、袖には黒い焦げ跡を残してしまう始末。


「ああ、俺の袖がーなんてことだ……」

運が悪い。これを言わざるをえない。そして、気象予報士ならぬ、暗い青色と橙色に染まる空に中指でも立てたいほどの小さい怒りに変わる。

「いや、なんでこんな寒いの? もうそろそろ暖かくたっていいじゃないの?」

 そんなことを言ったって、何かが変わることではないことを小言で空にぶつけると、煙草を多めに吸うと、心は少し暖かくなった(気がする)。

勘違いしているかもしれないが私は基本、寒いのも暑いのも嫌いとは先ほども言ったが、好きではないと言ったが、俺は四季自体、そもそも嫌いだ

春になれば、それはもう花粉の季節であり鼻水とくしゃみと目のかゆみが襲い、治まることを知らないし、夏ともなれば暑い。

秋ともなれば、乾燥で皮膚が割れて仕方ないし、冬は寒い、の一言に尽きる、これだけだ。

四季と言うのは何も私にとってみれば風情も感性もない、そう私は思っている。

 煙草だって同じだ。

 私は煙草を一日一箱なんてそんなにたくさん吸っているわけではない。おおよそ、二週間に一本くらいの頻度だ。

別に俺は好きで吸っているわけでもうまくて吸っているわけでもない。味はまずいし、煙の味はまるでゲボのようだ。喫煙者の気が知れないものだ。

だが、年の功だってある。自分の年齢をあと四年ほど経てばこう、なんというのか、うまいという感情になるとでも言うのだろうか。

「……ふぅ」

いや、そんな自分だって立派な喫煙者だ。現に辞められることだってできたはずだ。

だが、ニコチンが自分の精神を蝕もうとしていることもだって事実だ。私は煙草をやめられない。って、何を熱弁しているのだろうな、自分は。

「まあ、俺はこいつの一生の飼い犬みたいなものなのかねー……」

 と、眼鏡のブリッジを鼻に掛け、独り言を言っていると賑やかな話をしながら、コンビニ立ち寄った女子高生ら……JKたちが入っていく様に視線は自然と向いていた。

「……」

 別に可愛いからと思って見ていたわけではない。

ただ、あのように自分も能天気に過ごすことができていればいいなと思っていたのだ。

それと同時に、あの頃の学生に戻れたらなどと、今更どうにもならないことを、いつも学生たちを見ているとそんなことを思っていた。

私がなぜスーパーという職種を選んだかといえば、答えはシンプルに面接を受けるのが面倒くさかったからだと何ともまあ、我ながらひねくれて、そして今、考えればクソみたいな理由だ。

―――夢がない? 訂正しよう。

 夢というそのもの自体を考えなかったのだ。

もっと真面目に将来を考えれば良かった。後悔している。

「はぁ……」

 自然とこぼれるため息は、それは自然に気化する白い息として消えていく。自分もそんな風に大人になるにつれて消えていったのだ。夢という白い息のように

 もう一度言うようだが、後悔している。

「なんて、後悔している……だからって、もう人生は後戻りはできねぇんだぞ……」

 せめて、人生一度きりだ。もう、こうなったらとことん将来なんて考えずに馬鹿な事考えて生きよう。うん、そうしよう。

「にしても、あの子。やっぱ可愛かったなー。顔、見てねぇけど……」

 そして、久しぶりに二本目の煙草を咥えて着火させようとする。

「……——ない」

 と、途切れた、だが怒鳴り声だと思えばそうなのか、そんなのが耳に届いた気がした。

 声が聞こえるや否や、俺はその声の主の方に「何だ?」と言わんばかりな目を向けた。


「———っ⁉」


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