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09 図書館の記憶的常連者



 翌週の茶会が終わり、リセットは旅行書を返しに行った。


「リセット」


 リヴァイスに会った。


「また本を探しに来たんだ?」

「はい」

「旅行雑誌?」


 微妙に違うとリセットは思った。


「旅行書です」

「王太子妃候補なら旅行ではないことを勉強した方がいい。この国の歴史とかね」

「他の候補の方との話題に使えないかなと」

「王太子妃候補と仲良くなるのは難しい。兄上に気に入られるよう努力する方が優先じゃないかな?」

「申し訳ありません」


 リセットは肩を落とした。


「まあ、好きにすればいい。謎が解けたから行く」

「謎ですか?」


 あえてリセットは聞いた。


「リセットが一般書コーナーで何をしているのかという謎だよ」

「なるほど」


(前と同じやり取りですね)


 リヴァイスは行ってしまった。


「取りあえず」


 リセットは旅行雑誌を何冊か借りた。そして、歴史のコーナーに向かった。


 リヴァイスがいた。


 そうなることをリセットはわかっていた。


「偶然だね?」

「そうですね」

「旅行雑誌を借りるんだ?」

「内容が気になったので」

「どんなものを探しているのかな?」

「歴史の本です。先ほど、歴史を勉強した方がいいと言われたので」


 リヴァイスは笑い出した。


「僕としたことが、またしても駄目な質問をしてしまった」

「またしても?」

「一般書のコーナーで何を探しているのかを尋ねたら、リセットは本を探していると答えた。図書館だから当たり前だよね? 僕はどんな種類の本を探しているのかを尋ねたつもりだった。言葉が足りなかったわけだ」


(ああ、間抜けな答えをしてしまったことですね……)


 リセットは思い出した。


「今回も、どんな歴史の本がいいのかを尋ねたつもりだった」

「すみません。私の理解力が不足していました」

「いや。僕も深く考えていなかった。でも、普通の歴史は学校で習ったよね?」

「習いました。でも、ここにしかない珍しい本があるかもしれないと思ったので。貴重なお時間を取らせてしまうわけにはいきませんので、失礼しても?」

「いいよ」

「では」


 リセットは立ち去ろうとした。


「待って」


 リヴァイスに呼び止められた。


「歴史書はいいの?」

「後で来ます。第二王子殿下の邪魔をしてはいけませんし、騎士の方も気を遣うのではないかと思うので」

「そうか」

「本当に申し訳ありません。先にこの雑誌を読んできます」


 リセットはそう言うと、読書室で旅行雑誌を一冊読んだ。それを返却した後、再び歴史のコーナーに向かった。


 リヴァイスはまだ歴史のコーナーにいた。


(やっぱりまだいたわね)


 リセットは読書室に戻ろうとした。


「リセット」


 リヴァイスに声をかけられた。


「戻って来たんだ?」

「申し訳ありません。もう一冊読んでから来ます」

「いいよ。気になる本を探せばいい。僕はもうすぐ時間だから」

「第二王子殿下の寛大さに心から感謝申し上げます」


 リセットは歴史書のコーナーを見ると、本を選んだ。


「どんな本を選んだのかな?」


 リセットは選んだ本をリヴァイスに見せた。


「これです」

「面白くなさそうな本だね」

「難しそうなのは避けました」

「この本は面白いよ」


リヴァイスは読んでいた本をリセットに渡した。


「本棚に返しておいて」

「はい」


 リヴァイスは行ってしまった。


 リセットは手渡された本を見た。


 大陸最大の領土を誇っていた大王の本だった。


「これで荒れ茶会が変わるわ! 私も救われる!」


 リセットは迷わず大王の本を借りた。





 翌週。


 茶会はリヴァイスが読んでいた本の話題でもちきりだった。


 誰がリセットの次に本を借りるかでトランプ勝負をすることになった。


(どうなるかがわかっているのは楽……でも、全部が同じではないし、重要な部分を変えられないと駄目というか)


 リセットは王宮図書館に向かった。


 リヴァイスがいた。すぐに近寄って来る。


「リセット、あの本を借りたね?」

「借りました」

「持ってないね?」

「読みかけなので」


 前回のおかげでとっくに読んでいるが、本をすぐに返すわけにはいかない。

 次の茶会で誰が借りるかを勝負する必要がある。


「僕も読みかけなんだけどね?」

「申し訳ありません」

「別にいいよ。借りるのは自由だ。でも、今日は茶会の日だから、返しに来ると思っていた」

「読むのが遅くてすみません」

「難しい?」

「眠くなるのです」

「正直だね。どこまで読んだ?」


 リセットは正直に伝えた。前回と同じところまでにした。


「そうか。でも、来週なら読み終わりそうだ」

「それなのですが」


 リセットは茶会で本の争奪戦があったことを伝えた。


「ということは、来週はあの本を欲しがるライバルがいるわけだ」

「第二王子殿下が優先に決まっています。なので、そのことをお伝えしておきます」

「それはいい。でも、茶会の日は早く来て。昼食に招待する。その時に本を貸して欲しい。茶会までには読み終わるよ」

「わかりました。本当に申し訳ございません」

「いや。でも、茶会で本の争奪戦が行われるなんて思わなかった。嫌味合戦にならなくてよかったね」

「第二王子殿下のおかげです。心から感謝いたします」

「じゃあ、来週。十二時に王宮においで」

「はい。では」


 リセットは立ち去ろうとした。


「待って」


 リヴァイスに呼び止められた。


「どうやって僕に会うかわかる?」

「あ……」


 リセットはすでに知っていたが、それは前回教えて貰ったからだった。


 今回はまだ教えて貰っていない。


「どうすればいいのでしょうか?」

「侍従に面会希望を伝えればいいだけだ」

「わかりました」

「昼食の招待を受けていると言えばいい。わかるようにしておく」

「はい」


(良かった。これで前と一緒だわ)


 リセットはそう思いながら帰った。



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