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07 白い封筒


 

 本を争奪するためのトランプゲームがあったせいで、候補の茶会はいつもと違う雰囲気だった。


 勝者が決まり、上位者は一週間ごとに借りれることになった。


 それを待てない者や権利がない者は題名を覚えればいい。同じ本を入手すれば内容がわかる。


 茶会が終わった後、リセットは勝者と一緒に図書館に行き、本を貸し借りする手続きをした。


「私は新しい本を探しますので」

「そう。じゃあね」


 候補の女性と別れたリセットは一般書コーナーへ行こうとした。


「すみません! ちょっとよろしいでしょうか?」


 リセットは総合案内カウンターの者に声をかけられた。


「何でしょうか?」

「リセット・エファール様ですよね?」

「そうです」

「こちらを」


 総合案内カウンターの者は白い封筒を差し出した。


「お渡しするように言われています」


 リセットは封筒を受け取った。


 裏と表を見てみるが、宛名も差し出し人も書いていなかった。


「どなたからでしょうか?」

「開封すればわかるのではないかと」


 不思議に思いながら、リセットは封筒を開けた。


 侍従に王太子との謁見を申し込む指示が書いてあった。


(王太子殿下と謁見?)


 誰からの手紙かわからないが、リセットは侍従に王太子との謁見を申し込んだ。


 謁見はすぐに許可された。


「確認したいことがあって呼んだ」


 手紙はザカリアスからだった。


「昼食の時の話だ」


 リセットは恥ずかしくなって顔を赤くした。


「私のことが好きだと言った。本当か?」

「本当です」

「リヴァイスに何か言われたのではないか?」

「え?」


 リセットは意外だった。


「第二王子殿下に?」

「リヴァイスに昼食を一緒に取りたいと言われた。するとお前がいた。そして、私のことを好きだという。どう考えてもリヴァイスがお膳立てした。お前とリヴァイスは親しいのか?」

「いいえ、全然。私も驚きました」

「なぜ、リヴァイスの昼食に呼ばれた? 心当たりはないのか?」

「それは本のせいです」


 リセットは図書館でリヴァイスと会ったことや大王の本についての説明をした。


「では、本を先に読み終えるためだということだな?」

「そうです。そうすれば私が返した後に候補の方が本を借りることができます」

「そうか。それから髪飾りの件だ。リヴァイスに先に話したな?」

「え? あ、はい。話しました」

「私からお前に声をかけたというような話だな?」

「そうです。私が落とした髪飾りを見つけてくださったお話をしました」

「もう一度話せ」

「え?」

「リヴァイスに説明した通りに言え」

「王太子殿下にお話ししたことと同じです」

「同じわけがない。話せ」

「確か……」


 リセットにとって小花の髪飾りは母親の形見の品の一つ。


 王太子妃候補の選考会に参加する際、母親が一緒にいてくれると思ってつけた。だというのに、どこかで落としてしまった。


 大勢の人々がいる。小花の髪飾りは小さく、高価そうなものでもない。誰も見向きもしなければ拾いもしない。靴で踏まれ、壊れてしまう可能性もあった。


 だが、ザカリアスが落ちている髪飾りを見つけ、取っておいてくれた。自分に挨拶に来る女性が落としたものではないかどうかもチェックしていた。


 リセットが挨拶すると、ザカリアスは髪飾りを見せるよう騎士に伝え、渡してくれた。


 そのことがきっかけで好きになったという話をしたことをリセットは説明した。


「王太子殿下にお話ししたのも同じ内容だと思うのですが?」

「母親が一緒にいてくれると思い、形見の品をつけたという内容は今聞いた」

「あ……」

「お前にとってあれは守りの品だったのだな?」

「そうです。失くさずにすんで本当によかったです」

「同じ髪飾りをつけていた。一つを落としても、もう一つあると思わなかったのか?」

「あれは一対の品です。姉妹のようなものというか。一人だけだと寂しいです」


 ザカリアスは考え込んだ。


「リヴァイスは私と違って優しいからな。用件は終わりだ」


 謁見は終わった。


 




 その後。


 ザカリアスが記憶喪失になったことが公表された。


 リセットは気づいた。


「好きって言っても、忘れられている……」


 だが、伝えられただけでもいい。重要なのはこの後だとリセットは思った。


 リセットは候補を辞退しなかった。


 しばらくして、王太子妃候補は全員審査に落ちたと発表された。


 リセットも同じ。辞退しなくても審査に落ちれば候補ではなくなる。


「結局、大まかな流れとしては同じよね?」


 ここまでは。


 この先はリヴァイスの婚約者が選ばれ、ザカリアスが暗殺される。


 リセットが知っている記憶ではそうだった。


 そして、その通りになった。


 リヴァイスの婚約者が選ばれ、またしてもザカリアスが暗殺されてしまった。


「私ったら、肝心なことをわかっていないなんて!」


 リセットはザカリアスの暗殺を知っていたが、どこで暗殺されたのかを知らなかった。


 日時も知らない。後日発表のせいで不明だった。


「こんなはずじゃなかったのに!」


 リセットは呆然とした。


 未来を知っていたというのに、変えられなかった。


(やっぱり……駄目なのかも)


 やり直しとはいっても、全てが同じようにはならない。


 前よりも良くしたいと思って何かを変えれば、それが別のことを変えることにつながってしまう。


 前と同じようにしようとしても、完全に再現するのは難しい。細かい部分まで覚えていない。同じにしきれない。


「待って! まだチャンスはあるわ!」


 それはザカリアスの葬儀で現れた巨大な魔法陣。


 リセットが記憶しているのは、巨大な魔法陣が現れてその場にいる人々から魔力を吸い取っていく光景まで。


 これまでの流れが同じということは、巨大な魔法陣も現れるのではないかとリセットは思った。


(賭けるしかない。あの魔法陣に!)


 リセットは願った。なんとしてでも魔法陣が現れて欲しいと。


 その願いは叶った。


 ザカリアスの葬儀の最中、巨大な魔法陣が出現した。


 魔力を吸い取られたリセットは倒れ、気を失った。


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