06 昼食会
講義と茶会の日。
リセットは昼に到着するよう王宮に向かい、侍従に第二王子との面会について伝えた。
すぐに面会する許可が出た。
「よく来たね。取りあえず、本を貰う」
リセットがいる応接間にリヴァイスが来てそう言った。
「こちらです」
「昼食を一緒に取ろう。王太子妃候補としてマナーに問題がないかどうかをチェックする」
「頑張ります」
リヴァイスの後に続いて食堂に移動したリセットは驚いた。
王太子のザカリアスがいた。
「兄上も一緒だから」
リセットは動揺した。
「ようやく会えたね?」
にっこり笑うリヴァイスを見て、リセットは頷くしかなかった。
食事の時間が過ぎていく。
リセットは何も言えない。緊張しまくっていた。
デザートになると、リヴァイスが口を開いた。
「リセットは兄上に話したいことがあるらしいよ」
「何だ?」
チャンスのようなピンチのような機会が訪れた。
(どうすれば……)
リセットは悩んでいた。
やり直し中だけに、未来がどうなるのかをわかっているつもりだった。
ところが、後悔しないよう頑張ってみたせいで、以前とは違う状況になった。
王宮図書館に行ったことで第二王子のリヴァイスと話をすることができ、リヴァイスから昼食に誘われることによって王太子のザカリアスに会うこともできた。
それらは初めてのこと。
だからこそわからない。何が正解で、成功で、最善なのか。
「言いたいことがあるなら今の内だ。次の機会があるかどうかわからないよ」
リヴァイスの言う通りだとリセットは思った。
「私は……王太子殿下のことを」
その時だった。ノックされたドアが開き、ザカリアスの側近が入って来た。
「お食事中大変申し訳ございません、王太子殿下にご報告申し上げたいことが」
すぐにザカリアスが側に寄れという仕草をした。
側近が小声で用件を伝えると、ザカリアスの眉がひそめられた。
「急ぐ案件が発生した。さっさと言え。もう行く」
ザカリアスはリセットを見てそう言った。
「好きです」
リセットは勇気を出した。
「それを……お伝えしたくて」
ザカリアスはじっとリセットを見つめた。
「なぜだ?」
ザカリアスが尋ねた。
「私のことをほとんど知らないはずだが?」
「優しい方だと思いました」
リセットは伝えたいと思った。
「私の髪飾りを見つけてくださいました。普通は気にしません。落ちていてもそのままです。なのに、騎士の方に保管させていました。とても嬉しかったのです。母の形見を失わずにすみました。王太子殿下には心から感謝するしかありません」
リセットの胸に大切なものを失わずにすんだことへの安堵と喜びが込み上げた。
その気持ちが自然と瞳を潤ませていく。
「あれは」
「兄上の優しさが伝わって良かった」
リヴァイスが微笑んだ。
「兄上からリセットに声をかけたと聞きました。誰のものか確認していたようですね? 僕も嬉しいです」
「そうか」
ザカリアスは答えた。
「お前は候補の一人だ。検討しておく。リヴァイス、私はここまでだ」
「わかりました。ありがとうございます」
ザカリアスは席を立つ。緊急案件を処理するために行ってしまった。
「第二王子殿下。ありがとうございました。私、王太子殿下にお伝えすることができました!」
「そうだね。勇気を出したからだ」
リヴァイスは温かい表情で頷いた。
「本当になんてお礼を言っていいのか」
「兄上を守ると言っていただろう? だからだよ。僕も兄上を守りたいからね。じゃあ、食事の続きをしよう。デザートが終わったら、王宮図書館に行けばいい。僕は本を読む。騎士に持って行かせるから」
「わかりました」
リセットはデザートをさっさと食べ、お茶を飲んだ。
「すぐに食べたね? 兄上がいないから?」
「王族の食事が終わったら、食事は終わりだと教わりました。先に食べ終えないといけません」
「大丈夫だよ。ケーキがなくなってもお茶がある。飲み終わるまでは問題ない」
「あ、そうですね!」
「僕がセルヴィエットをテーブルの上に置いたら駄目だ。料理が残っていても終わりだよ」
「それはわかります」
「もういいかな? お茶をおかわりしてもいいよ」
「いいえ。大丈夫です」
リヴァイスはセルヴィエットをテーブルの上に置いた。
食事は終わり。
リセットは図書館に行くことになった。