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04 大王の本

 


 講義終了後の茶会で、リセットは候補の一人に話しかけてみることにした。


「旅行雑誌を見たのですが、素晴らしい所だとご領地のことが紹介されていました」


 観光業で潤っている領地の公爵令嬢は得意げに領地自慢を始めた。旅行雑誌に載っていない情報も話し、自慢しまくった。


「お話を聞いてより興味が湧きました。ぜひ、行って見たいです。でも、遠いです。旅行費用が高そうです」

「貴方にとってはそうかもね。ドレスを見ればわかるわ。お金がなさそうだもの」


 公爵令嬢が笑うと、他の令嬢達もリセットを馬鹿にするように笑った。


「ドレスで裕福さをはかるわけですね。勉強になりました」


 リセットはにっこりと微笑んだ。


「おっしゃる通り、私の家はそれほど裕福ではありません。友人としてご招待いただけないと、行く機会がないかもしれません」

「ああ、じゃ、友人になってみる?」


 公爵令嬢はからかうように言った。


「すぐに招待するわよ? 一年ほど領地に行きなさい。候補の集まりには出られなくなるけれど」


 クスクスと笑い声が響いた。


 王太子妃候補の集まりに来れなければ、無礼だと思われて審査に落ちる。


 それを狙った発言だとリセットにはわかった。


 散々いじめられていただけに、この程度は序の口だと思った。


「友人として招待された場合、移動手段や宿泊先などすべてを手配してくださいますよね? 私が一切お金を使わなくても大丈夫なようにしてくれるといいますか」

「一年分の生活費を私に負担させるつもり?」

「一年と言ったのは私ではありません。一カ月にしますか?」

「たった一カ月じゃ、すぐに戻って来てしまうじゃない」

「そうですね。では無理ということで」


 リセットは切り抜けた。


 招待の話が出たが、細かい部分でうまくいかなかった。困るのは招待する方で、長すぎるのも短いのも困る。結局、招待しない。招待されなければ、領地にいけない。


「でも、いつか本当にいければいいと思います。お話を聞いて素晴らしい所なのだと感じました。誇られるのも当然です」


 公爵令嬢は変な顔をした。


 嬉しくない。だが、領地が凄いと褒められたことについては悪くない。そんな気持ちがにじみ出ていた。





 茶会が終わった後、リセットは旅行雑誌を返しに王宮図書室に行った。


「何をしているのかな?」


 リヴァイスに声をかけられた。


「旅行雑誌を見ていました」


 リセットは旅行雑誌を読むことで茶会の時の話題にできないか、それがきっかけで友人になれないかと考えていることを説明した。


「ライバルと友人になりたいんだ?」

「結局は王太子殿下や国王陛下次第です。王太子殿下に会える機会もほとんどないですし、私にできることは少ないと思います。でも、候補で集まる時の居心地が悪いので、改善できたら嬉しいなと」


 王太子の本命だと思われているリセットに意地悪な発言をする者は多い。


 以前は黙ってうつむいていたリセットだったが、今回はなんとか頑張って発言してみることにした。


 しかし、効果はないどころか、かえって状況が悪くなっている気がしなくもない。


「居心地悪いんだ?」

「相当です。ライバル心をむき出しで、仲良くなれそうな雰囲気が一切ありません」

「それはそうだよ。王太子妃になれるかどうかがかかっているんだよ?」

「そうですけれど……王太子妃になれるのは一人だけです。貴族同士で親しくするのはおかしくないですし、敗者同士で仲良くなれないかと思うのですが」


 リヴァイスは笑わずにはいられなかった。


 誰もが勝者を目指している。敗者になりたくない。勝者が決まる前から、敗者同士で仲良くすることを考えるわけがない。普通は。


「変わっているね。リセットは」

「そうですか?」

「王太子妃候補なのに、他の候補と仲良くなるための努力をしている。兄上に気に入られるよう努力する方が優先じゃないかな?」

「あっ、そうですね」


 リセットは肩を落とした。


「申し訳ありません」


 違う勉強もしようとリセットは思った。


「まあ、好きにすればいい。謎が解けたから行くよ」

「謎ですか?」

「リセットが一般書コーナーで何をしているのかという謎だよ」

「なるほど」


 リヴァイスは行ってしまった。


「取りあえず」


 リセットは旅行雑誌を何冊か借りた。そして、歴史のコーナーに向かった。


 またリヴァイスに会ってしまった。


「偶然だね?」

「そうですね」

「旅行雑誌を借りるんだ?」


 リセットが手に持っていた本を見て第二王子は言った。


「内容が気になったので」

「ここには何を?」

「歴史の本を探そうと思いまして」


 王太子に関係するといえば王家。王家に関係するということは国。つまり、国の歴史を勉強すればいいのではないかと考えたことをリセットは説明した。


「そういうことか」

「貴重なお時間を取らせてしまうわけにはいきませんので、失礼しても?」

「いいよ」

「では」


 リセットは立ち去ろうとした。


「待って」


 リヴァイスに呼び止められた。


「歴史書はいいの?」

「後で来ます。第二王子殿下の邪魔をしてはいけませんし、騎士の方も気を遣うのではないかと思うので」

「なるほど」


 リセットなりに気遣っていることをリヴァイスは知った。


「本当に申し訳ありません。先にこの雑誌を読んできます」


 リセットはそう言うと、読書室で旅行雑誌を一冊読んだ。それを返却した後、再び歴史のコーナーに向かった。


 リヴァイスはまだ歴史のコーナーにいた。


(まだいるのね……)


 リセットは読書室に戻ろうとした。


 すると、


「リセット」


 リヴァイスに声をかけられた。


「戻って来たんだ?」

「申し訳ありません。もう一冊読んでから来ます」

「いいよ。気になる本を探せばいい。僕はもうすぐ時間だから」

「第二王子殿下の寛大さに心から感謝申し上げます」


 リセットは歴史のコーナーにある本棚を見ながら、気になった本をいくつか手に取った。目次を見ては返す。それを何回か繰り返して本を選んだ。


「どんな本を選んだのかな?」


 リセットは選んだ本をリヴァイスに見せた。


「これです」

「面白くなさそうな本だね」

「難しそうなのは避けました」

「この本は面白いよ」

「殿下、そろそろ時間です」


 騎士に声をかけられたリヴァイスは、読んでいた本をリセットに渡した。


「本棚に返しておいて」

「はい」


 リヴァイスは行ってしまった。


 リセットは手渡された本を見た。


 大陸最大の領土を誇っていた大王の話だった。


「軍事関係の本も見ていたし、こういうのが好きなのね」


 王族の男性が好きそうな本かもしれないということで、リセットは大王の本を借りて読むことにした。



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