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王太子妃候補に選ばれた伯爵令嬢はやり直したい  作者: 美雪


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番外編(三) 勉強とお菓子と

 お読みいただきありがとうございます!

 ちらっと見ましたら、評価ポイントが結構増えていて驚きました。

 「後宮は有料です!」は何年も連載しているので比較しにくいのですが、「聖女からの大降格」よりも沢山の方に評価していただけて……本当にありがとうございました!


 感謝の気持ちを込めまして、番外編を追加します。よろしくお願いいたします!

 



「描けた!」


 グリンが色鉛筆を放り投げた。


 すぐにリヴァイスが魔力で拾った。


「投げてはいけない。物は大切にしないといけないよ」

「ごめん」

「見せて」


 グリンが描いた絵をリヴァイスはじっくりと見た。


「とてもいいね。でも、何カ所か気になるところがある」

「どこ?」

「ここだ」


 リヴァイスは紙に描かれた絵の中に容赦なく黒鉛筆で丸を書き込んだ。


「どうしてだと思う?」

「魔力の属性がつながらないから」


 ただの絵であればいいが、魔力で同じ絵を描くことはできない。


「正解だ」

「じゃあ、中間属性か無属性を入れればいいよね?」

「そうだね」

「別の絵でもいい? 同じ絵を描くのは嫌だな」

「いいよ」


 現在、グリンとマリンに教えているのは魔力のお絵描きを想定した色鉛筆によるお絵描きだった。


 子供は自由に絵を描く。まだまだ知識が多くないからこそ、才能が発揮される絵になりやすい。


 グリンは多色使いの絵を好んでいるが、それは複合属性の魔法や魔法陣を扱える適性を示しており、魔導士としては極めて有能なことだった。


「マリンはどうかな?」


 兄のグリンとは真逆で、マリンは単色使いの絵が好きだった。


 何もかも一本の色鉛筆で絵を描く。様々な形や微妙な濃淡をつけて描くのも特徴だ。


 これを魔力にあてはめると、単一属性特化型。自分に合う属性の魔法をひたすら修練して極めていくのにむいていそうだった。


「見ちゃ駄目!」


 マリンは完成していない絵を見せないように隠した。


「大丈夫。時間をかけていいよ。好きに描いていいからね」

「マリンのだもん! 好きにするもん!」

「そうだね」


 マリンは牽制するようにリヴァイスを睨むと、手で隠しながら色鉛筆を動かした。


「完璧主義で秘密主義か」

「凄い魔導士になるかもしれないということでしょうか?」


 リセットが尋ねた。


「可能性はある。でも、魔力がどこまで成長するかはわからないからね。豊富なら自由度が高いけれど、少ないと厳しい」

「私と同じものを食べていれば育つかもしれません」


 リセットの魔力は平均よりも上だった。


「リセットが跡継ぎでなければ、優秀な魔導士になっていた気がする」

「一応、魔法学校の話はあったのですけれど、やめたのです」


 魔法学校は寄宿制。父親と娘で離れ離れの生活を送る気にはなれず、普通の学校へ通うことにした。


「魔力が成長するかどうかはわかりません。跡継ぎなので、別に魔導士にならなくても大丈夫だということになって」

「間違えた」


 グリンが色鉛筆を放り投げた。


 リヴァイスが魔力で取り寄せる。


「グリン、色鉛筆を大事にしないと泣いてしまう。芯が折れるのは色鉛筆の心が折れるのと一緒だよ?」

「そっか! ごめんなさい」


 リヴァイスのたとえを聞いたグリンは猛反省した。


「どこを間違えたのですか? 消しましょうか?」

「ここ」

「待って」


 リヴァイスが止めた。


「グリン、自分で消せるようにならないと駄目だよ。いつもリセットがいてくれるわけじゃないからね」

「いつも一緒にいればいいよ」

「甘えたいのはわかる。僕もリセットに甘えたい。でも、これは駄目だ。大人になったら働かないといけない。魔法はそのための手段だよ」

「ちぇっ」


 グリンは消しゴムを使って間違えた場所を消し始めた。


「魔力をちょっとだけ馴染ませるんだよ?」

「わかっているよ」

「あねさま」


 マリンがリセットの方を見た。


「これ」

「見せてくれるの?」


 リセットは優しく微笑むと、マリンの絵を見た。


「素敵! 氷のお城ね!」


 水色一色で描かれた城の絵だった。


「お水のお城」

「お水だったのね。ごめんなさい」


 リセットはマリンの髪に優しく口づけた。


「これ、わかる?」


 リセットはじーっと見つめたが、ただの点にしか見えなかった。


「お水かしら?」

「お魚」

「そうなのね。とても小さくて気づかなかったわ」

「マリン、僕にも見せて?」


 マリンは黙っていた。


 警戒心をあらわにしたまま、リヴァイスを見つめている。


「マリン、リヴァイス様に見せてあげてくれないかしら?」

「うん」


 リセットが頼むと、あっさり許可が出た。


「すっかり懐いているね」


 リヴァイスは苦笑しながら絵を受け取った。


「毎日一緒に食事をしたり読書をしているからです」

「そうか。じゃあ、僕も何か美味しいものを用意しないとかな?」


 リヴァイスはマリンが描いた小さな点を魔法で拡大して視た。


「凄いな。魚だ」


 通常の視力では点にしか見えない。だが、拡大すれば魚の形だった。


「マリンは細かいな。正直、想定外だ」

「良い意味ですよね?」

「もちろんだよ。ただ、普通の人には理解できない。視認できないからね。魔法で拡大できない場合は、常に拡大鏡を用意しておいた方が良さそうだ」

「わかりました。拡大するための魔法を覚えます!」


 リセットはそう言うと、マリンの頭を優しく撫でた。


「お魚さん、見て貰えて良かったわ。気づかれないと寂しいものね」

「うん」

「視認できる絵も沢山描いて欲しいな。凄く大きな絵でもいい」

「リヴァイス様の要求は子供向けではないと思います」


 リセットはきっぱりと答えた。


「これは魔力で描くことを前提としていますよね? 子供が大きな絵を魔力で描いたら疲れてしまいます」

「それもそうだな。マリンにはまだ無理そうだ」

「できるもん」


 マリンは顔をしかめた。負けず嫌いの性格だった。


「大きいの描けるもん!」

「どのぐらいなら描けそうかな?」


 リヴァイスが尋ねると、マリンは上を向いた。


 白い天井を白紙に見立て、魔力の絵が描かれていく。


「ぐるぐるー!」


 天井いっぱいのぐるぐる巻きの絵。


 単純な模様ではあるが、円は魔法陣の基本。多重円がかける魔力があるということだ。


 しかし、リヴァイスが注目したのは、その薄さだった。


 マリンは子供で魔力が少ないからこそ、節約するために薄く伸ばして絵を描いた。そうすることで、少ない魔力でも大きな絵を描けることを教えなくてもわかっていた。


「マリンは天才だ。繊細で微小なコントロールがすでにできている」

「凄いわ、天才ですって!」

「てんさーい!」

「俺だって天才だし」


 グリンは描き終わった絵を見せた。


「今度は完璧! 確認した。たぶん、大丈夫じゃないかなあ?」

「リセット、天井の絵を消して」

「はい」


 リセットは惜しみつつも天井に杖の先をつけ、魔力の絵を消した。


「せっかく描いたのにごめんなさいね」

「お腹空いた」


 マリンが言った。魔力を使ったせいだった。


「王宮へ行こう。その前にグリンの絵を確認する」


 リヴァイスはグリンの絵を見た。


「今度はつながっている」

「やっぱり完璧だ!」

「だけど」


 リヴァイスは黒い鉛筆で容赦なく線を書き足した。


「まだまだ描ける。つなげることを優先して細かく描かなかったね? 手抜きだ」

「バレた」

「細かく描くこと。じゃないと、マリンに負けるよ?」

「それは嫌だなあ」

「今日はここまでにしよう。お菓子を探す旅に出る」

「お菓子!」

「絶対に見つける!」

「王宮のどこに?」


 リセットは立ち上がりながら、足元に展開し続けていた盾魔法を消した。


 普段からスムーズに魔法を行使することや、長時間維持する訓練をしていた。


「取りあえず、兄上の所に行って見よう。特別なお菓子があるかもしれない」

「あるといいですね」

「あるある!」

「ある!」


 四人は禁書庫を出ると、お菓子を探しながらザカリアスの執務室へ向かった。


「兄上、ちょっといいかな?」


 ザカリアスは執務室で書類を処理していた。


 リヴァイスに続き、リセット、グリン、マリンが姿を見せたことで、なぜ来たのかの目的は察した。


「そろそろ休憩にするか」


 ザカリアスはそう言うと、側近にお茶の用意をするよう伝えた。


「魔力を使っているのか?」

「僕以外はかなり使っています」


 リヴァイスが答えた。


「わかった。普通の菓子も用意しておけ」


 王太子は側近に伝えた。

 

「かしこまりました」


 側近が部屋を出て行くと、ザカリアスは書類をしまい出した。


「ここでは食べない。食堂へ行け」

「わかった」


 リヴァイスの案内でリセット、グリン、マリンは王太子専用の食堂へ向かった。


 すぐに五人分の席とお茶と菓子の用意が整うが、ザカリアスが来ない。


 王太子専用の食堂だけに、ザカリアスがいなければ、お茶の時間にはできなかった。


「お腹空いた」

「まだなのかなあ?」


 グリンとマリンはそわそわしながらもザカリアスが来るのを待った。


「もうすぐだよ」

「一番偉い人を待つのがマナーですから」


 グリンとマリンは平民だが、魔導士になれば貴族に会う機会が増える。優秀な魔導士であれば、王宮魔導士になれる。


 子供の頃から礼儀作法を学んで置くのはとても重要なことだった。


「待たせたな」


 ザカリアスが来た。


 見るからにふわふわのケーキが載った皿を持っていた。


「グリンとマリンは食欲旺盛だからな。ケーキにした」


 ザカリアスは魔法調理ができる。弟とその弟子三人のためにケーキを作って来た。


「すみません」

「申し訳ありません」


 リヴァイスとリセットは頭を下げた。


 師匠及び姉弟子として。


「美味に決まっているが、おかわりはない。足りなければ、普通の菓子を食べろ」


 ふわふわのケーキをザカリアスが切り分けた。


「魔力でケーキが載った皿を取り寄せろ。無理ならリヴァイスとリセットでサポートしろ」

「お菓子のためなら!」

「できるもん!」


 グリンとマリンはケーキの載った皿を魔力で取り寄せた。


 グリンは急ぎ過ぎてケーキが落ちそうになったが、リヴァイスがサポートしたおかげでケーキを落とさずにすんだ。


「急がなくていい。確実に取り寄せることを優先しよう」

「空っぽの皿じゃ嫌だしな」

「マリンも気を付けて」


 マリンは魔力が少ないせいかゆっくり取り寄せていた。


 但し、魔力が少ないからこそ、皿が震えてしまっていた。


「できたもん!」

「そうね。頑張ったわね」


 リセットはマリンの頭を優しく撫でた。


「食べていいぞ。許可する」


 全員でザカリアス特製の魔力回復ケーキを味わう。


「すっごい美味しい!」

「美味しい!」

「人生で最もふわふわなケーキです!」

「さすが兄上だ。美味だよ」


 大好評。


「そうか。またいずれ作ってやろう」


 ザカリアスがそう言うと、喜びの声と笑顔が溢れた。


* 23 グリンとマリン あたりのお話。


 22話でリセットが持っていたキャンディー、25話でマリンが食べていたキャンディーはザカリアスが作ったキャンディーです!


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― 新着の感想 ―
[気になる点] リセットとリヴァイス以外にも名前に意味のあるんですか? [一言] リセットの貴族と思えない言動が面白くて可愛かったです。
[良い点] 幸せですね! ここ最近の番外編でどんどんザカリアスの株が上がってます(笑)
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