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03 王宮図書館



 王太子妃候補の説明会兼顔合わせに出席したリセットは深いため息をついた。


 やり直しをしたからこそ、改めて自分以外の王太子妃候補のレベルがいかに高いかを実感させられた。


 身分・家柄・地位・財産が揃っている権力者の令嬢で、自分の能力と魅力を磨き続けて来た自信のある者ばかり。


 唯一違うのがリセット。


 普通の伯爵家。父親も官職には就いていない平凡な領主。財産も多くはない。美人だった母親似であるのはいいとしても、普通の教育を受けただけで、特別な才能や特技があるわけでもなかった。


(圧倒的な差があるというか、全然負けているのよね……)


 子供の頃から英才教育を受けている女性達と張り合うのは辛い。やり直しになるなら、子供の頃からにして欲しかったというのがリセットの本音だった。


 一週間に一回、王宮に通い、王太子妃候補のための講義と茶会に出席する必要がある。


 前と同じようにその予定をこなすだけでは、何も変えられないとリセットは思った。


(そうだわ! 王宮図書館に行けばいいのよ!)


 平凡な伯爵家の令嬢でしかないリセットは王宮に出入りしにくかったが、王太子妃候補になったことで出入りしやすくなった。


 王宮図書館にも通いやすい。そこに行けば、王族や王宮にいる人々が読むような本があるため、勉強できそうだとリセットは感じた。





 王太子妃候補用の講義と茶会が終わった後、リセットは王宮図書館へ行った。


 一応、来たことはあるが、子供の頃だっただけによく覚えていない。


 出入口の側にある案内カウンターで、再度利用する際の注意点をリセットは確認した。


「取りあえず、見学からということで」


 リセットは図書館内をうろついた。


 数えきれないほど多くの本が所蔵されている。その中からどの本を選ぶのかは大変に決まっていた。


「疲れた……」


 リセットがソファに座って途方にくれていると、思わぬ幸運が訪れた。


 二名の騎士を伴なった第二王子リヴァイスの姿が見えた。


「第二王子殿下!」


 リセットは勇気を出して声をかけた。


「このようなところでお会いできるとは思いませんでした。光栄です。私、リセット・エファールと申します。エファール伯爵の一人娘です」

「一人娘なのに、兄上の王太子妃候補に選ばれていた者か」


 一人娘は跡取り。親戚に爵位を継がせることができるとしても、王太子妃候補に選ばれるのはありがたくも困ると考えるのが普通だった。


「なぜ、辞退しないのかな? 跡継ぎだよね?」

「ここだけの話ですが、事情があるのです」


 王太子妃候補になぜ選ばれたのかわからないが、唯一思い当たるのが母親の形見である小花の髪飾りを見つけて渡してくれたこと。


 父親は愛妻家。亡くなった愛妻がつないでくれた縁だと思うと、自分からそれを断ち切ることはできない。


 そもそも、候補になっても選ばれるとは限らない。勉強や友人作りの機会になるのではないかと考えていることをリセットは説明した。


「そういうことか」

「王太子殿下の御興味があることを勉強すればいいのではないかと思ったのですが、全く見当がつきません。第二王子殿下であればご存知ではないかと思います。教えていただけないでしょうか?」

「結構、本気なんだ?」

「勉強は真面目にします。でなければ、候補の一人に選んでいただいたのに失礼になってしまいます。努力しないのであれば、さっさと辞退すべきだと思われます」

「まあ、そうだね。でも、教えられない」


 リヴァイスははっきりと答えた。


「候補の一人だけに教えたら不公平だ。肩入れはできないよ」

「あっ!」


 リセットは気づいた。


「そうですね。申し訳ございません。考えが及びませんでした。自分で考えます。お時間を取らせてしまいまして、誠に申し訳ございませんでした」

「理由はともかく、勉強すること自体はいいことだから。頑張って」

「はい」


 リヴァイスと騎士は歩き出した。


 少し離れてリセットも歩き出す。


 しばらくすると、リヴァイスが立ち止まった。後ろを振り向き、リセットを見つめる。


「なぜついてくるのかな?」

「ついていけば、第二王子殿下がなぜ図書館に来たのかわかります。謎でしたので」

「謎か」


 リヴァイスは口角を上げた。


「謎解きをしたいのはわかるけれど、あからさまじゃないかな? もっとこっそりすべきだと思うよ」

「怪しくないですか?」


 リセットは答えた。


「あまりにもこそこそだと、変な疑いをかけられるかもしれません。謎を解くために捕まってしまったら困ります」

「一応、考えたんだ?」

「はい。ですので、こそこそではなく、そこそこ離れた感じでついていこうと思いました」


 リヴァイスが笑い出した。


「面白かったから、謎解きをさせてあげるよ。ついておいで」


 リセットはリヴァイスについていった。


 リヴァイスが来たのは、軍事関係の本がある場所だった。


「わかったかな? でも、役には立たないだろうね。女性には」

「そうですね」


 軍事関係の本にはまったく興味がない。勉強しても意味がないとリセットは思った。


「謎は解けたね?」

「はい。ありがとうございました」

「別の本を探せばいい」


 向こうに行けということだとリセットは理解した。


「はい。では、失礼させていただきます」


 リセットは一礼すると来た方へ歩き出した。そして、どんな本を借りるかを考えた。


「そうだわ!」


 思いついたリセットは嬉しそうに走って行く。


 緊急時以外、館内を走ってはいけないことをわかっていないのは明白だった。


 その様子を見ていたリヴァイスは騎士に命じることにした。


「一応、どこに行ったのか確かめて。誰に会ったのかも」


 第二王子に対するスパイ容疑の確認だった。


「わかりました」


 騎士の一人がリセットのことを追った。


 リセットが向かったのは地図のコーナー。


 軍事関係の本はわからないが、この国の地形や地図についてなら勉強できると考えた。

だが、すぐに地図だけ見ても仕方がないとも感じた。


「軍と言えば地図。地図といえば……観光!」


 観光書には各地の場所について書かれていると思い、リセットは観光関係の書物がある場所に行った。


「難しそうね」


 ほとんどが観光業に関係する専門書ばかり。リセットが欲しいのはもっと読みやすそうなもの、観光の案内書だった。


 リセットは一階の総合カウンターまで戻った。


「聞きたいことがあります。観光案内書はありませんか?」

「一般書コーナーにあります」


 リセットは一般書コーナーで見つけた旅行雑誌を立ち見した。


 ずっと読みふけっていると時間が足りなさそうなため、借りれるかどうかを貸し出しカウンターの係員に聞き、貸し出して貰う手続きをして王宮図書館を出た。





「以上です」


 騎士から報告を受けたリヴァイスは考え込んだ。


「旅行雑誌か」

「時間的に帰宅すると判断しました。馬車乗り場まで尾行した方がよろしかったでしょうか?」

「いや、別にいい。女性が旅行雑誌を読むのは普通だよ」


 但し、軍、地図、観光という連想は謎だとリヴァイスは思っていた。



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