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番外編(二) 良い日

 まだ結構読んでいただけているようで、本当に嬉しく思っています。ありがとうございます!

 感謝の気持ちを込めて、番外編をもう一つ追加しました。

 よろしくお願いいたします!



「疲れた……」


 リヴァイスにとっての一日が終わった。


 魔法の研究に没頭していた頃であれば、いつの間にかに過ぎ去ってしまうような時間。


(だけど、今の僕にとっては違う)


 一日が重い。なぜなら、それは来るべく日に向けてのカウントダウンだからだ。


 何度もやり直しているリヴァイスは闇の中にいる。まだ光は見えない。


 人生とはこれほど自分の思い通りにならないものなのかと、まざまざと突き付けられている状態だった。


「《魔法日誌》」


 宙に光り輝く本が出現した。


 これは誰にも見せることができない記録。


 すべてを覚えておくことはできないからこそ、必要になるものでもある。


 まずは一日をどのように過ごしたのかを記録する。自分が覚えている記憶と比べ、任意で変更した部分、その結果についても記しておく。


「留意点。書庫へ向かう途中、リセット・エファール伯爵令嬢に声をかけられた」


 これは変化。しかも、リヴァイス自身で起こした変化ではなかった。


(どこかを変えたことが影響しているはずだけど)


 理由として、思いつくことはある。髪飾りを拾ったことだった。


 だが、初めて拾ったわけではない。


 やり直しの初日になる王太子妃選考会で、リヴァイスは警備支援をするために巡回する。


 何もなかったルートはやり直しても同じ。何もない。だからこそ、別の巡回ルートに切り替える。


 そして、とあるルートで髪飾りを見つけた。


 髪飾りは魔法具でも危険物でもない。ただの女性用品。壊れた落とし物。


 リヴァイスが拾って修理して兄に渡した。それによって無事所有者に戻った。


 そう聞いたリヴァイスは嬉しくなった。


 そして、やり直した時のルート変更をしにくいと感じた。


 そこで別のルートにしつつも、同じような時間に髪飾りの落ちていた場所に行くことにした。そうすればまた落ちていそうだとリヴァイスは考えた。


 案の定、髪飾りは落ちていた。


 拾って修理して兄に頼みに行き、騎士に渡す。所有者に髪飾りが戻る。


 前回と同じ。細かい部分が変わっても、大きな部分は変わりにくいからこそ、それで終わりのはずだった。


「兄上に理由を聞かないとか」


 兄の選ぶ王太子妃候補の一人が、前回からリセット・エファール伯爵令嬢に変わっていた。


 髪飾りのせいで目に留めたのは確実だが、他の理由があるのかも確かめなければならないとリヴァイスは思った。


(見初めたのかな? なかなか悪くなさそうだ)


 良くも悪くもリセット・エファール伯爵令嬢は普通だった。


 高位の令嬢特有の自分こそが一番、重要と言った強烈さや威圧感がない。


 リセットから声をかけてきただけにリヴァイスは警戒したが、あっさりと引き下がった。


 候補を辞退しない理由も納得できた。亡くなった母親のことを大切に想っていたからだった。


(髪飾りを拾って良かった。修理したのも正解だ)


 最初に髪飾りを拾った時は、兄から所有者が見つかったという話だけだった。リヴァイスは母親の形見の品だったという情報を知らなかった。


 今回は偶然王宮図書館でリセットと会ったからこそ、より詳しい情報を知ることができた。


(少し変わっている感じがした。天然なのかな?)


 好奇心がある。リヴァイスの後について来た。


「こそこそではなくそこそこか」


 リセットの言葉を思い出したリヴァイスは小さく笑った。


 ちょっとした冗談。言葉遊び。


(久しぶりの冗談だった気がする)


 そう思ったリヴァイスはもう一つ気づいた。


(心から笑ったのも久しぶりかもしれない)


 ずっと兄の事ばかりを考えていた。一生懸命で余裕がなかった。気が張った状態。悲しみと苦しみを抑え、何もかも隠すようにいつも通りの表情を張り付けていた。


「今日は良い日だ。良いことをしたと思えた。笑うこともできた」


 大きな変化ではない。リヴァイスがどうしても変えたいことでもない。


 それでも、小さな変化はリヴァイスの心を優しく慰めた。


 良い方へ変わることも、良いこともあるのだと。


「もしまた王宮図書館でリセットを見かけたら、声をかけてみるのもいいかもしれない。茶会の様子を知ることもできそうだ」


 但し、予想はついている。


 王太子妃の座を巡る真剣勝負の真っ最中。仲良くお茶を楽しもうとする者はいない。


(嫌味合戦か、けなし合いか、足の引っ張り合いか)


 悪いことを考えてしまう自分にリヴァイスは嫌気がさし、払うように手を振った。


 光り輝く魔法の日誌も消した。


「頭も心もリセットだ。いや、リフレッシュかな」


 ふと、リヴァイスはリセットのことを思い出した。


(本当はリゼットだったのかな?)


 綴りによってはリセットにもリゼットにもなる。


(謎が生まれてしまった。リセットという名前の謎だ)


 くすりと笑ったリヴァイスは、これ以上の謎を防ぐためにも眠ることにした。


 その夜、リヴァイスは悪夢にうなされることはなく、心も眠りも穏やかだった。



* 03 王宮図書館の後のリヴァイス視点のお話。


 リセットは王宮図書館のソファで「疲れた……」でしたが、リヴァイスは夜の自室で「疲れた……」でした!

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