27 ハッピーエンド
貧民街の住人達の証言により、偽の情報によって国王や王太子への悪意が故意に強められていたことが判明した。
実行犯の魔導士達からの自白も引き出すことができ、次々と証拠品も発見、押収された。
ザカリアスの暗殺計画は自分の娘を王族妃にしたい有力貴族と罠魔法の研究者が手を組んで実行したものだった。
娘が王太子妃候補から外れた場合は、貧民街の人々を捨て駒にして優秀過ぎるザカリアスを暗殺。政治に疎そうなリヴァイスを新王太子にして、自分の娘を王太子妃に据え、実権を握る計画だった。
リセットがリヴァイスの婚約者に選ばれていても暗殺が実行されたのは、娘以外の婚約者は全員排除する気だったことも判明した。
「リセットのおかげだ。何度やり直しても、僕だけでは暗殺を阻止できなかった」
リヴァイスは本心からそう思っていた。
「リセットが救ってくれたんだ。兄上のことも僕のことも」
「私も救われました」
リセットもまた本心からそう思っていた。
「本当はやり直しなんてできません。思いがけないチャンスをいただきました」
未来がどうなるのかがわかっていても、うまく変えられないことをリセットは知った。
何かが変われば、別のことも変わってしまう。変わって欲しくないことが変わってしまうかもしれない。結局、何度やり直してもやり直していないのと同じように、多くの未知が溢れていた。
間違いも失敗も後悔もある。それが人生。
それでもくじけず、諦めず、自分のできることを精一杯頑張っていくことが大事であることをリセットは学んだ。
「今の私は幸せです。駄目な自分を変えることができました。自分に自信を持てるようにもなりましたし、魔法だって使えます。リヴァイス様のおかげです。私だけだったらこんな風にはなりませんでした」
「それは僕のセリフだよ。リセットがいなければ、僕は堂々巡りを繰り返していた気がする。王宮図書館でリセットと出会えたことが、僕の運命を変えたのかもしれない」
「勇気を出して、リヴァイス様に声をかけて良かったです」
リセットはにっこり微笑んだ。
「ああ、でも、まだ言っていませんでした」
「何を?」
「特別な魔法を使うのはエゴじゃないですよ」
リセットはリヴァイスに教えたいことがあった。
「リヴァイス様がしたことは正当な行為です。だって、ザカリアス様は王太子です。優秀な王太子がいなくなったら、この国も国民も困ります。もし暗殺されてしまったら、なんとしてでも生き返らせたいと思う人が大勢いると思いますよ? その願いをリヴァイス様が叶えてくれたのです。神様みたいに。英雄ですよ」
「でも、僕はただ」
「理由はわかっています」
リセットはリヴァイスの言葉を遮るように言葉を被せた。
「大切な人を守りたい、救いたいと思う気持ちは誰もが持っています。その手段がある人とない人がいるのもまた普通です。自分のできることをするだけですから」
「優しいね。リセットは」
リヴァイスは大きく息をついた。
「ずっとこのままでいたいけれど、リセットのことも考えないとだね」
リヴァイスはリセットを見つめた。
「婚約者になってくれてありがとう。嬉しかったよ。兄上は助かった。だから、リセットが望むようにしたい。僕としては結婚したいけれど、無理強いはしない。リセットが望むのであれば、婚約解消もする。どうしたい?」
「やり直しはしません」
リセットの答えは決まっていた。
「今の私は幸せだって言いましたよね?」
「そうだね。でも、ずっとかどうかはわからない」
「そうです。だから、今この瞬間を大事にします。私はリヴァイス様と一緒にいることができて幸せです。だって、私の幸せはリヴァイス様と一緒に作り上げたものですから」
「リセット……」
リヴァイスは感動に震えた。
「じゃあ、いいのかな? 僕の婚約者でいてくれる?」
「勿論です。王子妃になる気満々ですよ? 王太子妃候補のお茶会でも宣言しましたし」
「もしかして、その時からずっと好きでいてくれたのかな?」
「もっと前から好きです」
リセットは微笑んだ。
「いつから僕を好きになってくれたの?」
「記憶上はあやふやですけれど、今回の時間上においてはずっとです。王太子妃候補の選考会の日に目覚めた時から、リヴァイス様のことが好きでした」
「僕もだよ」
リヴァイスは微笑んだ。
「王太子妃候補の選考会の日に目覚めた時から、リセットのことが好きだった」
「だとすると、王太子妃候補の選考会の日に目覚めたら、両想いになっていたってことでしょうか?」
「そうなるね」
「凄いですね。運命的です」
「そうだね」
リヴァイスは苦笑した。
そういう考え方もできるのかと思いながら。
「運命って不思議ですね」
リセットは後悔した。やり直したいと思った。
その願いを叶えてくれたのは、奇しくもリヴァイスだった。
何度も頑張って、ようやくたどり着いた現在。
「辛い運命もあると思います。困難に遭遇しても、一緒に立ち向かってくれる人がいると嬉しいです。勇気が出ます」
「僕がいる。リセットと一緒に困難にも運命にも立ち向かうよ。二人で一緒に勇気を出そう。そして、沢山の幸せな時間を過ごせるよう頑張っていきたい」
「私もリヴァイス様と一緒に頑張ります」
リヴァイスはリセットを抱き寄せた。
「好きだ。愛している。一生守るよ」
「私も守ります。盾魔法が得意ですから」
「そうだね」
二人は笑い合った。そして、見つめ合う。
「いいかな?」
「何がですか?」
「キスしたい」
リセットは恥ずかしくなった。
「一度許したら、やり直せない気がします」
「一度実行したら、やり直せないね」
リセットは決めた。
リヴァイスも決めた。
初めてでも、勇気を出して頑張る。
二人は唇を重ね合った。
魔法によるやり直しはおしまい。
経験も人生も、未来に向かって積み重ねていけばいい。
二人はハッピーエンドを手に入れた。




