23 グリンとマリン
貧民街で捕縛された少年の名前はグリン。
両親が死んでしまった後は、魔力で適当な絵を描き、魔法陣のように見せかけて小銭を貰っていた。
グリンの絵には驚くべき効果があった。
それは意識の混乱や記憶の喪失。
様々な属性の魔力が混ざり合ったグリンの絵は偶発的な変形魔法陣になる可能性があるとリヴァイスは断定した。
リセットが同行することで得た情報も加わったことで、ザカリアスが記憶喪失に陥った状況を推測することができた。
騎士は次々と寄って来る人々が多い状態を襲撃だと判断し、ザカリアスに避難を進言した。
本来なら魔導士が一緒で対応するはずが、治癒魔法の派遣で側を離れていた時だった。
ザカリアスはグリンに遭遇。王太子だけに金を持っていない。そのせいで対価を払えず、変形魔法陣になってしまった絵の効果を受けてしまった。
「弟子が三人になるとは思わなかった」
グリンには才能がある。それを無駄にしないようにしながら更生させるため、リヴァイスの弟子という形で保護することになった。
「しかも、三人とも優秀だ」
グリンには妹のマリンがいた。母親が病気だという嘘で注意を引いた女の子だ。
マリンも魔力がある。グリンと同じく、リヴァイスの弟子という形で保護することになった。
「その後、屋敷での生活はどう?」
「問題ないです。全然」
リセットは答えた。
「弟と妹ができた気分です。一人娘だったので、兄弟姉妹が欲しかったのです」
「本当に? 無理をしていない?」
「していません。リヴァイス様には嘘をつきません。お父様もにぎやかになって喜んでいます」
「それならいいけれど」
グリンとマリンはリセットの屋敷に住み、王宮に通ってリヴァイスの指導を受けることになった。
「ついに記憶喪失の部分がなくなった」
「そうですね」
「これまでは記憶喪失が理由で、王太子妃候補の全員を審査で落としていた」
「どうするのですか?」
「普通に審査で落として、リセットを僕が貰う。それでいいかな?」
「わかりました」
「本当にわかっている?」
リヴァイスは尋ねた。
「僕の婚約者になるってことだよ?」
「前回と同じですよね? それについては変更なしだとすでに聞いていますが?」
「……そうだね」
「大丈夫です。頑張ります。そのために魔法も特訓しました」
「わかった」
ザカリアスは王太子妃候補の全員を審査で落とした。
そして、リセットはリヴァイスの婚約者になった。
「またやり直すことになっても、リセットを魔導士にする選択しかない。父上があっさり許可をくれるなんて思わなかった」
有力貴族の令嬢よりも優秀な魔導士の方が王家にとって有益だと国王は判断した。
「良かったですね」
「婚約者にできたことについてはね」
まだ、最大の問題が残っている。
ザカリアスの再視察と暗殺者の襲撃だ。
これまでの流れから考えると、回避することは難しい。
日時や場所が違っても発生する状況になっているはずだった。
「兄上の記憶喪失が回避できたせいで、何もしなかった場合にどうなるかが予想しにくい」
「そうですね」
「僕が知っている中では、空き家が多い貧民街の視察が最も被害が少ない」
記憶を取り戻すために貧民街へ行くという理由はなくなった。
しかし、前回の貧民街視察が不十分のため、再度行くということはできる。
「リセットは罠魔法に対処できる。グリンとマリンも協力してくれる。僕の行動にも余裕ができるだろうし、実行犯を捕まえることができる気がする」
「そうですか」
「再視察を貧民街で決行しよう。兄上が唯一助かった場所だ。僕もリセットも状況がわかっている。二人で対処しやすい」
「わかりました。頑張ります!」
「心強いよ」
リヴァイスはリセットを見つめた。
「ずっと一人で辛かった」
「私がいます。リヴァイス様を支えますから!」
「リセット……」
「弟子ですからね! グリンとマリンの姉弟子でもあります。活躍しますよ!」
リセットが微笑む。
リヴァイスも微笑んだが、心の中ではため息をついた。
(師匠としての距離よりも婚約者としての距離を縮めたい)
すべてがうまくいったら、相思相愛計画に全力を尽くそうとリヴァイスは思った。




