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王太子妃候補に選ばれた伯爵令嬢はやり直したい  作者: 美雪


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20/30

20 王子妃候補



 講義終了後の茶会で、リセットは勇気を出して発言した。


「皆様にお話ししたいことがあります!」


 王太子妃候補の令嬢達の視線がリセットに集まった。


「もしかして、候補を辞退するのかしら?」

「大賛成よ」

「賢明な判断ね」

「どう考えても釣り合わないもの」


 リセットを蹴落とす気満々の言葉が次々と投げかけられた。


 リセットの記憶上、酷い言葉を投げつけられたことは数知れず。


 講義の後の茶会は王太子妃候補の令嬢しかいないため、高位の令嬢達のやりたい放題。


 日数が経つほど、ライバルを辞退に追い込みたいという気持ちが強まり、立場が弱くて黙り込んでいたリセットはいじめの対象になってしまった。


(黙っていたら負けというのは嫌というほど学んだわ。同じ過ちは繰り返さない!)


 リセットは高位の令嬢達を睨み返した。


「私はどんなことがあっても王太子妃候補を辞退しません!」


 王太子妃候補の令嬢達に対峙する勇気がなかった自分とリセットは決別した。


「まさかと思うけれど、候補に選ばれたのは、王太子殿下に見初められたからだと思っているの?」

「自分が本命だと思っているのかしら?」

「傲慢ね!」

「身の程知らずだわ!」

「無知ね」

「何もわかっていないわ!」


 令嬢達に悪く言われてもリセットはひるまない。


「私は王子妃候補なのです」


 リセットは毅然として答えた。


「王子妃候補?」

「何を言っているの?」

「私達は王太子妃候補なのよ?」

「わかってないわね」

「頭が悪いわ」

「自らの愚かさをわざわざ示すなんて」


 令嬢達はリセットを嘲笑した。


 だが、リセットは心の中で笑い返した。


 ここにいる令嬢達は全員が敗者。身分や家柄や様々な部分が良さそうに見えても、弱い者を容赦なく見下し、徹底的に潰そうとする意地悪な女性しかいない。


 ザカリアスやリヴァイスは学校で一緒だった候補達のことについてはよく知っている。


 だからこそ、全員が審査で落とされていたことをリセットは知っていた。


「私以外は身分が高く家柄も良い方々なので、挨拶は午前中だったはず。私は午後でした。挨拶した際、王太子殿下と第二王子殿下の両方からお声をかけていただきました」


 リセットは自分が挨拶した際、ザカリアスに礼が美しいと褒められたこと、リヴァイスに自分の候補にしたいと言われたことを話した。


「王太子殿下は検討してもいいと言われました。そして、どう考えても条件が劣る私が王太子妃候補に選ばれました。つまり、私が候補に選ばれたのは第二王子殿下への配慮、王子妃候補としてなのです」


 令嬢達がざわめいた。


「実を言いますと、王宮図書館に行った際、第二王子殿下の方から声をかけられました」


 王太子妃候補を辞退しなくていい、王宮で勉強する機会になると言われた。二人だけで過ごせる場所に誘われ、役に立つ本として護身術の本を渡されたこともリセットは話した。


「選考会における王太子殿下や第二王子殿下の言動に騒ぐ者が多かったそうです。私に悪影響が出てしまうのではないかと懸念され、王太子妃候補にしたということでした。候補の茶会が終わった後、第二王子殿下が直接護身術を教えてくれるそうです」


 リセットは記憶上において散々自分をいじめてきた女性達を見返すように悠然と微笑んだ。


「茶会で酷いことをされた場合は第二王子殿下に伝えるよう言われています。察しの良い方ならおわかりですね? 本気で王太子妃の座を狙うのであれば、毎週第二王子殿下と会う私を邪険に扱うのは得策ではありません。お話は以上です」


 令嬢達の表情も雰囲気も完全に変わっていた。


 自分達の知らなかったことが判明したばかりか、最も蹴落としやすそうだと思っていたリセットが第二王子のリヴァイスと近い立場にいることを知った。


 しかも、リヴァイスの言動はリセットに気があり、積極的にアプローチしているように感じられた。


 護身術を教えることを口実にして、毎週会う約束をリヴァイスの方から取り付けているのがその証拠。


 幼い頃からエリート教育を受けている女性達だからこそ、リセットへの対応をすぐに切り替えなければならないことを察した。


「そうだったのね。勘違いしていたわ」


 傲慢で知られる公爵令嬢が声を上げた。


「どうやら第二王子殿下の目に留まったようね。でなければ、第二王子殿下から貴方に話しかけ、護身術を教える約束をするわけがないわ」

「私もそう思うわ」


 高慢で知られる公爵令嬢が同意した。


「つまり、貴方は王子妃候補ということよ。私の義理の妹になる可能性があるわ」

「何ですって?」

「さすが高慢ね」

「ぬけぬけと言ったわね!」

「静かに!」


 冷酷で知られる公爵令嬢が注意した。


「重要なことを忘れているわ。この茶会のことは、エファール伯爵令嬢から第二王子殿下に伝わるのよ?」


 令嬢達の表情が一気に変化した。


 にこやかに。


「エファール伯爵令嬢。色々と勘違いしてしまったわ。王太子殿下のことを真剣に想うからこそなの。理解していただけるわよね?」

「もっとお互いに知り合いましょう。第二王子殿下との関係も詳しく教えて欲しいわ」

「王太子殿下のことについて、第二王子殿下に聞いてくださらない? 情報をくれたら感謝のしるしを贈るわ」

「賄賂だわ」

「明らかね!」

「贈り物のやり取りぐらい普通にするでしょう? 何もおかしくはないわ」

「エファール伯爵令嬢はよく見たら美人よね。第二王子殿下もそれで見初めたのかもしれないわ。もっとお洒落をしたら? アドバイスをしてあげる」

「私がアドバイスするわ!」

「ドレスを一緒に買いに行きましょう? 一着買ってあげるわ」

「買収行為だわ!」

「見え見えよ!」

「同行してくれるお礼よ。その程度のことは普通だわ。私は裕福だもの」


 令嬢達によるリセットの懐柔と親密度を上げる競争が始まった。


(あからさますぎる……)


 リセットは唖然とした。


 だが、これが高位の貴族達がひしめく社交や政略の世界なのだろうとも感じた。


 本気の本気で王太子妃の座を狙っている令嬢ばかりだからこそ、第二王子妃になるかもしれないリセットは未来の義妹候補だと思われた。


 今の内から親しくしておけばいい。王太子妃になるための協力を取り付ける。利用する気でいることが明らかだった。


(まあ、これで二度といじめられることはなさそう。ビシッと言うのが正解ね!)


 どれほどの荒れ茶会が続いても、それは王太子妃候補達の話。


 王子妃候補のリセットには関係ない。


 今後の茶会は嫌な思いをしなくてよさそうだと感じ、リセットは安堵した。


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