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王太子妃候補に選ばれた伯爵令嬢はやり直したい  作者: 美雪


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13/30

13 危機発生





 貧民街に着くと、前回視察した場所をもう一度視察することになった。


 街並みは薄汚れており、曇りのせいか余計に暗い感じに見えた。


「この辺りで襲撃されて」


 案内役の騎士がそう言った時だった。


「金持ちがいるな」


 いかにもごろつきといった様子の男性達が次々と現れた。


「なぜこんなところにいる?」

「視察だ」


 ザカリアスが答えた。


「ここは治安が悪い。問題が多くある。改善しなければならない」

「全部、国王と王太子のせいだ!」


 男性達は睨んで来た。


「重税につぐ重税で国民を苦しめている!」

「何?」


 ザカリアスは怪訝な顔になった。


「重税だと?」

「お前達のようなやつらがいるせいで俺達は苦しんでいるんだ!」

「目に物見せやる!」


 男性達は武器を構えた。


 騎士達も剣を抜いた。


「落ち着け。重税の話を聞きたい」

「話すことなんかない!」

「そうだ!」

「俺達の怒りを思い知れ!」


 男性達が襲い掛かかろうとする。


 だが、その攻撃はリヴァイスの魔法――結界で防がれた。


「待って欲しい。何か誤解がある!」


 リヴァイスが叫んだ。


「国王は重税をかけていない!」

「国王にとってははした金だろうさ!」

「だが、俺達には苦しいし重いんだよ!」

「何度も何度も……信じられない!」

「慈悲のかけらもない! 非情だ!」

「何度も?」

 

 リヴァイスは驚いた。


 リセットも同じ。


「落ち着いてください!」


 リセットは声を張り上げた。


「国王陛下は重税をかけていません。むしろ、王太子殿下のおかげで軽くなったはずです。なのに、重くなったと言いましたよね? 絶対におかしいです!」

「その通りだ。税は軽くなったはずだ!」


 リヴァイスも叫んだ。


「王太子が税を軽くするよう進言したからだ。税金徴収を行う際に何かあったのかもしれない」

「すぐに調べましょう! 国王陛下や王太子殿下の知らないところで、手違いがあったのかもしれません。不正だったら大変です!」


 男性達は動揺した。


「重税にはしていないのか?」

「本当は軽くなるはずだったのか?」

「そんな……」

「手違いだと?」

「不正だったら許せない!」


 男性達が騒ぎ出すと、足元に魔法陣が浮かび上がった。


「これは何だ?」

「罠魔法だ!」


 リヴァイスが叫んだ。


 魔法陣から放たれる光が強まり、膨大なエネルギーが爆発した。


「くっ」


 咄嗟の判断でリヴァイスは盾魔法を追加した。


 あまりの威力に耐えきれずに盾は消失したが、結界内にいた全員が無事だった。


 しかし、周囲は違う。何もない。


 人も建物も、完全に消滅するほどの威力だった。


「すぐに帰ろう!」


 リヴァイスが宙に浮かび上がる。


 罠魔法を発見しやすくするためだった。


「僕が周囲を警戒する。馬車へ向かうんだ!」


 全員が走り出した。


 やがて、乗って来た馬車が見えた。


「待て! 止まれ!」


 リヴァイスが叫んだ。


 すぐに全員が立ち止まった。


「駄目だ! 馬車から離れろ!」


 馬車を守っていた騎士が慌てて離れていく。


 すると、馬車の下に魔法陣が浮かび上がった。


(さっきと同じ魔法だわ)


 リセットがそう思った時、魔法陣に被せるような大きな結界が張られた。


 リヴァイスが攻撃魔法陣の威力を封じるために張った結界だった。


 魔法陣が光を放つ。


 その光は大きな結界の中に閉じ込められたが、激しく軋む音がした。


「逃げて!」


 リセットは叫んだ。


 誰もが馬車から距離を取るべく走り出した。


 リセットの手を取る者がいた。


 ザカリアスだ。


「行くぞ!」


 ザカリアスは攻撃魔法陣を抑えている弟の代わりにリセットを守ろうと思った。


 リセットはザカリアスに引っ張られて走り出した。


 騎士達も後に続いていた。


「固まるな!」

「罠魔法を張られる!」

「距離を取れ!」


 走りながら指示が出た。


 やがて。


「ま、待ってください……」


 息切れしたリセットがそう言ったため、ザカリアスは立ち止まった。


(不味い)


 騎士がいない。はぐれてしまっていた。


「どっちが王宮の方だ?」


 馬車は魔法で壊されている。徒歩で帰るしかない。


 だが、いかにも高貴そうな服装は貧民街で目立ってしまう。


 貧民街を無事抜けられるかどうかさえ怪しいとザカリアスは感じた。


「戻るのは危険だ。かといって進みにくくもある。余計に迷いそうだ」


 道がわからないのはザカリアスだけではない。リセットも同じだった。


「下手に動かない方がいいかもしれません。待っていれば、騎士が探してくれるはずです」

「そうなのだが」


 ザカリアスの顔色はさえなかった。


「魔法を使う者がいる。リヴァイスでなければ対処できない気がする」

「リヴァイス様は魔導士なのですか?」

「そうだ。普段は魔法の研究をしているだけに、学者の方だが」


 そうだったのかとリセットは思った。


「足元に魔法陣が現れたら罠魔法だ。完全に浮かびきる前に逃げるしかない。とにかく、魔法陣は踏むな!」

「はい」


 リセットの記憶において、ザカリアスは暗殺されている。


 現在のような状況に陥り、暗殺されてしまった可能性が高かった。


(怖い……)


 今回はリセットが一緒。


 そのせいで暗殺を防げるかもしれないが、一緒に暗殺されてしまう可能性もある。


 まさに命がけだった。


(勇気を出すのよ! リヴァイス様と約束したでしょう? 一緒に王太子殿下を守るって!)


 リセットは懸命に自身を鼓舞した。


「私が周囲を警戒する。お前は足元だけを見ていろ」


 全方位を警戒するのは難しい。手分けすることになった。


「王太子殿下!」


 路地の奥から騎士が現れた。


 ザカリアスの視線がそっちを向く。


 だが、リセットは足元から目を離さなかった。


(嫌な感じが!)


 咄嗟にリセットはザカリアスを突き飛ばした。


「逃げて!」


 ザカリアスはリセットの足元に魔法陣が浮かんでいくの見て驚愕した。


「走って! 私のことは気にしないで!」


 リセットはなんとしてでもザカリアスを守らなくてはならないと思った。

 

 そのために多くの人々が命をかけている。リヴァイスも。


 自分も同じだとリセットは思った。


「足を動かすな!」


 ザカリアスは走り出した。


 罠魔法を避けるには立ち止まってはいけない。立ち止まると罠魔法を仕掛けられてしまう。


 リセットは路地の奥にいる騎士を見た。


 騎士は動かない。近づいて来ない。


(罠魔法のせい?)


 リセットは気づいた。


 毎日王宮に通っていたからこそ、制服の色合いが少し違うことに。


「騎士は偽者です!」


 リセットはザカリアスに伝えようと叫んだ。


 それをかき消すかのように足元から光が溢れていく。


(リヴァイス様)


 リセットはリヴァイスのことを思い浮かべた。


(私、王太子殿下を守りました。約束も)


 強烈な閃光が放たれ、爆破音が響き渡った。


 ザカリアスは振り向かなかった。正確には振り向けなかった。


 リセットの足元に仕掛けられた罠魔法が発動してしまったことがわかっていた。


(リセット……)


 地雷式であれば、足を動かさなければ爆破しない。だが、一定の時間が過ぎれば自動的に爆発してしまうタイプもある。


 騎士が偽者なら暗殺者。自分の正体に気づいたリセットを見逃すわけもない。女性でも騎士見習いの姿。瞬時に抹殺だ。


 ザカリアスは泣いてしまいそうなほどの気分だった。


(王太子だというのに、一人の女性さえ守れない!)


 突然、ザカリアスは強い力で空中に引っ張られた。抗えない。


(なんという無力感だ!)


 だが、すぐにその感情は途方もない安堵感に変わった。


「リヴァイス!」


 世界一頼もしい弟がいた。


「兄上!」

「すまない……」


 ザカリアスは胸が引き裂かれるような痛みに耐えながら声を振り絞った。


「リセットが命がけで私を守ってくれた。代わりに罠魔法にはまった」

「爆発で位置がわかりました」

「そうか」

「王宮へ戻りましょう。僕が守ります」

「魔導士は?」

「一人は仕留めました。ですが、まだいるようですね?」

「リセットが教えてくれた。路地の奥から現れた騎士は偽者だと叫んでいた」

「暗殺者を捕えるよりも、兄上を守る方が優先です。僕の魔力が尽きるまでは空中移動をします」


 リヴァイスはザカリアスの腕を掴むと、引っ張るようにして宙を走り始めた。


 今は兄を守りながら、一刻も早く王宮という安全な場所に戻ることが重要。


 リヴァイスはそれだけをひたすら考えた。



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