第2話
第2話になります。
諸星新。
新は中学時代からの友人で、同じく東京の大学に進学した上京組の一人だった男だ。
今は大手商社の営業マン。
入社1年目の新社会人として、東京で頑張っている。
慣れない仕事の連続で忙しいはずなのにねぇ……。
だからこそ忙しい中、突然送信されてきた意味深メッセージに鳥肌が立つ。
バラしてもうた……って。
……え、誰に?
何を⁉︎
親友が誰かに情報漏洩したという事実以前に〝脅されて〟というパワーワードが引っかかるが……。
そこはまあ……置いておこう。
しかし、バラされて俺が困ること…………あ。
「ああっ!」
おいおいおい……! まさかッ⁉︎
俺が絶賛就活浪人中だってことを……。
誰かにバラしたのかっ⁉︎
口が軽いにもほどがあるだろ…………コイツ。
でも……一体誰なんだ?
こんなこと知って……え、何?
脅しの材料にでもするつもりなのか?
「う~~ん……」
新がバラしたということは俺と顔馴染みで、この事実を知って得をする人物……。
……そんなやついるか?
冷静に考えれば考えるほど、分からなくなる。
当てはまる人物に全くの見当がつかんのだ。
とにかく……一刻も早く新に連絡して、誰に吐いたのか、聞き出さなければならん。
そう思った矢先だった。
/テンテンテテテテテテン♪/
「うおっ⁉︎」
前振りもなく、着信音が部屋中に響き渡った。
「……えっ⁉︎ 理沙奈先輩?」
スマホの画面には桐嶋理沙奈。
先輩のフルネームが表示されていた。
「な、なんで⁇」
予想外な相手に多少動揺しながらも……すぐさま応答ボタンをタップした。
「あっ、もしもし……」
『久しぶりね……達樹くん』
高校時代の部活の先輩で俺と同じく大学進学を機に上京した、所謂……上京組の一人。
大学は違えど、同じ上京組のよしみ……よく一緒に飲みに行く仲でもあった。
「理沙奈先輩……」
久しぶりに聴く先輩の声は相変わらず透き通るような綺麗さで……耳もとから癒される、そんな感覚に陥れる——
突然過ぎる……彼女からの電話。
これがのちに自分自身を数奇な運命へと誘う、そんなきっかけになろうとは……こんときの俺は知るよしもなかった。
そして……この電話から一週間後を境にね?
俺は身をもって知ることとなる。
縁とタイミングと流れ。
この三つが人生を左右する上で最も重要であることを。
不確定な人生だからこそ。
なんでも起こり放題であることを。
就活浪人という状況が死にたくなるほど……嫌いだった。
けど、今思えば就活浪人だったからこそ、引き寄せることができたのかしれない。
*
よし、集合時間15分前。
スマホに表示された時刻を確認し終えると同時に、集合場所の居酒屋前へ到着した。
ここらへんは新幹線や地方鉄道の駅と目と鼻の先ということもあってか、地方の田舎街とは思えないほどビルが隣接している。
「流石に……まだ来てないか」
1週間前。
突如としてかかってきた理沙奈先輩からの電話。
内容は彼女からの要望で、地元に帰省するから久しぶりに飲まないか?という誘いを受けた。
最初は、自分の現状を先輩に知られたくなかったというプライドから、このお誘いを断った……が。
意味深なLINEを送り付けてきた新に問いただすとなんと。
なんとだよ?
俺の近況を聞き出していたのは理沙奈先輩だったらしく。
その理由を聞くため、すぐさま彼女へ連絡し……そんなこんなで今日を迎えた。
半年? いやもう一年ぶりなのか……。
こうして先輩とサシで会うのも。
去年は就活とか、まぁ色々あって、こうして誰かと飲みに行くのも控えてたからな。
しかも相手は、あの桐嶋理沙奈。
我が魚住高が誇る高嶺の花。
相手が相手ということもあり、ここ2、3か月放置し伸ばし続けていた自分の無精髭をやっとこさ剃り落とした状態でこの場所に来ている。
まぁ、ここ最近は……誰かと会う予定もなく、清潔感を維持する理由もなかったからな。
久しく日の目を見なかった顔の素肌に、懐かしさや違和感を覚える自分がいた。
……それにしても、俺が就活浪人だということを知ったのにも拘わらず。
なんで先輩は俺のことを誘ってきてくれたんだろう?
うーーん……大凡だけど。
俺の現状を使ってね?
久しぶりに小バカにしたいからって感じかな?
先輩、俺に対してサディスティックな所あるし……。
だけど、いくら就活浪人になったからといっても。
異性に対する接し方のマナーを忘れたつもりはない。
異性との待ち合わせは男子側が先に来るべし!
これが女子とデートするときに気をつけるべき点だといっても過言ではない。
今回はデートというわけではないが、どんなときも俺はマナーを忘れない心構えは持っている。
まだ集合時間前で先輩も来る様子もないし、音楽でも聴きながら気長に待つか…と白パーカーのポケットに入っているAirPodsを取り出そうとした瞬間だった。
「来たわね」
「……えっ?」
なんの前振りもなく……背後からスッと現れた先輩は俺に驚く隙も与えなかった。
「り、理沙奈先輩……」
透明感際立つ肌や上品さを意識した大人なナチュラルメイク。
しかし、それ以上に黒のオフショルダーニットのワンピースを着ているせいで、一際目立っている彼女の豊かな曲線美、そして、余計に加わるセクシーさ。
このセクシーさの理由として挙げられるのは彼女が着ているワンピースがミニ丈で、長くて細い脚の肌が丸見えであるから。
さらには、お高そうなショルダーバッグに、ハリーなんとかで買ったようなダイヤモンドの美しさや輝きを引き出しているネックレスと、小道具も充実したものとなっていた。
例えるならそう……まるで性の喜び知り、一皮剥けた女性のような……そんな風貌だ。
「え、なに?」
「い、いえ……お久しぶりです。もしかして……俺より先に着いてました?」
動揺する自分を悟らせないよう、はぐらかすかのように訊ねる。
「安心して。私もここに着いたのはつい五分前、だから紙一重の差よ」
「いや、でも……5分待たせてるじゃないですか……すみません待たせちゃって」
俺より先に。
20分も前に集合場所へやって来ていたという先輩。
数秒ほど前……異性との待ち合わせは男子側が先に来るべし! と今日の格言並に息巻いていたことが裏目に出てしまっている……軽く面目を潰された感覚だ……。
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