マナ
マナというか、氣というか、そういうのはあると信じています。あるほうがかっこいい。
「……って感じ!」
嬉しそうに笑っている渚が憎たらしい、そんな大事なことをなぜ今言うのか。
「言うのおせーよ」
「そう? あのときじゃあ信じなかったと思うよ。……登真ってさ幽霊なんていない派じゃん? そういうのは家鳴りだとか錯覚によるものだって言うでしょ? だから実際にここにきて、僕に会うまでは信じれなかったと思うんだ」
まあ、確かに信じることはできなかっただろう。渚のことをじゃなく、そのシャルネさんという人のことをだ。怪しすぎるだろ、逆によく信じることができたものだ。
「それでも、本当に最後になるかもしれなかったんだから、会って話してからでも遅くなかったんじゃねーの?」
「決意には賞味期限があるんだよ。あの日にあの選択をしていなかったら、僕はきっと一生後悔していたと思う。」
静かなトーンだったが重みを感じた。渚は渚なりに、しっかり考えて出した答えなのだろう。まだ腑に落ちていないけれど、もういい。また会えたことに感謝しよう。
「わかったよ。じゃあもうシリアスな感じはやめようか」
「うん。でも、本当にごめんね。すごい迷惑をかけたよね」
「もういいよ。ただ、遺書なんて二度と書くなよ。もう絶対読まないからな、あんなもの」
絶対にな。俺が強く念を押すと、渚はわかってるよと笑った。薄暗かった空は、日が昇り始めていた。久しぶりにいい天気だ、と思う。
「ところで、そのシャルネさんって人にはこっちで会えたのか?」
渚の話を聞く限り、すんごい魔法使いなのだろう。一度会ってみたい。
「会いたいんだけどね。まだ会えていないどころか、話すら聞かないんだよねー」
「ほーん。話すら聴かないってのはなんか変だな。まあ、一緒に探してみるか。……それより早く魔法とか教えてくれよ。とりあえず、ステータスオープンとかしちゃうのか?」
シャルネさんのことも気になるが、今は魔法を使いたくて仕方がない。せっかくこっちにきたんだ、炎のひとつぐらい出さねばならん。期待に胸を膨らませるが、渚は冷めた目でこちらを見ていた。
「ゲームじゃないんだから、ステータスオープンなんてものはないよ。とりあえず、瞑想でもしなよ。魔法を使うには、まず自分の中のマナと、自然の中のマナを感じること。」
軽く一蹴され、瞑想という地味な作業を強いられた。口答えなどしたら長い説教が始まりそうだったので、大人しく瞑想をしてみることにした。楽な姿勢で座り目を閉じる。静寂なときの中でマナというものを探す。……マナ。マナ。マナマナマナマナ。ナマ。
「ダメだ。全然わからんナマ」
「ナマ? ふざけてんの?」
「いや、でも本当にマナなんてもの存在してんのか?正直全くイメージがつかない。」
未知の世界すぎる。今までと身体が変わってる様子もないし、イメージがつかないから集中することもできない。もしかして俺は魔法を使えないのかもしれない、そんな不安が頭をよぎる。
「大丈夫、マナはあるよ。そもそも、僕の召喚魔法で登真はこっちにきたんだから。登真はすでに魔法を見て感じているんだよ。だからマナがあることを、まずは信じること。氣って言ったほうがわかりやすいかな? 僕にできたんだし、登真にもできるよ」
ふむ、少しやる気を取り戻した。まずはマナの存在を認めよう。氣って言われると、確かにわかりやすいかもしれん。氣の流れ、つまりそれがマナってことだな。さっきよりはイメージができる。頭の中を整理したところで、もう一度集中してみることにする。柔らかい芝生の上で、澄んだ空気をゆっくりと吸い込む。目を瞑る。呼吸を整える。……昔、渚と瞑想をしていたことを思い出す。自然を感じながらするのは初めてではない。
「いい感じだね。頃合いを見て、僕のマナを少し登真の身体に流すよ。登真はその流れの感覚を覚えること。集中して制御してね」
渚はその助言を最後に、まるで存在を消したかのように静かになった。まるでマイナスイオンが出ているかのような心地の良い空間だ。リラックスができたところで、意識を呼吸に向ける。
腹式呼吸を用いて、ゆっくり吸って、ゆっくり息を吐く。長く、長く。
何度も何度も、それを繰り返す。
鳥の鳴き声や風の音が意識の外へ。
息が身体の隅々を巡る。
「いくよ」
渚の手が俺の背中に触れた瞬間、身体中にエネルギーが駆け巡った。
やっと異世界ぽくなってきました。