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僕らは異世界生活に憧れる  作者: 山波 藍
第一部
8/34

輪廻転生

ユニークユーザーが増えてきてすんごく嬉しいです。これからも頑張ります。


「そうか……。そう、なんですね」


「そうだよ。興味ある? あっちの世界」


 あー、なんか本当な気がしてきた。よく見るとシャルネさんって、現実が似合わないっていうか、魔法とか使ってそうだもん。ダメだ、もう異世界の住民にしか見えない。


「めちゃくちゃあります。異世界ってことですよね、やっぱり魔法使いまくりですか? 行けるんですか、行けるんですか?」


 すごい早口になっていたと思う。まるでアニメを語るオタクのように。

 

「落ち着いてよー。もうちょっとこっちきて」


 僕は言われた通りにシャルネさんに近づく。少し手を伸ばせば触れるくらいの距離で、シャルネさんは僕の胸に手を当てた。やばい、いま絶対鼻息荒かった。落ち着かなきゃ、そう思った瞬間、触れている部分が青く光り、僕の鼻息はさらに荒くなった。なにこれ、魔法じゃん、魔法じゃん。なんか身体が軽くなった気がする。飛べそう、今なら飛べそう。僕のボルテージは上がりまくっていた。暴走モード突入である。


「輪廻転生の術式を組み込んだよ。ここはマナ濃度が低いから、長い時間効力を持続できないけど。まあ24時間以内に死ねば、行けるよ、あっち。」


 僕はもう完全に信じていた。輪廻転生、術式、マナ濃度。ダメだ、かっこ良すぎる、ドーパミンがドパドパ溢れ出ている。もう死ぬ、今すぐ死ぬ。死んで転生する。絶対転生できる気がする。よくわかんないけど身体が理解している、そんな感覚だった。理屈じゃないのだ。


「わかりました、それだけでいいんですか? 何か必要なものとかありますか? あと死に方ってなんでもいいんですか? あんま身体を傷つけないほうがいいとか、あ、でもトラックで轢かれたりナイフで刺されたりするのが一般的なのかなやっぱり」


 僕は自分の身体を観察しながら色々聞いた。多分また早口だった。


「あっちで渚の身体を形成するためのDNAが必要だよ」


 色々とスルーされた。驚くほどのスルースキルである。シャルネさんは肘をピンと伸ばして、ホットミルクが入っていた容器を差し出していた。


「……血ですか?どのくらい必要ですか?」


「ちょっとで大丈夫。私が切ってあげるよ」


 僕の手首にシャルネさんの伸びた爪が突きつけられた。え、これで切るの? 切れるの?

 

「いい?」


 自信満々な顔で首を縦にふったが、内心すこしびびっている。まるでiPhoneをフリックするように素早く払われた指は、僕の手首を容易に傷つけた。あー、痛い。そんな簡単に切れるもん? オリハルコンかな? この鋭さは私生活に支障をきたすのでは? などと思いながら、流れる血液を慎重に容器へと垂らした。


「うん、そのくらいあれば十分だよー」


 容器を振るとチャプチャプっとするくらいに溜まった。やっぱりこういうの見ると手の力が抜けるというか、あまり得意ではない。手首の傷に目をやる。痛そうだ、多分リストカットの跡だと思われるかな。


「……あの、あっちの世界って、召喚魔法とかあります?勇者召喚! みたいな。異世界から、みたいな」


「あるよー。でも習得は難しいと思うよ。異世界からの召喚は特に」


「でも不可能じゃないってことですね」


「うん。でも召喚できるのは契約を結んだ対象に限るよ。契約について決まった形式はないけど、お互いに認めていることが重要だよ」

 

 ほう、なら安心だ、思い残すことはない。登真とは盃を交わしたことがある、盃事はどんな契約書にも勝る、日本最大の契約儀礼だ。期待に胸が高まる、ニヤニヤが止まらない。感情が爆発してやがるぜ。


「ありがとうございます。じゃあ僕行きますね」


「はーい。じゃあ私も戻って渚の器を作っとくよ」


 軽く会釈をすると、小さく手を振り返してくれた。また明日ね、と言わんばかりのシャルネさんの姿を見て、聞きそびれていたことを思い出した。


「シャルネさんは、一体何者なんですか?」


「なんだと思う?」


「……女神的な?」


「ふふ、そうかもね」

 

 そうだよ、とは言わなかったが、僕からしてみればシャルネさんは女神だった。異世界を行き来できるほどの人だ、イレギュラーなのは間違いない。これ以上の質問は野暮だと思ったし、あっちに行ったら自分で探そうと思った。


「では、本当に行きます。また会いましょう」 


 シャルネさんはまたねと優しく微笑んだ。

もう一度会釈をして、強いお酒とタバコを買ってから家路をたどった。実は、練炭自殺に必要なものを揃えてある。その気になればいつでも終わらせることができる用意をしておくことで、自分に余裕を作ってきた。実際にそれを試みたことはなかったが、きっと僕はこの日のために準備をしていたのだろう。


 家に着いて必要なものを車に乗せてから、登真に手紙を書く。じっくりと考えてからペンを走らせた。


『登真へ  

僕、異世界転生するよ。登真はまだ死なないでね、きっとまた会えると思うから。詳しくはまた話すよ。最低でも5年くらいは待ってて。絶対だよ。またね。    渚より』

 

 うん、こんなもんかな。このボロアパートとも今日でさよならと思うと、なんだかいいアパートに見えてくる。長い間くそお世話になりました。綺麗に折りたたんだ遺書を、机の真ん中に置いて立ちあがる。忘れ物なし。


「それじゃ、行ってきます」


 誰もいない部屋を見つめ、静かにドアを閉めた。すぐ登真がくるだろうから鍵は開けておく。もうこんな時間だし、あそこなら誰もこないだろう。人通りの少ない夜道をドライブするのは気持ちがいい。あっという間に目的地に着いた僕はさっそく準備にとりかかる。隅々まで目張りをして、大量の睡眠薬を強いお酒で流し込む。んー、きつい。勢いに任せてガブガブ飲んだ。時間も時間だし、実はもうけっこう眠い。七輪の練炭に火をつける。もう仕事も終わった頃だろう、トークの1番上にいる登真に電話をかける。


 3コールほどして登真の声が聞こえてきた。


「もしもし? 仕事終わった? ……大晦日に夜勤なんて大変だったね、お疲れ様。……僕はのんびり過ごしてたよ、あけましておめでとう。……僕ね、今からちょっと死んでみるよ。登真には電話しとこうと思って。……嘘じゃないよ、まあいきなり言われても信じられないよね。僕の家に遺書置いてあるから、ちゃんと読んでね。……今どこにいるかは内緒。登真の職場からじゃあ時間かかるし、急いでも間に合わないから気をつけて運転しなよ。じゃあ、またね」


 決意が鈍ってしまう前に電話を切った。七輪の火をぼんやり眺めながら、お酒と睡眠薬をさらに摂取する。このまま気持ち良く眠れそうな気がする。煙の濃度が高くなった車内で、僕は静かに目を閉じた。


渚くんの回想おわりです。

輪廻転生って本当にあるんですかねぇ、、

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