説明しろよ
今は亡き愛犬にもう一度会いたいです。
泣いた。結局けっこう泣いた。よし、落ち着いた。自分ばかりうずくまっているのは癪なので顔をあげることにした。そして渚を睨みつけてみる。渚はやわらかい声色で、まるで子どもを慰めるかのように、落ち着いた? などと優しく声をかけてきた。
「おかげさまでな……。で、どういうこと?」
「うん。なにから話そうか」
「全部だよ」
こっちは喜怒哀楽がごちゃまぜで忙しいのに、こいつの余裕が少しムカつく。もし会えたら一発殴ってやろうと思っていたが、実際に会ってみると喜びが勝って殴る気にならない。ムカつくけどな。
「まあとりあえず歩こうよ。話したいことは山ほどあるけど、時間もたくさんあるでしょ?」
俺の返事を待たずに渚が歩き出す。自ら時間を捨てたやつが何を言うか。勝手なやつだ。俺はとても嬉しそうにため息をついた。
大自然の中を無言で歩きながら頭の中を整理する。なにから聞くべきなのか、わからなすぎて、何がわからないのかよくわからなくなってきた。それにしても本当にすごい自然だ。でっかい木だらけだ。それにでっかい川も流れている。山もでかい。モンハンの渓流みたいだ。
「……ここ、どこ?」
そう、そもそもここはどこなんだよ。てか渚が生きているわけではなく、俺が死んだ説もあるよな。もしかして今から三途の川を渡ったりするのだろうか。そう思うとちょっとこわいぞ。
「異世界だよ。僕らの憧れた、異世界」
まじかよ。本当に本当なのか? いや、正直そうかな? なんて少し思ったりもしたけれども。しかしとても信じられん。だってそんなことありえるか? いやありえない。でもまあ、信じるしかないのか。この状況をほかに説明できないもんな。そう考えるのが一番自然なのかもしれん。いやしかし……
「僕、異世界転生するために自殺したんだよ。遺書にも書いたでしょ? ここではみんな魔法を使うんだよ。だから色々と勉強しながら生活してたんだけど……。今日ようやく登真をこっちの世界に呼ぶ準備ができたから実践してみたって感じ。無事に召喚できて良かったよ」
急に情報量が多すぎる。当たり前のように言うが非現実的なことばかりだ。てか俺召喚されたのか。転生したわけじゃないんだな。つまり異世界召喚? 異世界転移? どっちでもいいか。
「そんな簡単に召喚できるものなのか?」
「簡単じゃないよ! 召喚術で呼び出せるのは契約を結んだ対象だけなんだ。登真を召喚できたのは僕の弛まぬ努力と才能と、昔かわした契約のおかげだよ」
「契約……?」
なんのことだかさっぱりだ。渚に召喚されるための契約なんて、全く身に覚えがない。
異世界ってほんとにあると思います?