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僕らは異世界生活に憧れる  作者: 山波 藍
第二部
33/34

ライカの過去②

投稿はじめて一年が経ちました。

 二人は会話を交わしながら山の奥へと入って行くと、ジルーが襲われた周辺で足を止める。ラークはここで魔物の気配と殺気を明確に感じ取り、周囲への警戒を強めた。経験の浅いライカにはなんとなくとしか分からなかったが、ラークの様子から状況を察することができた。


「……いるな。分かるか? ライカ」


「うん、なんかちょっと危ない感じがする」


 ラークの判断は正しかった。そこはもうジルーを襲った熊の縄張りであり、息を潜めて二人の隙を狙っていたのだ。ライカだけならばそのまま襲いかかっていただろうが、ラークが纏うマナの鋭さに警戒していた。しかし、溢れ出す獣臭はそう簡単に隠せるものではなく、ラークは熊の居場所を簡単に割り出した。


「そこだな」


 ラークは自分の左側の草陰に向かって一筋の雷を放出させた。威力は弱いものの、速さに特化した雷は、熊に避ける思考すら与えなかった。周囲の草陰は焦げ消えたが、姿を現した熊の魔物にダメージを受けている様子は感じ取れない。攻撃を受けて怯むどころか、ラークに向かって一直線に向かっていった。自分が受けたダメージから相手の強さを判断し、警戒を解いたのだ。しかし、それがラークの狙いだった。


「ライカ、俺があいつの気を引くから、お前の魔法で仕留めてみろ」


「私が? でも、あいつ強そうだし、できるかな?」


「できるよ、大丈夫。思いっきりやってみろ」


「……わかった、やってみる!」


 あまり自信がなかったライカだが、ラークの言葉を信じて、近くの木陰に隠れて好機をうかがった。熊はライカに目もくれずラークに飛びかかった。鋭い爪を振り払うが、ラークにはかすりもしない。


 ライカは激しく動き回る熊に確実に魔法を当てるため、呼吸を整えていた。身体の大きい熊に魔法を当てるのはさほどむずかしくない。しかし、攻撃を交わし続けているラークに被害が及ばぬようにするのは簡単ではなかった。熊の攻撃パターンと、それを避けるラークの動きも読まなければならないからだ。チャンスを見失わないように、ライカは神経を研ぎ澄ました。


 一心不乱に攻め続けて疲労が溜まってきた熊は、一度ラークから距離を置いて攻撃の手を休めた。ライカはこの瞬間を見逃さない。体内に留めていたマナを一気に解放し、両手を突き出した。


「くらえ! ビリビリサンダー!」


 最大出力の雷が放たれ、その直後すさまじい衝撃音が鳴り響いた。ラークに気を取られていた熊はこれを避けることはできない。ライカはこの時すでにA級に達するほどのマナ量を有していたため、その魔法を直撃した熊は二度と起き上がることはなかった。ラークはライカに歩み寄り、ライカの頭にポンと手を置いた。


「よくやった」


「えへへー。すごい?」


「ああ、すごいよ」


 これはお世辞ではなく本心だった。魔法を放つタイミングと角度、ラークから見ても全てが完璧だった。そしてなにより、ライカが持っているマナ量はラークに勝るとも劣らず、潜在能力に関してはラークにも計り知れなかった。だからこそ早いときから経験を積ませ、自分の力を自在にコントロールできるようにすべきだとラークは考えていた。どんなにマナ量が多くても、心はまだ幼い。一時の感情の爆発で思わぬ事故が発生しないように、自分の経験と考えをライカに伝えることに重きを置いた。ライカは父と過ごす楽しい時間としか思ってなかったが、自分でも気付かぬうちにラークの考えは正しく継承されていた。小さな子どもは、遊びの中からたくさんの大切なことを学ぶのだ。

まだ一年か、と、もう一年か、の矛盾から抜け出せない。

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