ライカの過去①
7月は私の誕生日でございます。
十年前、ライカの故郷『ウルティア村』では街までの道のりが険しく遠いため、主に自給自足の生活を送っていた。人口は百にも満たない小さな村だったが、だからこそお互いに助け合う思いやりに溢れたところだった。ライカはそんなウルティア村で、父と母、そして村長である祖父との四人暮らしを送っていた。今日も少し古びた木の家で、平和な眠りから目を覚まし朝食を終えたところだった。
「ライカ、準備できたか?」
男の名はラーク。ライカの父であり、ウルティア村の村長の息子だ。恵まれた体格に短い金色の髪の毛が存在感を放っていた。魔法の扱いに長けているラークは、村の安全を守るために周辺の警備を仕事としていた。狩りに出かけることも多く、その際には必ずライカも同行させていた。
「うん! 早く行こ!」
当時ライカはまだ十歳だったが、父ラークとの狩猟が好きだった。ウルティア村に歳の近い友達がいなかったのも理由の一つだが、尊敬する父と共に行動する時間が誇らしかったのだ。人口の少ないウルティア村では、ライカしか子どもがいなかった。ライカと一番歳が近いのは、十八歳の男二人だったため、普通の子どもがするような遊びはあまりしなかった。しかし、ライカにとって狩りは遊びであり、近くの山は自分の庭のようなものだった。
「パパ、今日はなにを狩り行くの?」
「熊だ。ジルーが狩りの最中、マナを帯びた熊に襲われたらしくてな。そいつを狩りに行く」
ジルーは十八歳の男であり、ライカの兄のような存在だ。年齢は若いものの、魔法の心得があり村の中でも頼りにされていた。
「そっか……。ジルーは大丈夫なの?」
「ああ、問題ない。軽い怪我はしたが、すぐに治る。……じゃあ、行ってくるよ」
ラークは玄関に立てかけてある刀を腰にぶらさげ、リリカに手を振った。長く伸ばした赤い髪が特徴的なリリカは、ラークの妻であり、ライカの母だ。
「行ってらっしゃい。気をつけるのよ」
優しく微笑んだリリカは小さく手を振りかえした。今はもう狩猟や魔物の討伐をすることはなくなったが、ラークと結婚する前はリリカも前線に立って戦うことが多かった。だからこそ、その危険性を十分に理解している。それでも笑顔で見送ることができるのは、ラークの強さを知っているからだ。なによりライカの楽しみを奪いたくなかったので、若干の心配を持ちつつも、信頼できるラークに狩猟の付き添いを任せていた。そんな親心など露知らず、ライカは無邪気に笑いながら大きな声で返事をして家を出た。
「ねえパパ。ジルーがやられちゃうってことは、けっこう強い熊ってことよね?」
ジルーが狩猟に失敗して戻ってくるのは初めてのことだったので、村ではちょっとした騒ぎになっていた。ライカはその騒ぎを知らなかったが、ジルーが負けたという事実に少し動揺していた。
「そうだな。もはや熊ではなく、魔物と言っていいだろう。……だから俺が行くことにした、無駄な犠牲は出したくないからな」
「……私も一緒で、邪魔じゃない?」
「ああ、大丈夫だ。でもな、ライカ。どんな時でもどんな相手でも、決して油断はするな。狩りをするときでもそうだが、魔物と戦う時は特に、な」
ラークにとってライカは、やっと授かることのできた大切な子どもであり、いずれは皆をまとめあげる立派な村長になってほしいと思っていた。危険を伴う魔物との戦闘の場に連れて行くのもそのためだ。自分の考えや知識をしっかりと受け継がせ、人の上に立つための器を育てた。
しかし暑すぎる。




