駆け引き
お久しぶりの更新です。
「ゆっくりと休んでいたというのに、私を起こしたのは貴様らか。……まあコレももう替え時だった。選べ。私の栄養になるのはどっちだ?」
オークの頭を踏みながら静かに話しかけてきた魔族に、渚は落ち着いた様子で返事をした。
「残念だけど、どっちもならないよ。ところで、なんで魔族がこんなところにいるの?」
「教える必要はない」
「そっか。まあ教えてくれなくても、なんとなく分かるけど」
「ほう、よく喋るハエだ。決めた。貴様は殺す。もう一人の方の身体をいただくとしよう」
「多分だけど、君の特異魔法は相手に寄生すること。そしてそれは自分より格下の相手に限る。戦闘にはあまり向いてなさそうだね」
特異魔法? 聞いたことない言葉だったが、そりより、なんで渚はそんなに余裕があるのか、俺にはわからなかった。相手を煽るようなことを言ってどうする? いまお前は魔法を使えないんだろ? この状況をなんとかする方法があるのか? ないだろ、どう考えても無理だ。
「だからなんだと言うのだ? 雑魚が私を分析したところで、なにができる?」
「そんなんじゃ、僕を殺せないってことだよ」
「本当によく喋る。少しばかり会話を楽しもうと思ったが、辞めだ。鬱陶しいハエは殺すに限る」
「できるかな? 気づいてないみたいだけど、僕、綾瀬渚だよ。聞いたことぐらいあるでしょ?」
「……つまらぬウソだ。貴様からそんなマナは微塵も感じない」
「そうだね。それほどマナの扱いに長けているってことがわからない?」
少しばかり沈黙が続いたが、渚は一体なにを考えているんだ? そんなハッタリをかましたところで、魔族が手を引くとは思えない。確かに、さっきまでの余裕は消えていて、緊張しているようにも見える。だけどこの状態がいつまでも続くわけがない。今は警戒してくれているが、それも時間の問題だ。このハッタリ一つで乗り切るには無理がある。
「……マナを消す意味がない。貴様が本物だとして、私を殺さぬ意味もない」
「理由は二つ。一つは単純に、僕はいま機嫌がいい。登真が一人で凶暴化したオークを倒せて嬉しいんだよね。短期間でここまで強くなれるとは思ってなかった。あと一つは自分で考えなよ」
「下らぬ。危険を冒してまで貴様らの国に立ち入った私が、なんの情報も得てないとでも思うのか? そんなものは、ここで私を見逃す理由にならぬ。もう一つの理由など、考えつかなかっただけだろう。」
「やっぱり情報が目的だったんだね。まあ、明らかにスパイに向いてるもんね、君の特異は。そうだね、多分なんの情報も得られてないかな。君が僕らの国に潜り込む前に、返り討ちにあってここまで逃げてきた。雷の剣士から。合ってる?」
「……何者だ、貴様」
「だから、綾瀬渚だって」
ニッコリと笑う渚とは裏腹に、さっきまで余裕を持てあましていた魔族は緊張しているように見えた。いや、明らかに渚を警戒している。しかし俺にはなにを話しているのかよく分からなかった。ただ、渚はブラフが恐ろしくうまいということだけは分かる。正直、俺でさえ本当になにかあるんじゃないかと、そう思っている。
年内の更新はこれで最後になります。良いお年を。




