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僕らは異世界生活に憧れる  作者: 山波 藍
第一部
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墓参り

ちょっとずつ、こまめに、更新していきます。

年越しは誰かと一緒にいたいですね。

 また哀しい気持ちで年が明けた。テレビの向こう側のやつらは嬉しそうに笑っている。俺はまだ明けましておめでとうなんて気分にはなれない。


 さて、今年も新年早々お墓参りだ。


 黒い裏起毛のパーカーの上に黒いダウン。黒いゆるいジーンズに、黒いスニーカー。冬の私服はいつもこれだ。服に迷う時間もなくなるし、見せる相手もいないのでなんでもいい。


 冷え切った車に乗り込みエンジンをかける。


「さむっ」

 

 人はなぜ独り言を言うのだろう。なんかつい言っちゃうんだよな、まあどうでもいいか。そんなことより早く暖房が効いてほしい、などと考えていたら渚が住んでいたアパートの近くのコンビニに着いた。あいつの好きだった缶コーヒーと煙草を買っていく、これは毎年かかさずやっていることだ。しかし、こんな時間にも関わらず多くの人が外を歩いてるが、まあ除夜の鐘でも鳴らしに行くのだろう。……初詣なんて久しく行ってない。最後に引いたおみくじは、確か末吉だった。


 渚のお墓は山の小さな畑にある。あいつがここで死んだから、ここに元々あった大きな石に綾瀬渚と書いただけのお粗末な墓石だ。


 しばらく車を走らせて渚が眠る畑についた。この畑を売ってくれたおじいちゃんはまだ元気でいるだろうか。今思うと趣味程度で農業をしてみたいなんて理由でよく譲ってくれたなあ、と思う。土地の運用について難しいこと言ってたけど、渚に任せっぱなしだったので俺はよく分かっていないのだ。


 やっぱりここにくると色々思い出す。本を読んで見よう見まねで作った出来の悪い野菜や果物の味も。渚と過ごした時間が、昨日のことのように感じる。


「俺はまだ死ぬ覚悟もできてないよ。もう生きていくことが怖いのにな」


 渚へのお供え物をレジ袋ごと墓石の前に置いて座り込んだ。いつも一緒にいた。夜通しゲームしたことや、居酒屋でアニメの感想を話し合ったことも、原付き2ケツして海を見に行ったことも、全てが楽しかった。過去は美化されるなんてよく言うが、俺の中ではすっかり神格化されている。


「一本もらうよ」


 渚の煙草に火をつける。……やっぱり煙草の良さはわからん。しかしここであいつの煙草を吸うのが俺の大事な恒例行事なのだ。この匂いとか、煙草のデザインとか。懐かしいなあ。


 お線香代わりにもう一本煙草に火をつけて、墓石の前に置いた。この煙草が消えたら帰ることする、けっこう寒いし。そう思いながら立ち上がる細い煙をボケーっと見つめた。


 10分ぐらい経っただろうか、火は消えていた。ここはいつも静かだ。田舎の山奥だから正月で浮かれてる人の声を消してくれる。


 重い腰をあげ、持参してきたペットボトルの水を墓石と吸い殻にかける。火の不始末があるといけない。濡れた吸い殻は墓石の隣に置いていく。二人で一服した跡を残したいから。


 ポケットから車の鍵をとりだし帰る準備をしていると、渚の声が聞こえた気がした。思わず振り返ったが、ただ墓石があるだけだった。……風で揺れた木の音か。何を期待しているのか、落ち込み俯いた時、自分の足元が光っているのに気づいた。めちゃ光っている。なんだこれ? 一瞬わからなかったが、心霊写真とかによくあるオーブみたいなものだ思う。でもなんか、渚っぽい気がする。すげえ懐かしい感じがするし、こんな寒い夜なのに暖かいし、不思議と怖いという感情もない。


「渚?」


 オーブに向かって話しかけてみると、光は急激に強くなり、巨大な魔法陣らしきものが広がった。これはさすがに意味がわからん。でも綺麗だ、こんな幻想的なもの見たことがない。もうなんでもいい、どうにでもなれ。そう思った瞬間、さらに強い光に包まれ、あまりの眩しさにギュッと目を閉じた。

煙が目に…染みやがる…

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