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僕らは異世界生活に憧れる  作者: 山波 藍
第一部
14/34

渚の住む街

ヨーロッパの名所をぶらぶら歩きに行きたいです。

 しばらく歩くと大きな城壁と門が見えてきた。現代社会とはかけ離れたそれは、異世界へ召喚されたことをさらに実感させた。


「……すっげー」


 目の前まで近寄るとそのスケールのでかさに圧倒される。まるでヨーロッパの世界遺産みたいだ。槍を持ち、鎧を着た門番らしき人物が2人ほど立っているが、入城許可みたいなのは大丈夫なのかと不安げに渚を見つめる。


「お疲れさまです渚さん。……そちらの方は?」


「お疲れ様です。僕の古くからの友人だよ。入っていいかな?」


「もちろんです。どうぞあちらへ」


 門番は手のひらで小さな扉のほうを示した。ああ、そっちか。てっきりこのでかい門が開くかと。てかこいつ、顔パスで通れるのか……。入城許可なんてものは杞憂に終わった。


 門番にお疲れ様です、と軽く会釈をし、前を歩く渚についていく。門をくぐった先には壮大な景観が広がっていた。前にテレビで見たイタリアの街並みを彷彿とさせ、つい観光気分になってしまう。


「本当にきたんだなぁ……」


 辺りを見渡し独り言のように呟いた。これから先ちゃんとやっていけるだろうか、と不安はあったが、この光景は心躍るものがある。


「すごいよね。興奮するでしょ?」


「めちゃくちゃ興奮するな。じゃあさっそく、寝るか!」


「うん! 寝る……寝る?」


 そう。さすがにもう眠い。昨日から寝てないのだからあたりまえだ。ゴブリンとの戦闘で疲れたし、なにより街に着いた安心感からか、とてつもない睡魔が襲ってきた。渚は拍子抜けしたような顔をしているが、この眠気には勝てない。


「えー。もうちょっと頑張ろうよ。街を散策しようよー」


 もちろん散策をしたい。だが今は一刻も早く横になりたい。


「無理。俺がいま一番行きたいところを教えてやろうか? 布団だ」


「しょうがないなあ。じゃあ宿に行こうか」


 しょうがないだと? 年明け早々、お前の墓参りをしていて寝不足なんだよ。


「渚んち泊めてくれよ。別に宿でもいいけどさ」


「あー、僕ずっと宿を借りて暮らしてるんだよ」


「ずっと宿!? え、宿代どうしてんの?」


「お金はたくさんあるんだよねー。僕みたいな冒険者は家にいる時間少ないから、宿を一室ずっと借りてたほうが、掃除もしてくれて楽なんだよ」


 なんという無駄遣いを……。冒険者はみんなこんな感じなのか? わからん。


「まあいいや。早く案内してくれ。もうヘトヘトだ」


「わかったよ、ついてきて」


 渚についていきながら街を眺める。素敵な街並みだ、日本とは雰囲気がまるでちがう。ただ歩いているだけで楽しいのだから、渚が早く街を案内したくなる気持ちもわかる。ぐっすり寝てから散策するのが楽しみだ。……さっきからチラチラと視線を感じるが、なにかおかしいところがあるのか? 服装か? ここの住民と大差ない気がするけどな。なんだか恥ずかしくなったので、少し俯きながら歩いた。


 それにしても、この数時間で本当に色々なことがあった。いきなり異世界に召喚されて渚に出会って、信じられないことを聞かされゴブリンと戦うことになって……。だけど夢とは思えないほどリアルで……。まあまた渚に会えたことは素直に嬉しい。でもこいつ本当に勝手だよな。あっちにいたときからそうだった、いきなり朝起こされて旅行に行くとか言いだしたり、集合時間にはほぼ遅れてきたり、ほかにも……。


「ついたよ!」


「ん、ああ、もうついたのか。……すげえ立派な宿だなおい」


 観光客が数万円出して泊まるような外観だ。もっと地元の古びた宿を想像していた。こんなとこをずっと借りているなんて、本当にお金とか大丈夫なのか?


「いいとこでしょー。まあまあ、こちらへどうぞ」


 渚に連れられ中に入る。高級感のある内装デザインが逆に落ち着かずそわそわしてしまう。まじで一泊いくらするんだここ。


「お帰りなさいませ渚さん。……お連れ様ですか?」


 短い白髪に白髭を生やした初老ホテルマンがお出迎えをする。珈琲が似合うようなイケオジだ。


「お疲れさまです。はい、これから僕と一緒に部屋を使わせてもらっていいですか?」


「もちろんです。ではこちらがお部屋のキーになります」


 初老ホテルマンはごゆっくりどうぞとお辞儀をしてきたので、お疲れ様ですと軽く会釈をして渚についていく。なんだかデジャブだな。エレベーターらしきものに乗り、上へのぼっていく。


「めちゃくちゃエレベーターだなこれ」


「そうだね。これは魔力で動いているんだけどね。まあエレベーターだね」


「ほー」


 適当な説明を適当に流す。おそらく最上階まであがり渚の部屋へ案内される。すごく広い部屋で、窓から眺める街並みも最高だ。ご丁寧に本棚まで用意されていて、魔導書らしきとのがずらっと並んでいる。まあもう驚かない。今はなによりベッドが魅力的に見える。渚の部屋にはダブルサイズのベッドが二台置かれていた。


「どっち使っていい?」


「そっち自由に使っていいよ」


 渚が指差したほうのベッドへ倒れるようにとびこんだ。気持ち良すぎる。シャワーを浴びようと思っていたがこのまま寝てしまいそうだ。


「てか、なんでベッド二つあるの?」


「最初から登真をこっちに呼び出すつもりだったから、二つある部屋選んだだけだよ。それは登真用。気にせずごゆっくり。でも寝ちゃうまえにお風呂に入れば?」


「ああ……。五分経ったら入るわ……。五分だけ……」


「絶対入らないやつだね、それ」


 渚はその後もなにか話していたが、意識が朦朧としてきてよく聞こえなかった。本当に疲れた、もう動ける気がしない。ベッド最高……。五分、五分だけ、あと五分……。

あと5分。行けたら行く。今度飲もーね。

信用できない言葉たち。

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