告白してないのに勘違いでOKされて。
と、そうだ、購買部で買い物があったんだった。
玄関で靴を履き替えて家に帰ろうとしたところで用事を思い出した。
いちいち、また靴を履き替えていくのも面倒なので、校舎の裏側を通っていく。
この道を通れば靴を履き替えずに行けるからだ。
校舎裏を通る時、一人の女子生徒が立っているのが見えた。
その女子生徒は同じクラスの女子で最近席が近くなったのでよく話すようになった照井茜だった。
何してるんだ?こんなところで?
そう思ったので一声ぐらいかけようと茜に近づく。
すると彼女も俺に気づき、少し驚いたような反応を見せたと思うと、一瞬嬉しそうな表情をしたように見えた。
「まさか、アンタだったのね、連」
俺——会田連に笑顔で言ってくる茜。
だけど、こいつの言っていることはよくわからない。
俺が疑問に思っている間に、茜はどんどんと話を進めていった。
「いいわよ。付き合っても」
えっと…‥本当にどういうこと?
付き合ってもいい?
それって、恋人同士って意味でか?
俺、告白されてるのか?
そんなことを思っていると、ふと茜の手元に視線が行った。
その手には何やら手紙のようなものが持たれている。
校舎裏。
手紙。
一人で待ってる。
さっき茜は「付き合ってもいい」と言っていた。
普通自分から告白するなら「付き合って」だよな。
「付き合ってもいい」だと告白に対して了承しているような…‥。
そこまで考えて理解が追いつく。
もしかして、俺、凄いやらかしてるのでは?
多分誰かが茜に告白しようとしていたのを、茜がその人を俺だと勘違いしてるよな。
一体、どうすれば…‥・。
「何よ、何で黙ってるの?
もしかして、あたしが断ると思ってたの?
正直に言うとあたしはまだ、アンタのことが好きじゃないと思う。
でも、気になってるのは本当だから勘違いしないで!」
それって、本当か?
いや、告白されたからそう思っているだけだろう。
そんなことよりも早く謝らなければ。
「ごめん。多分人違いだ。本当にごめん」
頭を下げて深く謝る。
こいつにとって、本当に悪いことをしたと思う。
殴られても仕方ないかもしれない。
返事が返ってこないので頭を上げて茜を見て見ると、何が何だかわからず、ぽかんとしていた。
「えっと、その手紙、俺が書いた奴じゃない」
簡単に説明すると、茜は手に持つ手紙を見た後にだんだんと顔を赤くしていく。
どうやら理解はしてくれたみたいだ。
「本当にごめん」
もう一度深く謝る。
「な、…‥」
茜は顔を真っ赤にしたまま口をパクパクとさせているだけで、言葉が出てきていない。
そんな時、一人の男子生徒がこちらにやってきた。
「ごめん。お待たせ…‥何で会田がいるんだ?」
俺たちの元にやってきたのは同じクラスの吉岡。
「えっと…‥」
どう説明したものかと悩む。
恐らくはこいつが茜に手紙を渡した人物だろう。
そうなると、こいつにも謝らないといけないな。
「吉岡、ごめん」
茜にしたように深く頭を下げて謝る。
「何がだ?
それより、俺は今から照井さんに話があるから外してくれないか?」
「分かった。明日また改めて謝罪と説明する」
そう残して俺はその場を立ち去った。
逃げるような形になってしまったが、明日きちんともう一度謝ろう。
特に茜には本当に悪いことをしたな。
まぁ、吉岡は俺よりも顔も成績もいいし、俺なんかよりは全然いいだろ。
多分、お試しでOKしただけだと思うしな。
でも、あいつとはずっと友達でいたかったけどな。
流石に無理かもしれない。
俺は逃げるようにその場を立ち去った後、途中謝罪の品を買い、家に帰った。
次の日、謝罪の品を手に、教室に入る。
既に茜は来ているようで自分の席に座っていた。
自分の席に向かう途中で茜と視線があう。
「昨日はごめん。それで——」
「それはいいから、ちょっと来て」
早速だが謝罪の品を渡そうとしとところで話を遮られてしまった。
そしてそのまま教室の外に出ていくので、慌ててついて行く。
教室から出て、廊下の奥の、あまり人の来ないところまでやってきたところで茜が足を止めこっちを見てきた。
「…‥」
無言で俺の方を見る茜。
何か言いたそうにはしているが、先に謝っておこう。
「昨日は本当に悪かった。
それで、これ、お前の好きなチョコ。
昨日のわびにってわけじゃないけど、出来たら、これからも友達でいてくれるとありがたい」
もう一度きちんと謝る。
こいつはチョコに目がないからこれで許してくれると思う。
ちょっとずるいような気もするが、友達でいたいと思ってるのは本当なので許してほしい。
「別に、あれはアンタのせいじゃないし。
あたしが早とちりしただけだから気にしなくていいわよ。
でも、これは貰っておくわ。
それで昨日のことはなかったことで」
俺の渡した紙袋を受け取りながらいい笑顔でそう返してくれた。
良かった。これで、こいつとは、まだ友達でいられるかな?
まぁ、暫くは気まずいかもしれないけど、時間が経ったら何とかなるだろ。
ほっと胸をなでおろしていた俺に茜が衝撃的なことを言ってきた。
「でも、あたしは連のこと、もう友達として見れない」
その言葉を聞いた瞬間、俺は凄くショックを受けた。
まさか、そんなことを言われるとは全く思ってなかったからだ。
ショックで何も返せずに固まるだけの俺。
そんな俺を気にせずに茜は話を続ける。
「昨日、あれから家に帰って考えて、それで思ったの」
そこで一度言葉を止める。
そして、ゆっくり深呼吸をした後に、俺の目をまっすぐに決意のこもった目で言った。
「あたし、連が好き」
またしても、俺の思考がフリーズする。
嫌われたのかと思ったら、好きと言われるとは思ってなかった。
「えっと…‥」
「いいから話を聞いて」
何か返そうと口だけ開いてみるも言葉は出てこずに茜に止められる。
そして、昨日何を考えたのかを教えてくれた。
「自分が早とちりしたことに恥ずかしかったんだけど、でも、勘違いだって言われてショックだったの。
最初はアンタのことは友達だとしか思ってなかったけど、付き合えないって思った時、凄くショックだった。
それで気づいたの。あたし、連のことが好きなんだって。
だから、あたしと付き合ってくれませんか?」
頬を染めながら告白してくる茜は本当に可愛い。
そう思ったのだが、俺はこいつのことを恋愛対象としてみたことはない。
だから、
「ごめん。確かにお前のことは好きだけど、それは友達としてだから」
今度ははっきりと言葉に出せた。
悲しませてしまうかもしれないけど、これだけははっきりと答えなければいけないと思ったからだ。
だけど、俺の答えを聞いた茜の目から涙がこぼれる。
「そ、っか…‥。やぱっりそうなんだ。
こうなると思ってたけど、やっぱり辛いな」
涙を拭いながら無理に笑顔を作り明るく振舞おうとする茜。
いつもの様子とは全く違う。
そんな様子を見ていると、だんだんと胸が苦しくなってくる。
泣かせるくらいなら——
「あ、あの——」
「それ以上言った怒るわよ」
「やっぱり付き合う」と言おうとしたところで茜に遮られてしまった。
「あたしは同情なんかで付き合ってほしいとは思ってないから」
今だ目尻に涙を溜めながら、しかしまっすぐとこちらを見つめて、はっきりと言った。
「でも、別に諦めたわけじゃないかわよ。
あたしのことを好きにさせて、今度はアンタの方から告白させるから!」
その言葉に全くの迷いはなく。
それを聞くと本当にそうなってしまいそうな気迫で言い切った茜。
「…分かった。俺がお前のことを好きになったときは、必ず告白する」
そう言いながらもさっきの想いの詰まった茜の言葉に既に胸が高鳴っていた。
俺がこいつのことを好きになるのも時間の問題かもしれないな。
ここまで言われて既に気になりだしてるし、こいつ、凄い可愛いし。
だから、その時が来たら、今のこいつに負けないぐらいの想いをぶつけてやろうと思いながら、二人で教室に帰った。