猫の足は意外に速い
「ふぁ〜〜ぁ〜〜・・・・」
おれは10秒間ぐらい続く、今月超特大欠伸を誰もいない路地に響かせた。
ずいぶんのんきそうに見えるかもしれないが、欠伸がでるのもしかたない状況だった。
なんつったって、今は夜の10時!よいこは寝ないといけない時間だ。
で、そんな時間になんでこんなところにいるかは、そんなに深く追求しないでほしい。
なぜってここにいるのはちゃんと理由があるからだ。なんせあのにっくき生き物のせいだ。
どんな生き物かって?いっておくけどファンタジーとかに出て来る魔物的な者じゃないぞ。
ぜったい君たちが人生で5回ぐらいはお目にかかっているはずだ(いや、もっとあるかな?)
そう、猫のことだ。
猫がなんでにっくきなのかって?そんなの簡単なことだ。家に帰る鍵を取られたからだ。
俺(北道 棟蚊『きたみち とうか』)は今日やることを全て終えた夜7時。
寝るにはまだ早い。しかし、夕飯も食べたし、風呂にも入ったし、歯も磨いたし・・・・
することないので散歩に出かけた。その時に鍵をポケットに入れた。
家に人がいるのに鍵はいらないだって?しょうがないじゃん。いないんだもん。
おれには父さんしかいない。母さんは・・・・わかんない。母さんの記憶はない。
いままで、100回ぐらい、「母さんは?」って問いつめたんだけど(もちろん、幼い頃からこういうふうに呼んでいた訳じゃない)父さんは悲しそうに微笑むだけだった。
いま、父さんは東京に行っている。なんでかって?俺も知らない。ただ、朝起きたら「東京に行って来ます」という置き手紙。困ったもんだ。
散歩に出かけた俺は家の前にある川にそって歩いた。おれの短い茶髪が、夜風によって揺れるのが感じる。そのとき、川のガードレールに1匹の黒猫が4本足で立っていた。
おれは、足を止め黒猫を見つめた。黒猫もうさんくさそうな目で俺を見る。
数分ほど沈黙の時間が続いたかと思うと黒猫が、急に声を上げながら俺のジーパンの鍵を器用に取り出し、さっさと逃げて行った。
「あ、こら!!」
俺は走って追いかけた。おれの中1のクラスでは、走りぐらいは「万能」とよばれる。(走り以外ははあんまり良くないが・・・)つまり短距離走も長距離走も得意。
しかし、そんな俺でもかまわないほど、黒猫はすばやく、走って行く。魚屋さんのサンマを盗みだしたがのように。
しかも、人が少ないので黒猫は一直線に走って行く。おれは、なんとか黒猫の姿が見えるぐらいだった。そして、とうとう俺も目がくらんできそうな頃、黒猫は路地に入った。そして、俺も入った。路地に入ってみるとなんと黒猫はおらず、鍵だけが、そこにあった。
おれは、一瞬目を皿にしたがすぐにポケットに鍵を戻したかと思うと、その場に倒れ込み欠伸をした。それが今の状況だ。(三時間も走り続けたのか?という質問にはノーコメント)おれは軽く目をとじた。すると睡魔が槍をもって襲いかかる感じにみまわれた。
__だめだ、家へ・・・・
そう思って、立つとすぐよろめく。気分はオリンピックのマラソン選手だ。
そしてよろめきながら数歩歩いたとき、ドーン!!という音が聞こえた。
その音で覚醒したように、睡魔が俺の目から逃げて行った。ぱっちり開けた目で音の方を見る。
だが、たしかに聞こえて来た方を見ても異常はない。
「気のせいかな・・・・」
そう振り向きかけた瞬間、ドーン!という音がまた響いた。俺は目をぱちくりぱちくりした。
今はきちんと見ていた。まちがいない。そう雷が落ちていたのだ。
雲がでていたのかって?いや、でてなかった。なのに雷が落ちた。だがら俺は目をぱちくりした。
おれは疲れまでふっとんだかのように、現地に向かって走った。
そして、ついた。現場は蔵森公園。走っている途中、何回か雷は落ちたが途中、ぴたりと止まってしまった。おれは、公園の中央へ走った。そこには一つの黒い石が落ちていた。
おれはその石を手に持ってみた。かなり重い。見た目はテニスボールぐらいなのに、おもさはボウリングの球並みだ。おれはこの石を持って帰ろうとしたが、闇を溶かし込んだような黒い石に、彼は両手ですくい上げるようにして持った。石が、胸の中央にくる。
その時、石が大きく震えた。
おれはびっくりして石から手をはなそうとする前に石が飛び出して来て、俺の胸の中にグォンと妙な音をたてて入って来た。とたんに心臓発作でも起こしたように胸が苦しんだ。身体の中に、蛇が入り込んだこの感じ・・・・
そして俺の意識はうすれて消えて行った。