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平穏な生活

 

「胃が痛い……」

「少し休憩されてはいかがですか? カモミールティーです」

「ありがとう、ジード……。だが、国に戻った途端にこの仕事量だぞ。父上容赦なさすぎでは?」

「それは、まあ、はい」


 昨日、俺は国に帰ってきて早々フォリアと魔物狩りをした。

 フォリアは自分が持ってきていた鍛錬時用のズボンスタイル——すまん、女性の衣類の呼び方はドレスぐらいしかわからないから正式名称は知らないんだ——で、見事モーヴという食牛種のような魔物を討ち取ったわけだが……アレ、女性が一人で倒せる魔物じゃなくない?

 その後モーヴを片手に冒険者ギルドへ直行し、冒険者登録を済ませ、冒険者ギルドに屯っていた冒険者たちとともにモーヴを解体。

 ギルド建物前で宴会となった。


 …………胃が痛い。


 フォリアは俺が想像していた以上にヤバい強さを兼ね備えていた。

 なにあれ、身体強化魔法使ってもあんな動きできなくね?ってくらいの動き方したよ。

 いくら獣人の血を引いてても女性が剣一本でモーヴの首を一刀両断とか本当意味わからなくね?

 じゃじゃ馬にも程があるだろ、しんどすぎるわ。

 今日も元気に朝から魔物狩りの依頼取りに、邪樹の森近郊の町まで行っちゃうしね。


「そういえば先程クーリーから、フォリア様が単身でバジリスクを討ち取ったと報告があがりましたよ」

「ぶぅ!」

「リ、リット様!」

「バ、バジリスク!?」


 いや、噴くだろ。

 単身でバジリスク討ち取るとか聞いたらせっかくのハーブティーでも、噴くだろ。

 あれ単身で撃破できる魔物じゃないよな?

【石化の魔眼】が危険すぎて、必ず三人以上のパーティーが推奨されている。

 一人が石化されても、他のメンバーが石化解除薬を持っていれば問題なく戦えるからだ。

 それを単身?

 アホか?

 さすがに止めろよ、なにやっているんだ!?


「魔石が出たそうです」

「! ……バジリスクの魔石か……それはありがたいな」

「はい」


 ああ、メインの報告はそれか。

 いや、でもフォリアの単身バジリスク討伐の方がインパクト強くて、バジリスクの魔石がなんかこう、ふわっとした印象になってしまった。

 バジリスクの魔石は鏡に用いると『石化解除鏡』という魔道具になる。

 薬と違って、石化した者を映し出せばその瞬間石化が解除されるという回復アイテム。

 しかも割れなければ永続的に使用できる。

 石化はバジリスクが有名だが、他にもラミアやドラゴン種の一部が使用してくる魔法。

 そういう魔物に挑むことを前提にするのならば回復薬も持って行くが、それ以外の魔物を討伐しようと出かけた際に遭遇して石化させられてしまう冒険者は毎年数十人にも及ぶ。

 定期的に公国騎士団が巡回して、石化した者を発見、救助活動を行うが中には発見が遅れたことで一部が欠けて元に戻っても欠損したままということも……。

 そして石化回復薬は他の回復薬よりは高価なため、数が確保されるまで倉庫で保管される……ということもある。

 できることならすべての町村に一つは置いておきたいアイテムだ。

 町村から『石化解除鏡』貸し出しの申請は毎年来ているが、なに分バジリスクの魔石は年に一度取れるかどうか。

 なので、『石化解除鏡』が増えるのはありがたい。

 しかもフォリアは『祝福』が使える。

 現地でそのまま『祝福師』として魔石の浄化までやってもらえると、制作までがスムーズになるのだが。


「最初はどうなることかと思いましたが、花嫁交換は我が国にとってもよい結果だったのかもしれませんね」

「うーん……それを決めるのは早計だろう」

「リット様……」


 ジードはにこやかにそんなことを言うが、長い時間をかけて多くの者が取り決めた婚約を、根底から身勝手で覆したのだ。

 なにが最善なのかを多くの者が知恵を絞って決めるのが政略結婚。

 そこに俺たち当事者の感情は伴わない。

 とはいえ、そうあればいいと思う。

 みんなが幸せになるなら、それが一番いい。


「…………」


 でも、フォリアは俺が幸せにしないといけない人だ。

 今のところ、俺も彼女も手探り状態だろう。

 シーヴェスター学園にいた頃は挨拶程度しか交わしたことはないし、会うのはだいたいパーティー会場だから彼女も“淑女らしく”振る舞っていたようだが——。

 ま、考えたところで仕方ない。

 やるべきことはなにも変わらないのだからな。


「ところでもう少し強い胃薬はないだろうか?」

「飲み過ぎも体によろしくございませんよ」

「半年後の三国交流会までになんとか頼む。俺は間違いなく胃に穴が空く自信がある」

「……何種類か探しておきます」


 半年後——卒業し、成人した俺とアグラスト、そして帝国の次期女帝ケイラスが休戦協定十年目を祝して、我が国に集まり交流会を行う。

 提案したのは俺だ。

 俺はこのまま、大国の間でその睨み合いにガタブルしてんのは嫌なんでな。

 だって胃がもたない。

 幸いドワーフの血のおかげでうちの一族、髪の心配はいらないが、俺は血が人間に近いから胃腸がとても弱いのだ。

 ハルスのように気管が弱くない分、無駄に体力もあってこのように長時間事務仕事してても平気だが、それとストレス性胃痛は話が別。


「はぁ……」


 胃痛のない平和な生活がしたい。



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