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エーヴァス公国 2

 

「ついでに魔物の捌き方も教えるよ。基本的に魔物は狩ったその日のうちに食べてしまうんだ。でないとすぐ腐ってしまうからな」

「おお! 肉ー!」


 ご令嬢が魔物のさばき方を教えると言われてこんなにはしゃぐことある?

 やはりこのご令嬢は俺の知っている淑女の規格に当てはめてはいけないね。


「……本当に……魔物の肉の保存が可能ならいいんだが……」

「なにか方法があると思うんだけど……。僕ももう少し調べてみるよ」

「無理しなくていいからなハルス。お前には魔石の浄化依頼をこなすので手いっぱいだろう?」

「う、うん……」


 顔色が少し悪くなっているハルスを諭してソファーに座らせ休ませる。

 部屋に戻れと言ったが「大丈夫だから」と首を横に振るのだ。

 まったく。

 容姿だけでなく、意地っ張りなところまで母上に似てしまって……。


「失礼いたします。クーリーを連れてまいりました」

「おお、来たか。入れ」


 ちょうどその時、ジードがクーリーを連れてやって来た。

 クーリーを見たフォリアは、案の定目を丸くする。


「紹介するよ、フォリア。これはクーリー。君の世話役だ」

「はじめまして、フォリア様。クーリーと申します」

「……ゆ、有翼人種……?」

「はい。わたくしは有翼人種の先祖返りでございます」


 と、綺麗にまとめられた白い髪のひと房を垂らしたクーリーが頭を下げた。

 彼女のような先祖返りは、帝国で優遇される。

 だが彼女は、その帝国で普通の人間の姿をしていた両親を目の前で殺され、我が国に亡命してきた。

 種族主義もそこまでいくと、こういう悲劇を引き起こす。

 うちは種族主義がないに等しいくらいゆるいから、彼女には城で働いてもらっているのだ。


「空を飛べるのか?」

「はい。ですからフォリア様が全力で動き回っても、必ず探し当てますよ」

「おお〜〜〜〜!」


 ……と、いうのがクーリーをフォリアの世話係りにした理由である。

 ここへ来るまでに思ったのだが、フォリアは多分、絶対、大人しくじっとしているタイプではない。

 クーリーのような【足跡探索】【追尾】【探索】などの風魔法に特化しているメイドでなければ世話役は無理と判断した。


「クーリー、フォリアを部屋で着替えさせてくれ。これから魔物狩りに連れて行く約束をしたんだ」

「まあ、これからでございますか? お風呂やお食事は……」

「風呂は夜で構わん。食事は向こうで魔物肉を調理して摂る。クーリー、彼女は普通の令嬢ではない。君を指名したのは君の能力に頼る面が大きい。俺はフォリアに“普通の大公妃”は求めないことにした。服装所作食事含め、全部彼女の自由にやらせていい」

「え」

「!」

「……!」


 さて、では俺も着替えてこよう。

 まあ、さすがに長旅から帰ってきた直後に魔物狩りとか俺はとても普通の成人男性体力なので、考えただけで胃が痛い。

 死にたくないのでヴァーサク連れて行こう。


「ま、待て、リット」

「おん?」

「……マナーの勉強や、ドレスを着ろと言わないのか?」


 どこかおずおずと、初めて遠慮がちに伺いを立ててきた。

 まさかこんな反応をされるとは思わず、逆に目を丸くしてしまう。

 ああ、でも一応大公妃らしくしなければいけないだろうな、っておもっていたのか。


「君、そんなの窮屈でヤなんだろ? ヒールの靴よりサンダルの方が好きそうだし、ドレスよりズボンの方がいいんじゃないか? 町に行ったらお金あげるから好きなの買っておいで」

「……!」


 というより見るからに向いてない。

 シーヴェスター王国の『令嬢』の型にハマらないでしょ、この子。

 どっちかというと模範的『令嬢』はミリーだ。

 この子見てるとアグラストがミリーに惹かれた理由がめちゃくちゃよくわかる。

 アグラストのタイプじゃないんだよな、フォリアは。

 あいつお淑やかで男を立てる系のふわふわ可愛い系がタイプだから。

 ミリーはドストライクだったんだよな、知ってる。

 俺も癒し系が好きなんだけど——最近胃痛が慢性化しててしんどいから——……まあ、それを苦手な人に押しつけるのは違うだろ。

 その人の個性は押さえつけるのではなく伸ばすべきだ。

 他国に対してのみ、まともなフリをしてくれれば……その時だけ我慢してそう振舞ってくれればいいよ、と言うと、フォリアは瞳を大きく見開く。


「じゃ、じゃあ普段は……」

「うちは両親が健在だから後宮のまとめ方は母に学んでもらわないといけないけど、それ以外他国にそれっぽく振る舞う以外好きにして構わないよ。仕事は母上から学んでもらうけどな? それは最低限頼むよ?」

「うん! うん! 働かざる者食うべからずだな!」

「うん、まあ、そんなとこ。でも別にお茶会で腹の探り合いしろとか、魔物狩りをするなとは言わないよ。やりたいなら冒険者登録もして構わない」

「本当か!?」

「魔物を狩ってくれるのはこちらとしても助かるしね。ああ、もし冒険者登録するならギルドを通して正式に『祝福師』の仕事も依頼するからな?」

「仕事……依頼!」


 ククク……冒険者の仕事の依頼と言えば『祝福師』の仕事から逃れられまい……。

 彼女が『祝福師』としての仕事を行えば城の中の評価も上がるだろうしな。

 うん、誰も損しない。


「あ、ありがとう! リット!」

「え?」


 なんでお礼?

 着替えに行こうと扉の前に移動していた俺は、振り返ってフォリアを見る。

 すっごい嬉しそう。


「私は『祝福師』の仕事頑張るぞ! 冒険者になってたくさん魔物も狩る! エーヴァス公国の役に立つぞ!」

「え? あ、うん? まあ、とりあえず魔物狩り行くんだろ? 時間なくなるから着替えておいで」

「わかった!」


 ハルスやジードがやたらと穏やかに微笑んでいるから、とりあえずよかった、のか?

 なんなの、優しい笑顔すぎてこわいわ。


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