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エーヴァス公国へ

 

 ちなみにうちの国はご存じの通り、シーヴェスターから切り離された王族の末裔。

 つまりまあ——。


「ほう、じゃあ()()の遠縁ってことか」

「!」


 父が不敵に笑みを浮かべて声をかける。

 それにグランデ家が目を丸くした。

 ……うんまあ、お察しだよ……。


「我々はドワーフの血を引く異種混血族の末裔でもあるんですよ。血はかなり薄くなっていて、先祖返りもここ数百年一人も出てないんですけどね」

「なんと!」


 別に異種混血族への偏見差別が悪いとは言わないよ。

 もう混じりに混じり合って、混じってない一族なんていないぐらいじゃん?

 それでも“純血”にこだわる理想を掲げるところはある。

 ……帝国みたいなね。

 シーヴェスター王国はそれに反する思想のはず。

 それでもまあ、このように切り離されたりもする。

 仕方ないのだ、本能的に、求めてしまうのだろう。

 同じ血、みたいなものを。

 ただ、同じく『人間』の血も通ってるから、俺はあんまりドワーフの血とかわからない。

 わからなくなっている。

 だから、そこにこだわる人の気持ちは、残念ながらわかってやれない。

 そしてそんな話をするとシーヴェスター王家の皆さんが居心地悪そうになるから、やめてあげて父上。

 俺の胃が潰れる。

 その話持ち出すとめんどくさいからやめて。


「…………」


 そして、俺はアグラストを信じてる。

 だから本当にやめてほしい。

 そんなこと言う方がよほど差別主義に見えるじゃん?


「存じ上げませんでした」

「まあ、今時異種混血族はその辺にごろごろしてますからね。混血じゃない方を探す方が難しいのに、それにこだわるなんて時代じゃありませんよ!」


 フォリア嬢の父君に熱弁して俺の父を黙らせる。

 マジ、余計なこと言うなよ、とにっこり笑って見せれば唇を尖らしやがった、あのおっさん。


「そうですか、そのようなお考えをお持ちの方ならば……。我が家としましては願ってもないことでございます。フォリア、お前はどうしたいのだ?」

「魔物の肉が食べてみたいです!」

「「…………」」


 フォリア嬢の拳にした両の手に、俺だけだろうか?

 ……ナイフとフォークの幻覚が見えた。


「……ふつつか者ですが、娘をどうかよろしくお願いします……」

「こちらこそ……」


 なし崩し以前のなんかこう、形容し難いゆるさで決まってしまったフォリア嬢の嫁入り。

 本当にいいのかこの人、俺で。これで。


「ジード、そろそろ飲んでいい?」

「ご用意してございます」

「ありがとう」


 ちなみにこのあと食べた晩餐は寝る前に全部吐いた。




 ***




「わあ〜〜〜! すごいな!」

「ななななにしてるんですか! 体を乗り出さないでください! 危ないですよ!」


 丸一日かけて正式な手続きが終わり、結納品もグランデ家に入れ、わずかばかりの持参金とともにフォリア嬢は我が国エーヴァス公国に入った。

 なお、今はボックス馬車の扉を全開にして身を乗り出し、外を眺めておられる。

 ワイルド過ぎて口の中が鉄の味になったんだが血とか出てない? 大丈夫?

 今までおとなしくしてたけど唐突にとんでもねーことやらかすなこのお嬢様。


「そういえばリット殿! 我々は正式に夫婦になったのだよな!」

「そうですよ! でも今それどころではなく走ってる馬車の扉開けるとかなに考えてんだあんた! 閉めて閉めて!」

「では私のことはフォリアと呼び捨てにしてくれ! 私もリットと呼んでもよいか?」

「いいから閉めて! ここからちょっと道悪くなるから!」


 と、なんとかフォリア嬢を室内に戻して扉を閉める。

 これ、今度から外にも鍵つけておくべき?

 賊対策で普通内鍵なんだけど、外にも鍵ついてたら賊が首傾げるだろうなぁ!


「……フォリア嬢はもしかして王妃になるつもりがあまりなかったのですか?」


 めちゃくちゃ胃が痛い。

 椅子に座り直してから唇を尖らせるフォリア嬢に聞いてみると、「どうせ私はお飾り王妃の予定だったからな」などとあっけらかんと言い放つ。

 ああ、そう……。

 アグラストは側妃を何人か娶る予定だったのか。

 ミリーもそのうちの一人にすればよかったのかもしれないが、俺の婚約者だった手前そんな扱いもできなかろう。

 はー、そういう女にしかわからない事情もあったのね。


「私は頭が悪いから、よくわからないが王妃なんて柄ではないし向いてない」


 それはとてもよくわかる。

 ご自分でも自覚があるようでなによりである。


「次期大公妃と言われても、なんでそんなもんに私がと今も思うが……あの場ではああ言わないと色々なんかまずかったのだろう?」

「…………」


 二人きりになり、数時間。

 ようやくこの話ができたな、と思ったが……フォリア嬢、やはり勘とその場の空気で生きている。

 そして鋭い。

 だが、しかし……。


「まあ、それは……。でも、あの場はあなたの気持ちを優先しても構わなかったのですよ」

「うむ、だから優先させてもらったぞ! 肉が食べたい!」

「な、なるほど?」


 確かに?

 いや、そーじゃなくてぇ!


「難しいことはわからないからリットに任せる!」

「ええぇ……」

「それより、エーヴァス公国についたら剣の勝負もしよう! 魔物の討伐や邪樹の伐採とやらも、私は同行してみたいぞ!」


 あ、わかった。

 フォリア嬢はあれだ、完全に本能のまま生きてる人だ。

 え、よくこの人を王妃に据えようと思ったなシーヴェスター?

 アグラストがミリーに惹かれた理由も今とてつもなくわかるけど、これってやっぱ俺が貧乏くじ引いた感じじゃね?

 今更だけどね、ものすごく。


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