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交流夜会

 

 そうして、そんなフォリアのちょっと考えが及ばない生態が日常化すると俺も慣れたもの。

 瞬く間にエーヴァス公国内の魔石道具は復活し、邪樹の伐採、魔物の討伐がハイペースで進んだ。

 俺のところに上がってくる報告書も、目に見えて良い内容のものが増えていく。

 心配していた派閥争いはフォリアが正式に聖獣アリスと契約を結ばなかったことで激化することもなく、しかしちょくちょくちょっかいは出されているらしいがそれもフォリアの物理的な強さの前に形無しのようだ。

『祝福師』として、魔石浄化で行動を共にすることの多くなったハルスが気を利かせ、手を回してくれて補助してくれているおかげでもある。

 体が弱いハルスもアリス様の助力を得てフォリアが一時的に『星祝福』を使い、かなり癒してくれた。

 ハルス的に、そのお礼、みたいなもののようだ。

 なんにしても、あの政治方面に疎さが目立つフォリアにハルスがついているのはありがたい。

 おかげで俺も仕事がスムーズだ。


 ——そんな穏やかで賑やかな日々は瞬く間に過ぎ、一年前から進めていた『交流夜会』の日がついに訪れた。


「ついに次期女帝に会えるのだな」

「そうだな」


 フォリアはドレスではなくズボン姿。

 俺が「着たいものを着ろ」と許可を出したのでこの装いにしたらしい。

 いつでも馬に乗って走り出せそうだが、この格好でパーティーか。

 まあ、いいか。

 フォリアらしくて可愛らしいと思う。


「次期女帝がいいやつだったら、私は友達になりたいぞ」

「いいんじゃないか? できればミリーとも仲良くしてくれると、元婚約者としては嬉しいな」

「大丈夫だ! リットの夢を笑わなかったならきっと友達になれるからな!」

「そうか」


 そんな話をしながら、パーティー会場に向かう。

 フォリアの肩には聖獣アリス様。

 鼻をヒクヒクさせながら、必要とあればフォリアのことを守ってくれる。

 それはそれとして、やはり緊張し過ぎて胃が痛いな。


「シーヴェスター王国、アグラスト・シーヴェスター様、ミリー・シーヴェスター様、ご入場でございます」


 半年ぶりの、友との再会。

 煌びやかに着飾ったミリーは、俺といた頃よりも確実に美しくなっている。

 というか、アグラストがわかりやすくミリーに金を注いでるのがわかる。

 なんじゃありゃぁ……。


「リット! 久しぶりだな。今回の夜会、楽しみにさせてもらっていた」

「ああ、久しぶりだアグラスト。ミリーも久しぶり。元気にしていたか?」

「はい! リット様!」


 俺、こんなミリーの満面の笑顔見たことないや。

 アグラストの腕にしがみつき、幸せですオーラがものすごい。

 まあ、新婚だもんね。

 いいと思うよ、とても。


「と、ところでフォリア様はどうしてそのようなお召し物を?」

「リットが着たいものを着てよいと言ってくれたんだ! 私はドレスが嫌いなんだが、この夜会用に拵えてくれたんだぞ!」


 まあ、そのくらいのことはしますよ。

 フォリアは毎日とても頑張って働いてくれてるので。

 ドヤ顔で自慢されるとそれはそれで恥ずかしいけどな。


「ふーーーん……なかなかどうして、上手くやってるみたいじゃないか。……ぱっと見地味だが、生地が魔蚕(まかいこ)の糸で作られてるな?」

「ええっ!?」


 ぐっ、さすがアグラスト……よく見抜いたな。

 魔蚕は魔物の一種。

 しかし無害で、むしろ養殖することで上質な魔蚕の糸を生成できる。

 一応魔物なので食べ物も魔物肉でなければならない。

 生地にすると、この薄さと柔らかさで鋼鉄の鎧ぐらいの強度と防御力を誇る。

 なので、一応エーヴァス公国の特産物の一つだ。

 布を作り出すまでは非常に難しかった。

 当然ながら、上着だけでミリーが纏っているものすべて合わせても購入困難な高値という代物である。


「そ、そんなに高価なのですか?」

「ああ、染色されているしな……」

「技法が確立したものでね。フォリアのおかげさ」

「!」

「えっへん!」

『えっへん!』


 と、胸を張るフォリアとドヤ顔のアリス様。

 魔蚕の糸の染色は、本来不可能と思われていた。

 魔力が色濃く通っているため、普通の植物の染粉は歯が立たないのだ。

 だが、フォリアが「魔物の植物はダメなのか?」と、まさしく目から鱗。

 その一言で何度か試したところ、植物系の魔物から作った染色はすべて成功。

 ただ、魔物の染粉を『祝福』で人が触れても無害な状態にする必要があったのがネック。

 まだまだ量産には程遠い。


「マ、マジか……ちなみにいくらだ?」

「商談は後回しだ。来るぞ」

「!」


 完全にミリーに買ってやりたい、な顔になっていたが、会場の扉が「帝国、エルマ・クォーン様のご入場でございます!」という声と共に開く。

 今日という日はこの女に会うために企画したようなものだ。

 歳の頃は十三、十四ほど。

 真紅のドレスに身を包んだ、黒髪の少女が胸を張ってヒールを鳴らし、男の従者を五人も連れて入ってきた。

 自信満々な顔。

 歳不相応な派手な化粧も、存外にあっているのが恐ろしい。

 アレが——!


「ワァーーーッハッハッハッ! わらわがエルマ・クォーン! 帝国の次期女帝である! どいつもこいつもひれ伏すがよい!」


 …………ダメかもしれない。


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