人生は普通が一番です!~せっかく乙女ゲームの××××に転生したけど「違う、そうじゃない!」と嘆く話~
他のお話書いてたのに降りてきちゃったので供養しました。
書こうとしてた短編が長編の様相を呈してきたせいだと思う。地道にいこうZE。
字下げって投稿時に自動でしてくんないかな…
「セレナーデ・ユーライエ!貴様の所業は目に余る!リルムガルド王国第一王子、カイエン・リルムガルドの名において、貴様とは婚約破棄だ!」
「「?!」」
華やかなパーティーで、声高にそう吐き捨てた一人の青年の声に、私は目が覚めるような思いだった。
そして突如溢れる記憶、記憶、記憶―…
この場で高熱を出して倒れなかったことを誰か褒めてくれ。いややっぱりいい。
思い出したタイミングが最悪すぎる。
よりにもよって…!
一時ニュースで取り沙汰される程に全国的にも有名になった乙女ゲーム、「茨の道」。貴族が通う魔法学園で、ヒロインを虐めていた悪役令嬢に、攻略キャラたちが行う婚約破棄と断罪の数々。
これは、隠しキャラ含め逆ハーレムを完遂させないと出てこないクライマックスシーン…!
正直、スチル収集の為だけに一通りプレイしただけなのでストーリー自体は覚えていないが、最後の1枚がどうしても見つけ出せなかった。ちなみにこのクライマックスシーンでは2択で出て来るヒロインの選択によって悪役令嬢の最期が決まってしまうため、この話の流れは割と覚えている。
そしてここから最後のスチルをゲットできると信じてこのシーンを3度繰り返したのだが…
ヒロインが悪役令嬢を「許す」を選択すれば、彼女は国内の修道院へ送られ、「許さない」を選択した場合は国外追放だ。移動中に暗殺者を差し向けられるとか命の危機は無いが、生粋の令嬢にはどっちにしろツラいだろう。
そして希望を胸にプレイした3度目に、どちらも選択しない状態で3時間待ってみたが選択肢は一切変わらなかったのだ。
故に、ヒロインは二択で答えるしかない。
そんなことを高速で考えている間にも話は進む。
最初に婚約破棄を告げた麗しの王子、カイエンは自信に満ち溢れた表情で話を進めている。そしてこの国一番の権力を持つが故の傲慢さも伺える。
婚約破棄を宣言した際に全てのしがらみを断ち切るかのように振り払われた右腕は、指先までビシッと決まって微動だにしていない。
一方、婚約破棄を告げられた美しい令嬢の顔は酷く青ざめ、本来の美貌に大きく翳りを落としていた。苦しそうに歪められた眉も、涙を堪える潤んだ瞳も、悔しげに歪む赤い唇も、その翳りを増長させていた。
それでも尚、彼女を捨てたカイエン・リルムガルドへの恋情を隠しきれてはおらず、縋るような視線は彼を熱く見つめている。
あぁ…いつもの自信に溢れた勝気な顔が、すっかり鳴りを潜めてしまっている。そんなにも王子が好きだったのか…
だがいかんせん、彼女は罪を犯してしまった。
昨今の小説では悪役令嬢が実は無罪でヒロインがクソでした、が多かったが、今回はガチだ。いやまぁベースがゲームだし、彼女が転生者でないことははっきりしてしまった。
彼女はガチでやらかしたのだ。
ヒロインである私に数々の嫌がらせを…!
今、彼女の運命を私が握っている。
カイエン王子の後ろに、所在なさげに控えさせられながら、事の成り行きを見守るしかない、ヒロインとして生きていた私が…!
あぁ、ほんとになんで今なの?!もっと早く記憶が戻っていたら、攻略キャラには絶っっ対に近寄りすらしなかったのに…!!!
今すぐ悪役令嬢と立場を変わりたい!
こんな奴らとこの先も生きるとか本当に無理!
なんでこのヒロインこいつら攻略しちゃってんの?!
かといって今更彼女を庇えない。
庇えないが、正直イジメの規模が微妙なんだよ…!
教科書を汚されたり隠されたりのイジメは実際にあったし、ドレスや制服を汚されたりもした。
靴を汚されたことだって…!
いやほんとに汚すことにどんだけ命かけてんだよって位汚されたけども洗えば落ちるからね?!この程度で修道院とか国外追放とか悪役令嬢ほんと可哀想!
いやまぁ決定打は階段の踊り場でちょっと揉み合いみたいになっちゃって、私が階段から落ちちゃったりしたけど、段数3段だからね?!ちょっとヒヤッてしたけど最悪でも足くじくレベルだったからね?!むしろヒロインのスペックで無傷なんですけど!
このゲームを制作した奴らほんと、マジもう…!
色々やばすぎてそりゃ炎上してニュースにもなりますわ!!
一番の問題は攻略キャラたちだ。
王子は俺様、宰相候補は腹黒、騎士志望は脳筋、チャラ男とか年下とかスタンダードに取り揃えてるのは良い。わかりやすくて良い。
でも攻略されてるはずなのに甘い要素が一切ない!
俺様は終始俺様だし、腹黒はデレないし、脳筋は乙女のか弱さを理解しろよ!こちとらギャップ萌えが欲しかったんだよ!!
と大炎上。
炎上商法を目的としたゲームと評価されていた。
ただゲーム会社が「タイトル通りのゲームなので…」と言ってたのがクッソ腹立つ!そう言われればそうだ、みたいなので瞬く間に沈静化してしまったが、乙女ゲームに癒しを求めていた大多数の人間にとっては金をドブに捨てたようなものだった。
なのだが…
ちょっとこの身体の子戻ってきて!!
記憶統合されてるから完全に自分なのは分かってるけど嫌だ!このままENDまで進んだら待ってるのはBADだけ!
おまけに私の後ろに控える面々もカイエンには意見しないせいで静かに成り行きを見守っているために助けは期待できない。せめて騎士が正義感に燃える系なら良かったのに…!こんな時だけ主人の命令は絶対とか腹立つなぁ!もう!頼むからヒロインを優先してくれよ!
何か、何かないの?!私も悪役令嬢も助かる一手は…!
「マリア、お前はどうする?あの女を許すのか、それとも許さないのか…」
ああああ…!待って、まだ…
その時ふと気づく。
当たり前だが選択肢が出てこない。
これだ…!!
「では、お願いがあります!!」
「…マリア?」
王子が眉を顰める。若干の苛立ちを抑えヒロインであるマリアを睨む。
どう考えても惚れた女性に向ける視線ではない。
この野郎…
カイエンは人に意見されると相手に対しての好感度が酷く下がる設定だ。現在のマリアの発言はグレーゾーンらしい。好感度がガクンと下がると突き飛ばされるのだ。まじほんとクソヤロウだよ。
殴りたい…
ため息を吐きたいのをぐっと堪える。
今まではやたらとカイエンに対して媚びに媚びていたが、私が起きてしまってからはどちらにしろ無理。鳥肌が立つ。あと普通に腹立つ。
キッと睨むようにカイエンを睨むと、奴の目がわずかに細められる。
いやもう本当どんだけだよ…!
心臓がバクバクする。これを言ってどうなるかはわからないけど、少なくとも修道院や国外追放よりは良いはず。
あとはいつでも奴を奪い返して欲しいという私の願望が9割9分9厘。
「…っセレナーデ様、を、私のお友達にします!!」
「え…」
「はぁ?」
セレナーデ様はぽかんとしている。うん、まぁそうよね。それは良い。
だがカイエン、お前はだめだ。
どこのヤンキーだよっていう返事はだめだ。仮にも王子だろ。態度が悪すぎる。
「…マリア?貴様、自分が何を言ってるのかわかっているのか?」
「もちろんです」
怖い怖い怖い。
お前呼びから貴様呼びですよ。
これはもう完全にアウトだわ。良っしゃ来い!国外追放!
くるりと向きを変えたカイエンの矛先がこちらへ向く。
切れてるのか知らないが美形の無表情怖い。
手が出る系俺様男の圧力やばい。
迫力に怯みうっかり一歩下がってしまったが、それよりも早くカイエンに肩を掴まれた。
「痛っ…!」
あ、これ突き飛ばされるわ。
そう思い咄嗟に身体が動いた。
そしてこの瞬間に私の運命が動き出す。
◇
――この時の私の判断は間違ってなかった。と、思う。多分。そうであって欲しい。
後に聞いたところによると、不敬罪で死刑を考えたとかぬかしやがったので。まじ、ほんとっコイツ…!!
でもどっちが良いのかわからない。
冷静に考えればこの程度で死刑は絶対に起こりえなかったからだ。
だがもう時間は戻せない。――
◇
こなくそ!!
私は最大限の力を振り絞り、奴の頬をぶっ叩いた。
ヒロインのスペックマジすげぇわ。
頑張れば成人男性(18歳)を張り倒せるらしい。
王子は真横に倒れた。
静まり返る会場。
冷や汗を流す私。
顔面蒼白悪役令嬢に置物とかした攻略キャラ達。
誰も言葉を発することもできなければ、身動ぎ一つできない。
一番最初に動き出したのは張り倒された王子だった。
「貴様…っ」
「あ、ああああのっ」
地を這う引く程ひっくい声に顔が引きつる。
「何をする……♡」
「ごめ…え?」
頬を抑えながらゆらりと起き上がる王子に後ずさる。
え、待って待って。
聞き間違い?
助かりたい一心での幻聴かな?
そうだよね??
現実は無常だ。
「ふ…♡俺を殴るとは良い度胸だな…♡」
「いや殴っては無いです(張り倒しただけです)」
幻聴の可能性が消えた。
顔は相変わらず怒っているように見えるが目がどこか恍惚としている。
私は首を横にフルフルと振りながら後ずさる。
いやだやめてほんとにやめて。
ドS系俺様男が実はドMでしたとか一番萌えないパターンだよ。
世のドS好き乙女に謝れ。全身全霊で謝れ。
まずいまずいまずい。
命を狙われるよりヤベー危機感が私を襲う。
――三十六計逃げるに如かず――
私は故人の知識に縋った。
つまり、
ダッシュで逃げろ!!!!
「?!待て!!っおい捕まえろ!!」
「いやああああああ!?!?!!」
すぐさま反転して出口へ猛ダッシュする私を捕まえようとするカイエン達から必死で逃げる。
ヒロインのスペックは伊達ではない。
追い付けるのは恐らく攻略キャラ達か悪役令嬢ぐらいのものだ。
だが生粋のご令嬢たる悪役令嬢セレナーデ様は走らない。淑女だから当然だ。
淑女をかなぐり捨てた私が異常なのだ。いやでもこれはもう常識とか礼儀とかマナーとか考えてる場合じゃねぇ!
走れマリア。
かの邪智暴虐の王子から逃げ切らなければならぬと決意した。
「「待てマリア!!」」
「ひいいいいいっ!!!」
はえーよ!
どうやら奴らのスペックはヒロインよりあるらしい。
後ろから元俺様王子と腹黒宰相候補が追いかけて来る。
くそ制作会社め!!
「「マリアなぜ逃げる?!」」
「わああああ?!!」
前方から のうきん と ちゃらお があらわれた!
まりあ は にげだした!
「「止まってマリア!!」」
「もおおおおお!!!!」
横から としした と としうえ があらわれた!
まりあ は にげだした!
「「「「「「捕まえた」」」」」」
「ひええええええっ?!?!!!」
しかし まわりこまれて しまった!!
「あばばばばばばばっ助っだれかっ…!」
「先ほどの威勢はどうしたマリア?来い。落ち着ける場所に行く」
「ひぃっ」
元とは言え俺様王子にぐいぐい引っ張られ、周りを他の攻略キャラ達に囲まれてしまった私は大人しくついて行くしかなかった。
道すがら王子に「どうした?また俺を殴るか?」と期待が籠った目を向けられ慌てて拒否すると「貴様は俺を焦らすのがうまいな」と、また恍惚とした目を向けられた。殴っても殴らなくても喜ばれるとか意味が分からない。ドM怖い。敵なしかよ。道中私の精神はガリガリ削れた。
◆ ◆ ◆
私含め7人入るとちょっと手狭な部屋へ連れ込まれた。
全員が座り、攻略キャラ達は王子の動向を伺っている。
今までであれば貞操の危機を感じもしただろうが、何故か私の足元に跪いている元俺様王子が居るので微妙に緊張感が足りない。
ただ私はどうなってしまうのかという不安が大きい。非常に大きい。
元俺様王子はぶっ叩いた方の私の手を愛おしそうにひたすら撫でている。怖い。
そんな王子の変貌ぶりをものともしない攻略キャラ達も怖い。誰か突っ込んでくれ。
そして始まる告解。
待て、やめてくれ。
私じゃ許容し切れない。
化けの皮が剝がれる前のこいつらを攻略しつくした剛の者であるヒロインでもきっと受け止められない。
ギャップなんてもんじゃねぇ。
全員、嫌な方に振り切れていた。
俺様(多分ドS)はつい先ほどドMと判明。
腹黒は馬鹿正直。つまり今までの発言はただの毒舌。
脳筋は参謀。つまりこいつが本来の腹黒。
チャラ男は乙女。つまり今まで言われたいセリフを女の子たちに吐いていたこいつは中々の曲者。
年下は年上。種族的な意味で
年上は年下。以下同文。
最後二人!!
制作会社の手抜きが酷いが、何にもましてキャラ設定が酷い。
っていうか王子の本性を発現させただけで、なんで全員もれなくついてくるの?!
本体もおまけもいらないんだけど!
「え、何?!」
一人パニックに襲われていると何故か全員立ち上がってこちらを取り囲んでいる。
え、嘘でしょ?!ここにきてまさかの貞操の危機?!
見た目が良いとかそんなの関係ない!!しかもこんな濃ゆいキャラとか余計に嫌だ!!
引きはがそうと格闘していた私の手が焦り過ぎて思わず、私の手を撫で続ける王子の手に爪を立ててしまった。
「う…♡」
「ぎゃあ!?」
王子のもう片方の手が、私が爪を立てた方の手を宝物のように優しく包み込む。
ひいいいっ全然嬉しくない!!
そんなホラー体験をしている間に攻略キャラの壁ができていた。
腹黒改め毒舌馬鹿正直男が私の頭にぽん、と手を置いて口を開く。
「頭が足りないので大変心配していましたが、流石に殿下の心を射止めただけはありますね。あとは礼儀と知識とマナーを覚えれば殿下の伴侶としては完璧ですよ」
「は…?」
あんまりな言いように、一瞬脳が言葉の受け取りを拒否した。
――うるせぇええ!ヒロインが本気出せば余裕だわ!出す気にならんわ!!
つーかさりげなく王子の伴侶にすんな!!
脳筋改め腹黒参謀が私の背後から両肩に手を置くと、私の耳元に顔を寄せてきた。怖い。
「さて…以前、私の成績の話をした時に、順位が上がればご褒美をくれると言ったことを覚えてる?今回、1位を取ったんだけど、ね?」
「へ…」
ある種の死刑宣告に身体が固まった。
言質取られてたぁあああっ!!!
言った!言ってたヒロインこの野郎!!しかも「1位取ったら何でも言うこと聞いてあげる♡」とかアホなことぬかしてたああああ!!!「ね?」が怖い!確実に含みを込めてるの本当怖い!!
チャラ男改め曲者乙女が私の頬に手を添えてうっとりと呟く。
「あぁ…ついにこの美しい肌の秘密が明らかに…」
「いやいやいやいや?」
私の肌に対してだけの感想に思わず突っ込む。
いやだってコイツだけなんか違う。私への思いじゃなくて私の美肌への思いになってる。
前二人も大概だけどコイツは毛色が違う。おかしい。絶対おかしい。
見た目は小学生、実年齢推定200歳の年上が膝に座った状態で小首を傾げてきた。っておい!!
「永い間生きて来たが、お主のようにすべてを受け入れる女子は初めてじゃ…」
「いやあの…」
衝撃が強過ぎて頭が働かないけど一つだけ言わせてくれ。
受け入れてねぇわ!!
あとサイズ的に重くはないんですけどね?200歳のおじいちゃんに膝の上のられるって、なんかちょっと微妙なんですけど。しかも自然過ぎて全然気づかなったとか、さすがに年の功ですねってやかましいわ!退け!!!
年上改め年下ってややこしいなもう!!見た目はマッチョ、中身推定3歳児が抗議の声を上げてきた。
「ずるい!僕も膝に座る!!」
「待て待て待て待て」
視覚的暴力がひっどい!(悪い意味で)
こらぁ!レディの足をぺしぺし叩くんじゃありません!!お前一応普通に生活してきたろうが!女の子の足はセクシャル的な意味なの絶対わかってんだろうが!!
ギャップがありゃ良いってもんじゃねぇんだよ制作会社あああ!!!!
そして締めは俺様改めドM。
「お前たちいい加減にしろ。マリアが俺を触れられないだろう」
「いや問題ないです」
怖!副音声で「叩け」って言われた気がする!!絶対ヤダよ!!
「ふ…♡」
「・・・・・」
違うって焦らし照る訳じゃ無いんだって!!
いや待って待って嘘でしょ。お願い誰か嘘だと言って!
客観的に見たらこれなんかスチルっぽい!
後ろには元腹黒が私の頭に手を置いている。
さらにその隣で元脳筋が私の耳元に顔を寄せている。
右には元チャラ男が私の頬に手を添え、左には元俺様が私の手を握って跪いている。
膝には元年下が向かい合わせで座り、足元には元年上が縋りついている。
酷い!!
字面だけ見るとそれっぽいのが余計腹立つ!!
まじか!制作会社まじか!!
「「「「「「マリア、愛してるよ」」」」」」
「いやああああああっ!!!!」
終わり
↓↓↓ 蛇足的なその後 ↓↓↓
セレナーデ様とお友達になりました。
「まぁ…!殿下はそういった方が好きなのね…♡」
「え…」
殿下のドMの所業をぶちまけてやったがセレナーデ様はうっとりと話を聞いていた。
親友に裏切られた気分ではあるが。彼女と私の男の趣味が絶望的に合わないのは良いことだと思う。
その話をして以来、セレナーデ様からゴミを見るような目を向けられた殿下はセレナーデ様が気になっているらしい。
こっちとしては願ったり叶ったりなんだけど、冷めた目で見ることしかできない私に、殿下が「他の女を見るなどお前に対する裏切りだ。さぁ好きなだけ殴るがいい!」と両手を広げて待ち構えているのが鬱陶しい。私の代わりにセレナーデ様に扇子で殴ってもらっているので、殿下がセレナーデ様に惚れるのは時間の問題だと思う。
早く堕ちろ。
ただいかんせん、他の攻略キャラたちだ。いや達っていうか、一番ヤベーのがどうにもならない。
元腹黒は多分、殿下が好きになった人を好きになる癖があるっぽいからほっとけば良い。毒舌鬱陶しいけど。
元チャラ男は肌が綺麗なマダムを紹介しておいたので問題無い。美肌研究に余念がない。確かにアレは凄い。
年上は生き別れの孫娘が見つかったとのことで学園を去ったのでもういない。孫娘の結婚騒動と言っていたので多分、私が生きてる間には終わらないはずだ。長命種やべぇ。
年下は世話好きの乳母さんに甘えている。見た目を気にしない肝っ玉母さんだ。ほんとすご…
ただ問題は元脳筋…。
「やぁマリア」
「ひっ!?」
後ろから腰に手を回され抱きすくめられる。
耳元に顔を近づけ囁くまでがセットだ。しかも人が居ても居なくても。
「順調そうだね?」
「そそそそそうですねぇ?!」
耳がくすぐったいので思わず腕から逃れようと身じろぐ。
しかし、抜け出しては契約違反に当たるので、慌てて自分の腰に回る腕を抱きしめるように縋りつく。
「あぁ…もう少しだったのに」
「っ!」
心底残念そうに耳元で囁かれる。
この腹黒めぇえええ…!!
学年1位のご褒美が案の定、私の貞操だった。マジで油断も隙もねぇよコイツ。主人の命令に従うんじゃなかったのかと思ったら「特に命令されてない」とか抜かしやがった!うるせぇよ!マジで油断も…以下省略
それが嫌ならと条件を付けられたが、よくよく考えると1つ何でも言うこと聞くより、複数の条件付けの方が奴に取って有利だったのでは?と気づいたがもう後の祭り。
一つ一つは大したことないと感じたが、揃うと絶大な効果を発揮した。なんで気づかなかった私!ヒロインのハイパースペックはどこへ!?
知らない間に魔法契約が完了して約束させられたことが以下。
1.今まで通り名前で呼ぶこと。敬称不要。(こいつが中々厄介で、語尾に♡を付けた頭悪い呼び方しないとアウトらしい。くそヒロインめ)
2.互いの秘密を守ること。(奴は腹黒参謀、私は中身――カマかけられてばれた――)
3.勉強は一緒にすること。(お前要らねーだろ、の声は2.に抵触するからと黙らされた)
4.食事も今まで通りにすること。(一緒に食べるのかと思ったら「あーん」案件だった。騙された)
5.挨拶は同じ挨拶で返すこと。3秒以内。(これがさっきのアレだ――やたらと抱き着かれるようになった――)
6.これらを破ったら当初の願いを履行すること。(貞操の危機だ)
パッと見当たり障りが無い。なんならわざわざ約束する話でもない。
お近づきになりたくは無いが、知り合ってしまったらもう友人以上親友未満で接するよりしょうがない。
あんな騒ぎの後なので、私が王子たちにまとわりつかなくなっても周りは納得してくれている。ただ解せないのは、王子が私にまとわりついても誰も何も言わないのだ。
まさか殴られたくて私にまとわりついてるとは誰も思わないようで、王子が「今日は殴らないのか?」と寂しそうな目で言って来ても、みんな嫌味だと思ってやがる。これだからイケメンは!!
「それでマリア?今日は俺の名前を呼んでくれないのか?」
「~~~~っだっ……だにえる…っ(はーと)」
「くくっ…」
腹立つ~~~~!!!!
肩を震わせて笑いを堪える腹黒が、傍目には脳筋(笑)が私に懐いてすり寄ってるようにしか見えて無いのが本当腹立つ!しかも私が振り払えないせいで相思相愛的な空気が流れてるし!!「きゃ~♡」じゃない!!違うん!犯人はコイツなんだよ信じてくれ!!
冤罪で捕まった被害者のように心の中で訴えるが誰も聞いてくれない。
「それじゃぁマリア、また後で」
「…何しに来たの…」
人で遊びに来たとしか言いようが無い腹黒に思わず物申す。
後悔した。
「もちろん、マリアに会いに」
「は?」
「きゃあああっ♡♡♡」
耳元に口づけをおとされ、呆然とする私とは対照的に盛り上がる周囲。
そんな反応をガン無視して去っていく腹黒。
目をハートにした淑女たちに取り囲まれる私。
「マリアさん!やっぱりダニエル様と付き合ってらっしゃるのよね?!」
「馴れ初めは?!」
「あんなに素敵な方々の中でダニエル様を選んだ理由は?!」
淑女たちの矢継ぎ早の質問に色んな意味で答えられない。
いや本当にどうしてこうなった。
乙女ゲーに転生してみたいとか思ってたけど現実は無常だ。
恋を楽しむ過程をすっ飛ばしてクライマックスとか何てクソゲー。
おまけに問題児を押し付けられた挙句、現在、腹黒のおもちゃにされている。
しかもスチルをゲットできた訳でもない。
「まるで小説のようなお話ね!」
その一言を聞いて、私は心の底から叫んだ。
「人生は普通が一番です!!!!」
おわり
お読みいただきありがとうございます。
当然ヒロインは腹黒に外堀から内堀まで固められて城を建てられる感じになります。
ちょっと何言ってるかわかんないけど要約するとくっつきます。
セレナーデ様と王子様もくっつきます。色んな意味で堕ちる王子。
攻略対象にギャップがあることは重々承知していたけど、割と初期段階でドS王子が実はドMでした、っていうのが浮かんできた。ギャップ萌えだよね。
いや仕事できる人はプライベートではやばいってどっかで聞いた気がするから出来上がった話だと思う。
作者の頭がおかしい訳じゃない。
【緊急アンケート】
作者の頭はおかしくない。(選択肢から選んでね)
→ウィ。
YES。
はい。