ボロアパート2
けたたましいサイレンの音に驚き飛び起きた。
足音で数人が階段を昇ってくるのがわかる。
「ん〜、なんなんだ?こんな朝早くに何事だよ、うるせぇなぁ。」携帯の画面を見る。5時45分。
まだ起きるには少し早い。
もう少し寝ていたかったが急な出来事に居ても立っても居られず、廊下側にある窓をほんの少しだけ開けて覗いてみる。
「えっ!?警察がこんな時間になんで?あれって2つ隣の部屋の中学生じゃん!?」
野次馬根性なのか、すっかり目が覚めてしまったからなのか、窓から覗くのをやめられない。
両脇を警察官に抱えられながらその子は階段を降りて行った。半年ほど前に母親に連れられてその子は引っ越しの挨拶に来た。大人しそうな見た目通り、玄関先で時々会っても、挨拶もそこそこに目も合わせず行ってしまう。
「地味で大人しそうなのになぁ。人ってわからんわ。まぁ、俺も人のこと言えねぇか?」
そう独り言を呟きながら部屋の隅に目をやる。
「お〜い。起きたかぁ?」
大型犬のケージの中で丸まっているそれに声をかける。モゾモゾ動いてはいるがまだ眠いらしい。
「まぁ、いっか。後でメシ用意しといてやるから食えよ〜。」
それと出会ったのは2ヵ月前。このボロアパートの入り口でだ。汚い服に青白い顔、痩せこけた腕に生気のない目。一目でヤバいとわかる。
「こいつ、もしかして…!?102号室の子供じゃねぇの?」こんな見た目になっていてすぐには気づかなかったが、去年の夏頃に見かけた時はもう少しふっくらして元気そうだったはずだ。
「虐待ってやつか…?マジかよ。」
「おい。お前、母ちゃんどうした?」あまりにも酷い状態のそいつに俺は声をかけた。
何の反応もしない。目の焦点が合わず、どこを見ているのかわからない。
「とりあえずここにこのまま置いとけねぇな。ちょっとお前こっち来い。な?」
部屋へ連れて行き風呂に入れてやった。腹も減っていたのだろう。買い置きしておいたカップラーメンを出してやったら目の色を変えてがっついてた。
「ほっとけなくて連れてきちまったがどうするか…。」安心したのか腹が満たされたからなのかぐっすり眠っているそいつの顔を見て俺は頭を抱えた。
「まいったな…。母親に黙ってる訳にいかねぇよな。ひとまずウチにいるって話しといた方がいいか。」話をしに行こうと部屋を出るとちょうど母親が出かける所だった。