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女王様が私たちに対しあれこれ言葉をかけてくれて、息子と娘を紹介してくれたのでこちらもフォルカスがそれぞれ紹介してくれる流れになって……いや、うん、なんか今回は意図的に私を一番最後にもってきてるよね。
(まあ、そうするのが一番無難っていうか、妥当か……)
ただまあ、父さんとイザベラを紹介した段階でマリエッタさんの眉間の皺がすっごいことになってるんですけど?
いいのか、王女様。隣に座る、彼女によく似た女性……つまりアリエッタさんが小声で注意しているみたいだけど。
ふうん、なるほど……イザベラのことを知っているんだ?
それも王族が他国の高位貴族を知っているとか、そういう話じゃなさそうな反応だ。
(確かに彼女は転生者みたいだね)
小説だか漫画だか、それらを知っている人物なのだろう。
マルチェロくんみたいな、ね。
転生者はこの世界にたくさんいるらしいってことは理解できたけれど、この世界を模した創作物がある世界から転生した人間が同時期に複数現れるってどういうことなんだろうとちょっとそこが引っかかるところではあるんだけど……。
さすがにこの世界を模した創作物って説明が難しい上に、私も転生者なんだよねえってカミングアウトはより事態をややこしくしそうなのでしないことに決めている。
私は私で、この世界の住人だと胸を張って言えるしね!!
そもそも、私はその小説も漫画も本当にちょっぴりしか履修してないからさ……思い入れなんてないし。
「そして、彼女はアルマ。私と同じく冒険者で、……私の最愛の番だ。以前からの知り合いだが、つい最近想いを交わすようになった」
フォルカスが若干照れくさそうにそう言った途端、イライラが限界を超えたのだろう。
マリエッタさんが立ち上がった。
「番!?」
「マリエッタ、行儀が悪いぞ」
「それについては後ほど改めて謝罪いたしますわ! それよりも、番と仰いましたの!? 本当に!?」
「そうだ」
ものすごい剣幕でフォルカスに食ってかかった彼女だったけれど、きっぱりと力強く肯定したフォルカスに呆気にとられたかと思うとギッと私を睨み付ける。
おお、なかなかの迫力。
「認めませんわ!」
「お前に認めてもらう必要はない。母上には、すでに了承いただいている」
「ええ。とても良いお嬢さんと縁があって良かったと思っていますよ。わたくしたちの中に流れる血の影響は強く、その中でもフォルカスには苦労をかけました。この国に縛られることなく、幸せになれるのであればそれが一番です」
女王様の言葉は穏やかだけれど、しっかりしたもの。
やっぱり、お母さんなんだなあ! いや、当然なのだけれど。
「ど、どこの馬の骨とも分からぬ女ですのよ!? お兄様は由緒あるフェザレニアの王族! 冒険者を貶すわけではございませんが、お兄様と釣り合いが取れているとは思えません!!」
まあ、正論だわなあ。
うんうんと思わず頷くと、横からディルムッドに肘で小突かれてしまった。
「ほう、つまり身分があればお嬢さんはご理解いただけるのかな?」
そこに割って入ったのは、意外や意外、父さんだった。
フォルカスがこの場は仕切るから、特に何もしなくていいって事前に言われていたんだけど……おやおや?
「女王陛下、発言をお許しいただけますかな?」
「構いません。娘が騒がしくて申し訳ないけれど……この場はどうぞお気になさらず」
「ありがとうございます。さて、王女殿下は〝ソロニア商会〟をご存じで?」
「……当然でしょう?」
唐突に出てきたソロニア商会の名前に、マリエッタさんも困惑気味だ。
というのも、その商会の名前は大抵の人が知っているってくらい有名な、それこそ世界を股に掛けて商業ギルドにも大きな影響力がある商会の一つで……。
(うん? 悪魔仲間が興した商会の、役員待遇とか言ってなかったっけ)
「私はそちらの役員を務めておりましてね、娘のアルマに継がせたりするものでもありませんから自由にさせているだけなのですよ。よって、どこぞの馬の骨、というわけでもありませんな。これにてご納得いただけましたかな?」
「クッ……!」
いやいや、ははは。
なんだか蚊帳の外だなあ。
まあ表向きこれなら『有名商会の役員の娘と、王家のしきたりによって外に出た王子』が結ばれる分にはめでたい話でまとまるよね。
フェザレニア王家にとっても大きな商会と良い意味での縁が結べたっていう風に見るし。
(実際には大違いだけどな!)




