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黒竜帝様んとこに行って、色々教わって頭がパンクしそうだなあと思う私は牛? 馬? 結局コイツがなんのかわかんないけど、オリアクスが出してくれた真っ黒いやつに揺られて私たちはまた山を下り始めていた。
送ってくれるっていう黒竜帝様の親切を丁寧に断って、私たちはゆっくりと山を下る。
みんなそれぞれに考えることがあるんだろう。
私にだって一応、悩むことくらいあるしね!
(イザベラが悪役令嬢って役割を終えたつもりで、終わってなくて……で、黒竜帝が認めるくらい今も〝聖女〟と呼べるくらい聖属性の力を秘めている)
予言書扱いされている小説の行く末が分かればそれを利用して、奇妙な連中をとっ捕まえることはできるんだろうけど、そう簡単にいくかどうかって問題があるし。
聖女とは何かって言われたら、結局逆ハーレム的な生活をして瘴気を消していたってことでしょ?
まあちゃんと役目を果たしていたってところには好感が持てるけど、最後に乙女たちに義務みたいに何かを課すのもどうかっていうか。
「始まりの聖女様は、お怒りだったのかもしれません」
「……そうだねえ」
イザベラが、ぽつんと呟いた。
その声は小さくて、同じ馬? 牛? もうどっちでもいいや、便宜上コイツでいい。
コイツに一緒に乗っているからこそ、聞き取れたくらい小さな声だった。
「異世界に呼ばれて、この世界の穢れの浄化を押しつけられて……始めは、世のため人のために善意を向けてくださったのだとしても……変わらぬ驕った人々の姿に、お怒りになったとしてもなんら不思議には思いません」
そうだ、彼女が〝聖女としての役割〟をあの国の女の子たちに押しつけたように、元々はこの世界の瘴気を〝聖女だから〟という理由で異世界の女性に押しつけたということになる。
「まさに卵が先か、鶏が先か論争だねえ」
「え?」
「んーん、こっちの話」
ため息が出ちゃうよね、ほんとに。
当時は状況が状況だったんだろう。だから聖女として崇めていたのは確かだと思う。
なんせ、教会が聖女を崇めているんだからそこの辺は間違いないと思うのよね。
だからといってそれが幸せだったかどうかなんて今を生きる私には分からない話だ。
「まあ、いくらそれを考えたってしょうがないか」
「姉様?」
「とりあえず、フォルカスの妹さんから話を聞いて、オリアクスの情報を待ってイカれた連中をとっちめて、私たちは元の気ままな旅に戻る。それでいいよね」
私はポケットからキャンディを取り出して、イザベラの手に握らせてあげた。
頭を使ったり落ち込んだ時にはこういうのが大事だと思うんだよね!
イザベラは手の中にあるキャンディを見て目をぱちくりさせたかと思うと、包み紙を剥いて口に放り込んだ。
「美味しいですわ、姉様」
「そ、何味?」
「レモンでしょうか、甘酸っぱくて美味しい」
「あ、じゃあ同じ味だったんだねえ。他の味もあるから、ほしくなったら言ってね?」
「はい、姉様!」




