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「それじゃあ、転生者そのものは問題ないのかあ。よかったねえ、フォルカス!」
「……逆に言えば、転生したからといってその記憶を悪用したなら、それは本人の罪科ということになるんだが」
「まあまだそれはわからないじゃない。眉間に皺なんて寄せないのー」
役割を与えられたからってやっていい免罪符なわけでもないし、とりあえず無理矢理〝転生者だからこうしなければならない〟みたいなものではないと分かって一安心。
それでいいじゃないか!
ほんの少し、どこかで『物語に強制的に戻すために、マルチェロくんは前世の記憶を取り戻してイザベラを悪役令嬢に仕立て上げようとしたのではないか』なんて考えたりもしたからさあ、そういうんじゃないなら……。
ないなら、ただ性格に難ありな妹さんってことだね! うん。
ある意味救いようがなかった!!
「む? どうかしたのか?」
「実は、……転生者と思われる謎の人物が書いた小説を、預言書として同じようにしている集団がいるようなのです。そして、妹のマリエッタが転生者ではないかと……あの子の幼い頃からの言動は、ただの妄想癖かと思っていましたが」
フォルカスが苦虫をかみつぶしたような表情でかいつまんで説明する姿はなんとも大変そうだなあと思わずにいられない。
だけど、もうちょっとしたらその当人と対面するのよねえ。
「なんと……我が子らにもそのような……ううむ」
おかげで黒竜帝が唸っちゃったし。
オリアクスはもう我関せずだし。
「これより城に戻り、妹と対面し真相を明らかにした後、関係者であるかないか確認の上、対応を決めると女王も申しておりました。世界の理に転生者が背くものではなく、また瘴気の存在も図らずも知れたことは……正直、少しですが心が軽くなりました」
(フォルカスは真面目だなあ)
「王家の一員としてではなく、誇り高き黒竜の一族として家族を大切にする誓いを守り通すつもりです。……アルマのことも含めて」
おっと、予想外なところから矢が飛んできたぞ!?
構えていないところでそんなこと言われると照れるから止めてほしいんだけども……。
しっかし、段々と話が複雑になってきたなあ。
瘴気は負の感情が進化したものみたいに考えるとして、そうなる前に負の感情を悪魔族が昇華していた。
で、それが昇華するよりも生産される方が上回っちゃった結果進化して瘴気が出て、より負の感情が世界を満たした。
それを解決する方法が聖女で、おそらく浄化するんだか瘴気の影響を断つために結界を張ることになった……と考えるのが妥当かなあ。
で、他の国と違ってあの国だけに聖女がたくさんいて結界を張らなきゃいけないのは、瘴気の親玉といにしえの聖女が眠っているせいだ、と。
(……やな感じがするじゃない?)
ゲームとかファンタジー好きの私としては、今後の展開としてありそうなのは主に二つのパターンかなって思ったわけですよ。
世界を滅ぼしたい誰か、または滅ぼした後に世界を新たに作ろうと思っている誰かがいて、どちらにしろその〝誰か〟は転生者。
で、小説を書いている人物が転生者だろうがそうじゃなかろうが、それを利用してそれっぽく予言書だなんだって言って宗教仕立てにして実行犯を作り出し、最終的には……瘴気の塊を掘り出すかなにかする、とか?
やだー。世界の命運、かかっちゃう?
「そういや、あの国で聖女たちの中にたまぁに聖属性の力が消えない人たちもいたんだけど……それってなんでかしら」
「元々神に仕える巫女の系譜か、あるいは〝始まりの聖女〟の血筋である可能性が高かろうな。まあ別に困ることはあるまいて」
「そう? ならいいんだけど……」
ちらりと視線を向ければ、俯いたイザベラが少しだけ震えていた。イザベラの中にも、まだ聖属性は残っている。
私はみんなを見ているふりをして、そっと可愛い妹の手を握った。
「大丈夫だよ、おねえちゃんがついてるでしょ?」
小さな声でそう私が言えば、隣でイザベラが小さく肩を揺らした。
そして、繋いだ手が強く握られるのを感じる。
「……はい、姉様!」




