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そこからは私としては信じられない話の連続だった。
聖女は転生を繰り返したというのだ。
始まりの聖女は複数の夫を持ち、彼女と同じ性質を受け継ぐ子供たちを聖女として教育し、そして生まれ変わっては同じことを繰り返したという。
「彼女自身、神々の生まれ変わりであると言っていたそうだ。果たしてそれが本当のことかは誰も知らぬ」
黒竜帝もそこは首を傾げるところだそうだが……まあ、それはともかくとして、始まりの聖女はそうやって転生を繰り返し聖女を増やし瘴気を払うために奮闘したそうなのだが、まあ結果から言えば失敗。
今でも瘴気を持ったモンスターとかいるしね!
「負の感情を欲するという点で言えば悪魔族と似ているかのように思うかもしれぬが、瘴気は瘴気。生き物ではない。あれは病のようなものだと思えばいい」
「病気って」
「悪魔族は生きる糧として負の感情を喰らい、消化する。しかしその消化を凌駕するほどの瘴気が世界を満たしたので聖女が招かれ、彼女はそれまで存在しなかった〝聖属性〟というもので浄化を始めた。そういうことじゃな」
「へえー、それは私も知らなかったなあ!」
「オリアクスは知ろうともせんかっただけじゃろう、貴様は本当に自分のやりたいことしかせん悪魔じゃからな」
「ははは、悪いねえ」
「だが、たとえ異世界より招かれた聖女であっても限界はあった」
カラカラと笑うオリアクスに呆れたような視線を向けたかと思うと、黒竜帝はまた話を続けた。
「聖女は自分が聖女を産み育てるよりも瘴気の勢いの方が強いと悟ると、大きな瘴気の塊を抱え込んで地中深く眠りについた」
巨大に成長した瘴気溜まりは世界に影響を及ぼすのだそうだ。
だけど黒竜帝が言ったように生物ではないのでただそこにあるだけで、近くにある生命に負の感情を植え付け増大させる厄介な空間を生み出し、それが広がり続けた。
その勢いがすごいから聖女は聖女を生み出すよりも他の方法をとらざるを得なかったのだという。
それが、自身が瘴気だまりに留まり浄化し続けるという形の封印のようなものだとかなんとか。詳しくはわからないらしい。
で、彼女が眠る地には彼女の血族ではなくとも聖女が現れるよう祈りを残したんだそうだ。
その土地が、イザベラの生まれた国があるところ。
年齢が若いのは、瘴気に呑まれぬ命の輝きを持つ者として、そして聖属性が失われるのは子を育み次の聖女たちに繋ぐため。
世界各地に現れる聖女は始まりの聖女の子孫であり、私たちの母国で現れる聖女は聖女の意思を受け継ぐ者たちってところか。強制的だけど。
(……いや、しかしそれって祈りっていうか……)
呪いじゃね? と思ったのは内緒だ!
多分、みんな同じようなことを思っていると感じてはいるけど、言わない方がいいことだってある。
しかし……召喚された上に自称神様の転生者で? 更に転生を繰り返してたくさん子供を産んだ……?
いやいや、かなり無理があるからどこかは尾鰭のついた話だとは思うけど。
……でも、ここでも気になるといえば、そうだよなあ。
「転生、か」
私が声に出すよりも先に、フォルカスがその単語を呟く。
そうだ、転生。
私たちの前に出てくる、転生者という存在。
「転生者そのものは珍しくない。命は巡る、時にそれはお前たちが喰らう植物であり、無機物で有り、それぞれが役目を果たし生き物を生かし、また巡るのだ」
「まあ非業の死を遂げた無念なんかが瘴気に加わっていると考えると、綺麗なモンじゃあないけどねえ」
「それを言うたらば、喰らわれる命はいずれも生きたかったと恨み辛みを持つのだからなあ、どのようにしろ、瘴気の源である負の感情とやらはどこかで産み落とされるのであろうさ」
それが自然の摂理だからなと結んだ黒竜帝に、私たちは顔を見合わせる。
確かにそれはそうかもしれないんだけどさあ……でも私たちが直面している問題はそういうんじゃないんだよなあ!
「じゃあ次は私から質問」
「なんじゃな?」
「転生者ってのは、何か役割があるってことだったりする?」
そうだ。
もしそうなら、私に課せられた役目なんてあるのか?
いや、特別『こうしなきゃ!』って使命感に燃えたことは人生で特にないんだけどさあ。
もしあるよって言われたらなんで私なのかって悩むことくらいはしてもいいかなって。
あ、やるかどうかは別ね。
だって面倒そうだし。それはちょっとなあ。
「ふむ……わしが知る限りは別に役割と言った物はないはずだ。転生者たちは何かしらのきっかけで記憶を取り戻し、自分たちの中で折り合いをつけて生きていっただけの話」
「ふうん……」
ちょっとだけ、ほっとした。
別に、自分が転生者だから問題がどうのこうのってことはないってわかっちゃいるけどね!




