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「ね、姉様! ドラゴン、本物のドラゴンですわ……! 黒竜帝様が……!!」
「そうだねえ。いやあ、圧巻だわあ」
竜種を見るのは別に初めてってこともないけど、これだけ大きくて強い竜種に出会うのは初めてだ。
こんなにも存在感があるのに、今までまるで知らずに生きてきたのが不思議なくらい。
(違うな、黒竜帝はただ身を潜めていただけだ)
彼にとって世界の命運とか人間の動向なんてどうでもいいもので、ここが唯一の番が望み大切に思った土地だからこの場に留まっているだけで……私の記憶が確かならば、絵本でもこう語られていた。
『黒竜帝と契りを交わしたという乙女はその命が尽きた時霊峰に葬られ、竜は彼女の墓を守るように眠りについたのでした。めでたしめでたし』
つまり、ここは黒竜帝の縄張りだ。
幸い、フォルカスという子孫に加えて旧友とまで呼ばれるオリアクスという存在があるので歓迎してもらえているようだ。
巨大な竜は私たちの前に降り立ったかと思うと、赤い目を細めて私たちを全員見据え尻尾をくゆらせたかと思うと――金色に輝いて、その身を人の姿に変えた。
「この方が、話もしやすかろう。遠いところを、よく来てくれた。歓迎しよう」
そこには黒衣を身に纏った一人の老人の姿があり、とても優しげな笑みを浮かべているではないか。
疑う余地もない、この目の前の老人こそ先ほどまでそこにいた恐ろしい竜であるとわかるけど、私たちはそれぞれ動揺した。
そりゃそうだろう、妖精族たちが幻術で時折人間に姿を変えることはあっても、それはあくまで幻を周囲に見せているだけだ。
でもこれは違う、根本的なところから作り替えているとしかいいようがない。
それを理解する私とイザベラとは別に、ディルムッドは「竜が爺さんになった」と呟いていたので彼は彼で動揺しているようだった。
だけど、もう一人。
オリアクスがあからさまに困惑した顔を見せたことが、ちょっとだけ意外だ。
(ああ、普段はお互い素の姿だからか。……そう考えると、オリアクスの〝悪魔としての姿〟ってどんなんだろう?)
人間の人生で考えればそれなりに長い付き合いだけど、そういえば知らないなあ。
そんなことをふと思った私をよそに、フォルカスが挨拶をするよりも前にオリアクスが一歩前に出た。
「おぬし……どういうつもりだ」
「どういうとは、どういう意味かな? 我が友よ!」
「誤魔化すな、一体何のつもりだと聞いておる!」
ビリッと空気が震えた。
え? どういうことだ?
なんでオリアクス、怒ってんの?
一触即発、そんな空気を前に私たちが身構える中で、黒竜帝はオリアクスをただじっと見つめていたかと思うと弾けるように笑い始めた。
「何故老人の姿などとるのだ! 私が年齢を誤魔化しているようではないか!!」
「そこかい!」
思わず全力で突っ込んだのはご愛敬。




