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「庇護下……ですか」
「そう。理由はいくつかあるよ? 一つ、イザベラちゃんにとって自由を与えることができるので、考える時間ができること。二つ、生活に困らないということ。三つ、ライリー様は貴女をとても心配しているので、そういう意味でも私の下なら安心してもらえるってこと」
なんせまあ、私それなりに稼いでる身ですし。
そう伝えてライリー様を見ると、考え込んでいる様子だ。
個人的な意見や、彼女の政治的立場から考えてのデメリット……それから諸々とこの地を治める領主としての意見なんかが頭の中で天秤にかけられたりそろばんをはじいたりと忙しいんだろうなと思う。
「あとは単純にまあ、私がイザベラちゃんみたいな妹がほしいと思ったからなんだけどね!」
「ふざけるな! 大体貴様ごときに何ができると言うんだ!!」
ヴァネッサ様の扇子を弾くようにして、エドウィンくんが一歩前に出て私を指さした。
その瞬間、ディルが私の肩を抱くようにしてゲラゲラと笑った。
「何ができるってお前、こいつもジュエル級の冒険者だぞ? 並大抵の貴族よりも発言権を持ってるに決まってるだろうさ!」
「ジュ、ジュエル級? 貴様が? ……う、うそだ……」
「嘘ではない。本来ならば、侯爵家の三男ごときが個人で雇えるような存在ではないわ。わしが身分証を持たぬそなたらと面会をすぐに決めたのも、彼女がいたからこそだ」
ライリー様が深く、長いため息を吐き出して顔を上げた。
そして私を真っ直ぐに見た。相変わらず目力がすごい。
「しかしそうなると、アルマ殿はこの地に根ざすということになるのか」
「イザベラちゃんが妹になってくれるなら、しばらくはこの地に留まるよ。勿論依頼だって受けるしね。……根ざすかどうかは彼女の罪や処遇についてどうなるのか、上の人たちが決めてからかな」
「イザベラ=ルティエ嬢、そのほうの意見はどうだ」
「わ、わたくしは……」
困惑した様子で答えに迷っているようだった。
そんな彼女を見て、ライリー様がそれまで厳めしい表情をしていたのを和らげて笑みを浮かべた。そうしてれば優しげなのになあ……。
「わしの個人的な意見を述べるのであれば、アルマ殿はかように飄々としておられるが信頼には足る人物だ。少々大雑把なところもあるし、やりたいことしかやらないところがある。女性として見た目は貴女が見てきた宮廷の淑女とはかけ離れているだろうし、ジュエル級の冒険者と来れば普通とは当然言えないが」
「ちょっとちょっと、扱いが酷いんだけど!?」
なんだ大雑把でやりたいことしかやらないって!
合ってるけども! 合ってるけども!!
それ、信頼できるって人間を評価するときに使う言葉かな!?
思わずツッコんだけど、周りは笑うばっかりだった。
「かつて、この領地に災厄級のモンスターが現れたことがあった。小山ほどもあろうかという巨体で村々を襲い、人を喰らうファング・ボアだ」
「……聞いたことは、ございます。大勢の死者が出たと」
「そうだ。その際、アルマ殿が討伐に参加してくれただけでなく貴重な薬品やアイテムを無償で配ってくれたのだ。後生大事に持っていたって役に立たない、今必要な、努力した人間を生かすために使わないでどうする……そう言ってな」
感慨深そうに言われたけど、そんなこと言ったっけな……。
いや、勿論この空気を壊さないためにも口には出さないけどね?
ファング・ボア退治したのは覚えてるんだけど……ちょっと脳みそフル回転させてみて、そういやそんなこと言ったかもしれないと思った。
いやね、この世界……聖属性に癒やしの力があるんだよね。
つまり、年頃の女の子達が巡礼の合間に治癒して回るって感じ。で、教会がお布施をもらう。
ちなみにごく稀に、成長しても聖属性が消えない人もいて、そんな人たちは大聖女として教会の本部である大聖堂勤めになる。
だからいざって時の頼みの綱になるので、王族も教会には強く出られないんだよなあ。
まあそれはさておき。
私は転生者である。
しかも、剣と魔法の世界が大好物で小説も読み漁ったしゲームもやりこむタイプである。
そんな人間が実際に魔法が使えてみ?
そもそも、魔法とは何か。
体内にある魔力を、魔術という術式を使って練り上げて、イメージを膨らませて固定の形にするもの。とされている。
火の玉が出る術式なら、魔法を唱えることで魔力が霧散せず形になる。ただその形をイメージすればいいだけ。
(まあ本当はもうちょい複雑なんだけど……)
そんなだから当たり前のようにイメージってのは、この世界の人たちには共通認識だ。
ところが、私は先ほどから言っているように転生者だ。
固定観念とかそんなの吹っ飛ばして、ラノベ・アニメ、ゲームで培ったありとあらゆるイメージを膨らませたら?
そう……私の中で回復魔法といえば水イメージだ。もしくは無属性。
気がついた時、反省したよね……。
言い訳が許されるなら、私は聖属性に目覚めなかったので、教会とか行かないからさ……孤児院で読み書きも怪しいレベルの教育しかされなかったから、常識的なこと知らなかったんだよ……。
まあつまり何が言いたいかっていうと。
私は基本的に一人旅、で、なおかつ回復が要らない魔術系の冒険者。
しかも『転生といえば定番はあれでしょ! アイテムの亜空間収納でしょ!』とか言ってイメージしまくった結果できちゃったりね。
おかげでアイテムがドンドコ溜まるのよねえ……依頼のお礼とか言って渡されたり、討伐に参加して支給されたりでさ……。
私としてはファング・ボアの時はお肉分けてもらえたらそれでいいし、他の人たちが困ってるんなら大放出くらいの気持ちだったんだよね……。
(うん)
言えない。
なんかライリー様思い出して感動してるっぽいし、イザベラちゃんも私のこと尊敬の眼差しで見てるし。
言わぬが花って言葉に従おう。ずるくない。
私は夢を守ったのだ!