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その後、反省したらしいアレッサンドロくんを交えて完成したジャンバラヤを食べつつ話を聞いたところ、フォルカスが帰省するという形で女王は家族に伝えたらしい。
女王には妹さんが転生者として狙われる可能性、もしくは関係者かもしれないことを伝え済みだそうで……アレッサンドロくんはその辺知らないそうだ。
「今回こいつを呼んだのは妹の様子を聞くためだったんだが……本当にすまない。私の教育が足りなかったのだろう」
「お前のせいじゃねーだろ」
私たちに頭を下げるフォルカスに、ディルムッドが苦笑して答えた。
フォルカスは長男として父親代わりに彼らの面倒をみてきたと自負しているようだけれど、正直に言えば私も彼のせいだとは思えない。
だって、彼らの年齢を考えたらいくらしっかり者の長男だったとして、それは責任の押しつけにしかならないんじゃないのかって思うからだ。
確か前に、一つ下の妹と二つ下の弟たち、そして四つ下の末っ子とか言ってたもんね。
(確か、フォルカスが国を出たのが十五、六の頃とか言ってたっけ?)
冒険者として生きるためにもあまり年齢がいってからでは周囲に馴染めないのではという女王の配慮だったらしいけど、それでも世間知らずなんじゃないかなあと時々思うのは内緒だ。
とりあえずまあそれは置いておくとしても、十五、六の子供がそれよりも前から〝長男だから〟って理由で父親代わりしてたっていっても無理があるでしょ。
慕われていたみたいだけども。
アレッサンドロくんは第三王子として立場は王位継承権を持っているけど、双子の片割れと姉がいるから割と自由にさせてもらっているらしい。
女系の王統だから、長女である姫が王太子ってことで、いずれはアレッサンドロくんが軍部を、双子のもう一人が文官をまとめて家族で支え合う未来を描いていると胸を張っていたけど……ただ、ジュエル級冒険者になったフォルカスを尊敬しているので、お忍びで町を歩いて真似事をしていると話された時にはフォルカスが頭を抱えていた。
「……フォルカスのせいじゃないでしょ、どう考えても」
国を出たのだ、その後のことは親である女王と周囲の重鎮たちがなんとかすべきだ。
身内の恥だとフォルカスは思っているかもしれないし、その通りではあるけど!
「すまない、アルマ……」
「いやあ、でもフォルカスと結婚しても親戚付き合いはお断りしたいかなー」
「お前の望むように」
そこは躊躇ってあげてと思わなくもないが、賛成してくれて嬉しいなあ!
結婚するって思わず言ったことについてはノーコメントな所も嬉しいっていうか、フォルカスの中では決定事項なんだろう。
いやってこともないしいいんだけど、私たちこういうことがどうにもこうにも色々ずれている気がするってフォルカスわかってんのかな?
「まあ、いいや」
色々思うところはあるけど、ここであれこれ考えても話はすすまない。
お皿を片付けつつデザートにフルーツを取り出したところで、アレッサンドロくんもわざわざ自分が呼ばれた理由をなんとなく察したようだった。
「……兄上が番を連れての帰参となると、あいつが荒れるでしょうね……」
「やはり、変わらないのか」
「ええ、まるで。今回の帰参も兄上を出迎えるためにドレスを新調していたくらいですしね」
ああー、頭が痛いわあ。
今回の一件がなければ、イザベラが〝悪役令嬢〟として今後も関与するのかって心配な点がなければフォルカスとディルムッドに押しつけて、私たちは会わずに終えるってこともできたんだけどなあ!
(いや、転生者云々に関しては二人に任せて私たちは私たちで別のアプローチをするか?)
ご挨拶は女王と黒竜帝にだけしてさ!
あれっ、それ、良くない?
「兄上の花嫁になるのは自分だって今でも言ってますよ……」
「止めてくれ、本気で」
……でもフォルカスのげんなりした声を聞く限り、押しつけるのも不憫だな?
どうしたもんかなあと思ったところで私の袖をクイクイひっぱるイザベラに、私は小首を傾げる。
「姉様、もしその姫君と対面なさるのが苦痛でしたらわたくしにお任せくださいませんか。こう見えても、社交界で培ったものがありますもの、お役に立てると思いますの」
「イザベラ……!!」
妹は妹でもうちの妹は超イイコ! はっきりわかんだね!!
気合いを入れて任せろという表情を見せて笑うイザベラを私は衝動的に抱きしめる。
こんな可愛い妹一人に任せてなるものか、私はおねえちゃんだぞう!
「イザベラがいてくれたら百人力だよ! でも、私も一緒にいるからイザベラも私を頼ってね!」
「……もう、姉様ったら。わたくしはいつだって姉様を頼っておりますのに」
そうよね、私たちは姉妹だもの。
お互い支え合うんだから、物語がなんだってんだ!
かかってこいってモンだよね!!
……いや、かかってこられても迷惑だった。




