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フォルカスの普段見られないような表情を見て、私は正直楽しい。
なんせ、告白というか、宣言された時から今日までこっちはやきもきしてばかりだったのだ。
……いや、まあ。うん。
私がちゃんと説明しなかったのが悪いんだけども。
(変に気を回したのがいけなかったんだねえ……)
フォルカスが私を選んで、家族と仲違いしたら申し訳ないなあとかそんなことを考えるよりも前にちゃんと話し合えば良かったんだよなあと今なら思う。
私も案外、乙女思考があったらしい。
好きな人のために、好きな人を傷つけないために、どうしたらいいのかって暴走気味だったんじゃないかな。
……なんて、今ならちょっと反省出来るくらいに余裕が出来た。
それがオリアクスのとんでも発言から始まって驚きの連続だったからそういう気負いも何もかも吹き飛んだんだと思うと釈然としないものがあるんだけども……。
「まあだからさ、正直自分でも驚きではあるんだけど、心配事が減ったかなって思ったら素直に気持ちを伝えようかなと思って」
「……アルマ」
「ただ、番ってのに関しては、私も良く理解出来てなくてさ。今すぐ結婚しようとか二人で暮らそうとか言われても正直困っちゃうかなあ」
私は今思うところを素直に話すことに決めていた。
なにせ、番ってのが本能的なものだってことは理解しているがそれってつまり、繁殖的な意味合いの本能が適した相手を選別する特殊能力みたいなものでしょう?
まあ、恋人関係だってそれが長じて夫婦になり、いつかは家族となっていくものだと私は考えているのでそこは良い方法なんじゃないかと思っているので、それはそれ。
ただ、私は冒険者であることを楽しんでいる。
自由気ままにあちこち周り、好きなことをして好きなように生きているこの生活が、好きだ。
だから……番っていうのがもし夫婦みたいなものであるという解釈で間違っていないなら、私としてはとても難しい問題だなと思うのだ。
「正直さ、まだ私はオリアクスのことを〝父親〟って半分認めているようで、今更親子って言われてもどうしていいかわかんないし。でもどうせだったら、これを機に交流をちゃんとしたいっていう気持ちもある」
「……ああ」
「イザベラに、世界中のあちこちを見せてあげたいとも思ってる」
「……ああ」
「それに、今回の件も気になるし」
「……ああ」
「ああ、ああ、ってそればっかりでおかしいの!」
私が笑えば、フォルカスは少し拗ねたようにしながら笑ってくれた。
手を伸ばして、私の頬に触れるその手はどこまでも優しい。
「それに、黒竜帝が認めてくれたからって、フォルカスのご家族が私を認めてくれるかどうかわかんないしね……」
「大丈夫だろう、基本的にうちの母親は子が幸せならそれでいいというタイプだ」
いや、それよりも問題の妹さんが絶対に反対すると思うんだけどね?
反射的にそうツッコミそうになったけど、そこは黙っておいた。
私にそれを言われてもフォルカスとしてはなんとも言いづらいだろうなっていう、大人としての配慮である。
どうだ、オトナの女らしい心配りだぞ!
「そうだな……うちの家族はともかく、今回の妖精族の件や、例の予言についてを片付けながら一緒に行動すればいい」
「え?」
「私の考え過ぎならばいいが、予言書扱いされている小説について出てくる聖女と悪役令嬢、あれが王国で起きた件と重ねる輩が現れるならば、イザベラの身に危険が及ぶかもしれないだろう」
「……まあ、ね」
フォルカスの言葉に私も苦い気持ちになる。
折角、色々な柵から抜け出したイザベラが、今更終わった話に連れ戻されそうになるなんて……そんなのは絶対にダメだ。
「じゃあ、とりあえずはフォルカスの妹さんに会ってみてから、かあー」
「オリアクス殿の知り合いだという悪魔からも情報が聞けるかもしれないし、もしかすればイザベラに関しては何も起きないかもしれないがな」
「まあ、それはそれであちこちフラフラしてればいいんじゃない?」
ぐっと目の前のグラスを呷れば、僅かに入っているアルコールが喉を熱くするのを感じた。
酔いはしないけど、もういいかな。
「それじゃあ、フォルカスと私はこれから恋人でいいのかしら?」
「願ったり叶ったりだ」
「そ。……じゃあ、たまにはこうして二人の時間を作ろうね。これからについては、まあ……まず、フォルカスのご家族に挨拶してからおいおいってやつ?」
私がそう笑って席を立てば、フォルカスはまた呆れたような顔をしてから笑ってくれた。
そしてひらりと手を振ってくれたから、きっと了承の意味なんだろう。
ごめんね、なんかこう!
ふざけてないと! 心がもたないんで!!
多分、フォルカスのことだから私のこの考えなんてお見通しなんだろうなあと思うと、ちょっと悔しかった。




