2-25
フェザレニアの国は、とにかく寒い……というイメージがあったけれど、そうでもない。
帝都がある山間部に行けば寒さも増すという話だけど、領土が広大なこともあって端っこの方は割と温暖な気候だ。
(よくもまあ、こんな広い国を維持できるもんだなあ)
地図を眺めながら私はそんなことを考えつつ、欠伸を一つかみ殺す。
帝都への道のりは、早くて一週間ってところだろうか。
私たちの馬車を引っ張ってくれるお馬さん次第と言えばそうだけれど、優秀な子なのでしっかりと雪対策とかをすれば割とすんなりいけることだろう。
そもそもフェザレニアが広大なこともあって馬車道がとても整備されているのが印象的だ。
元々が山間部にあった小さな国が周囲の小国を吸収するような形で少しずつ拡大していったという歴史がある国だったと思うんだけど、黒竜帝の庇護っていうのはそれだけ影響力があったんだろうなあ。
帝国として形になった後は、物資の行き来が楽になるようにしたって話だけど……。
(確かに、ここに来るまでもフェザレニアは豊かだ)
この辺りの特産品の他にも、フェザレニア国内の気候が違う土地の作物まで色とりどりな食料が市場を賑わせているのを見て、私としてもちょっと楽しかった。
ああうん、そうじゃないそうじゃない。
いや、あっちこっちの果物が食べられるってのは楽しかったんだけども。
ちょっと食べ歩きにも熱が……違う、そうじゃない。
果物が美味しかったのは本当だ!
(イザベラも喜んでたし、オリアクスも楽しそうだったし! なんだかんだディルだってフォルカスだって町の中で楽しそうだったし)
誰に何を言われたわけでもなく心の中で一人反省会を開き完結するこの悲しさよ。
オリアクスの紹介してくれた宿屋さん、これがまた美味しいお料理を出すところでさあ……あれ、私たち何してるんだっけって思うよね。
というか、人間の食事では大してエネルギー摂取出来ないとか言っているオリアクスが美味しい料理を出す店を知っているっていう事実に驚きが隠せないんだが。
「アルマ」
「……フォルカス」
そして私はというと。
意を決して、フォルカスを誘っていた。
とはいっても、宿屋に付属しているバーみたいなところにだけどね!
オリアクスの紹介で泊ることを決めたんだけど、従業員の質もいいしお料理は美味しいし、部屋も造りがしっかりしていて高級品を知り尽くしているイザベラでさえ手放しで褒めるレベルな上に、レストランの他にバーがついているってどこの高級ホテルよってな感じなのにリーズナブル。
……一体うちの〝父親〟はどんだけ人間生活に馴染んでいるんだろうか。
それはともかく。
私はフォルカスと話をする決意をしたわけだ。
とりあえず、私が懸念していた内容、それから今後について。
この二点は話さない訳にはいかない。
少なくとも〝番〟云々の問題なんだから、私一人で解決しようとしたって仕方のない話だし……。
「ごめんね、呼んじゃって。ディルムッドは?」
「部屋で大人しく寝るそうだ」
「そっか」
ガラにもなく緊張している。
カウンターに座った私の前には、アルコール弱めの果実酒。
フォルカスは隣に座ると手慣れた様子で注文をしていた。
「それで、なにかあったのか?」
「いや、うんと……ちゃんとさ、話しておきたいなって思って」
「……うん?」
「私、フォルカスのことが好きだよ。多分、フォルカスが考えるよりも前から」
「……アルマ」
「諦めなくちゃいけないかとも思っていた時期もあったくらいには、好きだよ。だからね、番だって言ってくれたこと、嬉しかったんだ」
私の言葉に、フォルカスは少し驚いたようで珍しく間抜けな表情を見せている。
それがちょっとだけ可愛らしく見えて、私が笑えば彼は憮然とした表情に変わった。
「では、なぜ……」
「うん」
もし、フォルカスが王族でなかったら私はきっと彼の思いをその場で受け入れていたと思う。
多少、まあ、いきなりすぎた宣言に文句の一つや百個は言ったかもしれないが、最終的には。多分。素直になれなかったかもしれない可能性は否めない。
まあそれは置いておくとして、私は……まあ、ほぼオリアクスの娘で間違いないんだろう。悪魔は世界中で恐れられている存在。その娘は受け入れられるのか?
ただ冒険者をしているだけなら気にすることもないだろうけれど、フォルカスだけじゃない、その家族にとって……とまあ、そういう心配事があったのだということを私は淡々と告げた。
「……そうか」
フォルカスも言われた内容に思うところはあったんだと思う。
色々と複雑そうな顔をしていた。
まあ、私もフォルカスの性格はよく知っているので多分彼ならそこで拒否するような家族よりも私を選ぶとかなんとか言おうと思ってるんだろうと思って私は笑顔で言葉を続けた。
「まあ、それでなんだけどさー。これだけ考えておいて笑っちゃう話なんだけど、黒竜帝とオリアクスは友達なんだってさ」
「……は?」
そして私の言葉に、フォルカスがまた目を丸くする。
まあ、そうなるよねー!!
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