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まあ、オリアクスの話を要約すると、だ。
かつてこの世界は多くの種族がいて、手を取り合って暮らしていた……というのは神話の頃のお話。
これは事実であり、実際多くの種族がそれぞれの長所を活かし、互いの短所を補って生きてきた。
そのことに神々は大変満足していて、この状態ならば子供たちにこの世界を委ねても問題なかろうということで、彼らは去った。
どこへかって? それは誰も知らない。
若干ファンタジーだかSFだか、そんな要素が出てきそうな感じではあるがとにかく神は去ったのだ。困った時に使うようにと知恵をいくつか残して。
で、神々が去った後の世界も平和は平和だった。
だが力関係に関与する存在がいなくなったことで、狂いが生じた。
そして各種族は袂をわかった。
とはいえ、それは敵対するという意味ではなく、それぞれが干渉し合わない程度に距離を置いたというもの……らしい。
「我々のようにな」
オリアクスが肩を竦める。
いやうん、そもそも悪魔族と精霊族に関しては肉体がない分それはまた別の話じゃないのか?っていうツッコミもあるんだけど、この場では置いておこう。
「じゃあ、瘴気ってのが不和になったことで出てきたっていうの?」
「まあ、そう言われておるが……あまり気にしたことがなかったから、私もよくは知らない。おそらく黒竜帝のやつも知らんのではないかな」
「適当だなあ?」
「アルマも今まで生きていることに不自由がなかったからこそ、そこまで世界について深く考えたことはなかっただろう? それと同じことだとも」
「まあ、そりゃねえ」
「イザベラも、婚約者の浅はかさと聖女たちに対する扱いを一歩引いたところで見るまで感じなかったように」
「……その通りですわ」
オリアクスの言葉に、私たちはなんとも言えない気分になったが反論は出来ない。
それはともかくとして、各種族がそれぞれの生活を優先するようになってから、各地で瘴気が生じるようになった。
それに伴い魔物が生まれるようになり、そして世界が今のような姿になったわけだけど……勿論、当初はもう少し複雑なあれこれがあったとオリアクスも聞いているようだけれど、殆ど覚えていないらしい。
「興味がなかったからねえ……」
ほんの少しだけ申し訳なさそうにしているので、私たちも気にしないと答えたけど。
だってそうじゃない? 私もあまり興味のないことは覚えられないし……。
まあそれで、一時期瘴気がすごくて魔物の発生率もすごかった時期があるらしく、そんな時さすがに各種族の偉い人が集まって会議したんだそうだ。
それで、去って行った神々の知恵を借りて異世界から一人の聖女を召喚した。
何でかは知らない。オリアクスも召喚された聖女がいて、彼女が瘴気をなんとかしてくれたってことしか聞いていないそうだ。
「あれ? じゃあなんで聖女って今複数いるわけ?」
だって呼ばれた時は一人で、それまでいなかったわけでしょ?
私と同じように、イザベラも首を傾げた。
オリアクスは少しだけ考えてから、首を振る。
「思い出せないねえ。まあ、始まりの聖女はそんな感じだったというような昔話を私も聞いたことがあるというだけだから」
「そう、でしたか……。いえ、ありがとうございます、オリアクス様!」
少しだけ残念そうにしたイザベラが、それでも笑顔でお礼を言う姿に私は思わず頭を撫でる。
ええー、だってこんないい子なんだもの、褒めなくちゃだめでしょ!
そんなイザベラを見てオリアクスもほっこりしたのだろう、笑顔を浮かべた。
「いいんだよ、イザベラ。そんな他人行儀にならずとも……お父様と呼んでくれて」
「ブレないな、ホント!」
まあ、黒竜帝サマにお話を聞くのに、色々驚かずに済むだろうってのは……いいこと、なのかしらね?
ところで私、心配事が綺麗さっぱり消えたのでフォルカスの気持ちを受け入れるっていつ話したらいいんだろう……。




