2-22
さてはて、そんなこんなで私たちは一路フェザレニアを目指すことになったんだけど、オリアクスとイザベラが打ち解けるの早くて本当にびっくりだよ!!
私が可愛がっているから可愛がるっていうよくわからない理論で動いているオリアクスはイザベラのことを私同様娘として扱っているんだけど、まあまだ私が『父親』ってきちんと認めているわけじゃないからイザベラもそこは濁したままだ。
(……いやもう……なんていうか、正直に言えば情が湧いてるしなあ)
オリアクスが私の父親でなにが問題なのかって言ったら、単純にフォルカス関係ってだけの話で……別にオリアクス自体がそこらへんで変な実験をしているとか、人間社会を恐怖に陥れているとかでもないし。むしろそういう状況は悪魔は好まないんだったね。
どっちかっていえばオリアクスは人々が喜ぶ状況……たとえば、お祭りとかに混じって楽しそうにしているお茶目なおっさんっていうか。
おそらく相当高位の悪魔なんだろうとは思う。
そして、私が思うよりも彼はずっと長い年月を生きているんじゃなかろうか。
(……どうして、そこまでして〝家族〟がほしかったのかな)
旅の最中、私たちは色んな話をした。
とりとめもない雑談や、空に浮かぶ雲が何に見えるかなんてくだらない話だったり、かつて滅びた国の話だったり、英雄譚だったり。
そのどれもが楽しくて、私もイザベラも終始笑っていた。
オリアクスによれば、悪魔という存在は悪魔界(と便宜上呼ぶことにした)ではなんというか、自然発生的に生まれてくるのだそうだ。
それを近隣の悪魔が拾って育てたり、みんなで面倒を見ているうちに一人前になるらしい。
わーお、アバウト育児。
いやでも精霊と似たような存在っていうなら確かにそうだよね、精霊も自然から生み出されているって聞くし。
「どうかしたのかね、アルマ」
「オリアクスって長生きなんだよねえ」
「それはまあ、お前たちに比べればそれなりに」
ぼんやりと、悪魔は悪魔を育てるのに、どうして人間の家族みたいな形を求めたんだろうって思う。
その方法については相変わらず答えてくれないし、その考えは悪魔族にとってみると異端だというから相当な思いと覚悟がないとなせないに違いないし、時間の概念ってものがない大精霊をして『とうとう』なんて言わしめたんだからどのくらいトライ&エラーを繰り返したのか。
(そうまでして、実子というものがほしかった?)
……私で、オリアクスは満足なのだろうか。
ふと浮かんだ疑問を打ち消すように、私はオリアクスに言葉を投げかけた。
「それじゃあさ、黒竜帝とも面識があったり?」
さすがにそれはないか。
自分で聞いておいて馬鹿だなと呆れた笑いが零れそうになったところで、オリアクスは大真面目な顔で頷いた。
「うむ、知己だな」
「はあ!?」
「チェスで勝負をする仲だとも。今のところ私が負け越しているので、今回はちょうど良い機会だから再戦を……」
いやいや待って、とんでもない情報が今になって追加で投下されたな?
それじゃあなにか?
私が『父親が悪魔だとしたら、フェザレニア王家はフォルカスとの交際を反対するかも』って心配していた私の気持ちは単なる杞憂で終わったりする……?
「それを! 早く! 言ってほしかった!!」
「お、おう?」
黒竜帝にわざわざ悪魔と血縁なのか確認してほしいとかお願いしていたら赤っ恥かくとこだったわ!!
いや別に恥ずかしいことじゃないか……?
そもそもそういうことを調べる方法はあるのかって疑問なだけで……あれえ?
私の叫びに驚いたオリアクスってのはレアではあったけれど、こっちはそれどころじゃないわあ。
夕飯のソーセージ、オリアクスの分は一本減らそう。そうしよう。
悔しがったって知るもんか!
私たちの会話を横で聞いていたイザベラは驚きで口を押さえた状態だったけれど、おずおずといった様子で私を見てから、オリアクスを見た。
「で、では……オリアクス様は聖女について何かご存知なのですか?」
「うむ? 聖女についてとはどういうことだね?」
「はい。あの……」
そしてイザベラが、これまでの経緯と疑問をオリアクスにぶつけたのだった。




