2-17
「残留思念?」
「はい。聖女はかつての聖女たち、そして救いを求める人々の〝想い〟を受け継ぎ、そしてそれらを頼りにする技があるのですが……それと似て異なるものを、このナイフに感じます」
イザベラが祈るようにしてもう一度確認をし、険しい顔をして私にきっぱりと言った。
聖女たちってそんな恐ろしいことしてるんだなあと思ってしまった。
だって聖女たちの祈りや人々の願いや想いを繋いでいくっていうのは、……なんだか。
(呪いみたいだ)
ただその言葉だけを聞いたらとても素敵なもののように思えるけれど、聖女たちの役割だとか、選ばれて拒否権なく働かされていることとか……そういう所を考えるとどうしても、ね。
イザベラと姉妹になる前だったなら、きっと私は素敵なことだねって笑えたと思うんだけどさ。
今だとそれが聖女たちの重荷でもあるんだよなってわかるから、素直には受け止められない。
「ふうむ。ではそれは各地で多発している妖精族の行方不明者問題に結びつくやもしれん。なに、こちらもついでだから調べておこう」
「……随分協力的なんだな?」
イザベラの言葉に興味深そうな表情を見せていたオリアクスが約束してくれたことに、ディルムッドは怪訝そうだ。
疑うというような感情ではなく、ただ不思議なんだろうと思う。
それに対してオリアクスはにっこりと私たちに向かって笑顔を見せる。
「勿論、それはそうだろう! なにせ娘たちに良いところを見せて父親として認めてもらわねばならんのだから!」
「そこか!」
「なにせ親子関係を築き上げる前に恋人候補がいるとは……ううむ、反対するというイベントもこなしたいところではあるが、是非頑張ってもらって孫を抱かせてもらうというもっと大きな物事の方に期待も高まるものであるし、悩ましいところなのだよ」
どこまでマイペースなんだろう。
私が呆れていると、ディルムッドが成る程といった様子で頷いている。
「間違いなくアルマの父親だろ、このマイペースっぷり」
「ここまで酷くないわよ!」
そもそもフォルカスとは友達以上恋人未満、まあ両思いであるということはバレているというかなんというか、……え? 言ってないけど伝わってるんだよなこれ?
思わずフォルカスの方に視線を向けたら良い笑顔を返された。
それはどっちだ!?
っていうか孫ってなんだ、飛躍しすぎだ!
まずはお付き合いをしても相手方が大丈夫だって思ってもらってから……って違う、そうじゃない。
「うむ、そうだな。まずは父親として役に立つところを見せて、親子関係を築くところから始めようではないか!」
「聞けよ人の話!!」
むしろウッキウキで行動し始めているオリアクスに私は全力でつっこむしかない。
なんかその横ではイザベラが両頬を押さえて「娘……!」って喜んでるし。
ああそうだよね、親の愛にも飢えてたね!
「イザベラはいいわけ? 本当にオリアクスと私が血縁? だったら、悪魔が親になっちゃうけど」
「アルマ姉様はなにがあろうとわたくしの姉様ですわ。そして、オリアクス様はどのような形であれ、姉様を大切に思われていることは間違いないと思います。でしたら、わたくしは嬉しゅうございます」
「イザベラ……」
相変わらず!
うちの! 妹が!
こんなにも可愛い……尊い……!!
思わずぎゅっと抱きしめた。
いやもうこんなん抱きしめるしかないわ。
「ね、姉様?」
「うんうん、私はイザベラの姉だもんね! おねえちゃん、イザベラが妹で幸せだよ!」
「……もう、姉様ったら。でも、ふふ、わたくしも幸せですわ」
照れくさそうに、それでも本当に嬉しそうに笑ってくれるイザベラを見て私も嬉しい。
ただ、それを邪魔するかのような咳払いをするディルムッドに空気読めとかちょっぴり思ったけど黙っておいてあげた。
「今お前、ぜってぇ失礼なこと考えてたろ」
「ないわよ。で、なに?」
「いちゃつくのはその辺にしとけ。そろそろ移動しないと本格的に夜になっちまうからな。……それと、フォルカスの方も構ってやれよ」
ディルムッドの最後の言葉は私にだけ聞こえるように言ったけれど、多分筒抜けだぜ!




