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「ヒトを食欲だけの人間みたいに言うのはやめてくれる!?」
「えー、だって本当のことじゃないー」
「美味いキノコが山イノシシに食われちまうって聞いて退治したのはどこのどいつだ?」
「だって! あれは! イノシシたちが異常繁殖した結果山からキノコが消えそうになってたからじゃない! あんたたちが困って私に依頼したんでしょーが!?」
確かに美味しいキノコを守りたい、その気持ちはありましたけど!
だってそうじゃない。
こいつらが住まう妖精族の村付近は精霊村よりも更に強い隠蔽がかけられているんだけど、その近くに絶品のキノコが生えていたんだから……!!
そもそもそうやって隠れ住んでいる妖精族たちだけど、山を越えてやってきた山イノシシの群れがこの辺りを荒らした時期があり、その駆除を精霊村に立ち寄った私が請け負ったってだけの話であって。
キノコはそのついでである。
…ついでで分けてもらっただけなんだってば。いや、本当に。
「まあそれはともかく、アルマはその時、周囲の被害を最小限にしてくれた。それこそ山イノシシに対してもね。……だから、今回の件は関係ないとアタシは信じてるよ」
「そりゃどーも」
エリューセラが笑顔でそんなこと言うからここは大人しく引くのがオトナってもんだろう。
なんかちょっと引っかかる理由だけどな!!
私は苦笑しつつ、ランバとエリューセラに向かってみんなのことを紹介した。
警戒はされたけれどフォルカスが竜の血筋と聞いて、それはそれで同族を歓迎するみたいな空気になった。
……なんか解せぬ。
「まあ、私たちは私たちでなんにも状況わかってないのよ」
私が肩を竦めてそう言えば、ディルムッドが頷く。
そう、隠す事実も何もない。
私たちは、何も知らないのだ。
「俺たちは繁殖期だってのに吸血蜘蛛が少なすぎるってことで調査に来ただけだ……とはいえ、死骸を見つけるばかりで犯人の痕跡らしいモノは見つけられていない」
「わかっているのは、鋭利な刃物を使って彼らの腹部を切り裂き糸袋を奪っているようだというところか」
ディルムッドとフォルカスの言葉に、ランバが難しい顔をして腕を組んだ。
ちなみにアラクネ族のランバはぶっちゃけると蜘蛛人間ってやつで、それでもかなりヒト型なので私も友人関係を築けているのだ!
とはいえ、不思議なんだよなあ、アラクネ族……。
腕が左右併せて四つ、脇腹から虫っぽい足が一対、それで両足って……なんでそういう進化したんだろうね?
ちなみにちゃんと糸も出る。
背中にそういう部分があるらしくて、いつだって上半身裸だ。
それもあって人里に降りないんだろうけど、希少種で彼らが作る布地が最高級品って言われていることもあって人攫いまがいのことも起きているからこうやって隠れ里に暮らしているんだよね。
そのせいかアラクネ族自体が人口少なめで、人間嫌いが多い。
ランバはそんな一族の中でも割と人間に対しても理解があるっていうか、好奇心旺盛なタイプだ。
「……そうか……いや、立ち話もなんだ。俺らの里に来てくれるか、そこで話そう」
「そうね、ここじゃあ誰が聞き耳立ててるかわかったもんじゃないもんね」
エリューセラの言葉に私たちは顔を見合わせた。
どうやら、彼らは私たちよりも事情を知っているらしい。
「……断る理由はないね」
「わ、わたくしは姉様が行くのであれば勿論お供いたします!」
私の呟くような言葉に、縋り付くような勢いでイザベラが必死に訴えてくる。
その顔色はあまり良いようには見えなかったけれど、やだなあ、置いていったり戻れだなんて言うわけないのにね。
私はその言葉の代わりに、にっこりと笑ってみせる。
できるだけ、可愛い妹が安心してくれるように。
「うん、イザベラ。一緒に行こうねえ」
折角ここまで来たんだ、あれこれ片付けて安心安全な森をイザベラに楽しませてあげようじゃないか!




