2-6
森の中を歩く中で、あちこちキノコやら葉っぱの一部やらがキラキラと色とりどりに輝いていることを不思議そうに視線で追うイザベラは、それでも小さな子供がするように触れようとすることはなかった。
ただ、興味は尽きないのだろうその目は色とりどりの輝きを受けてよりキラキラして見えるからなんとも可愛いじゃないか!
「イザベラ、次のステップに進もうか」
「えっ?」
「魔力の流れを理解して、それを出すことを練習したね?」
「はい」
「それじゃあ、片眼鏡をイメージしてごらん。魔力を、自分の片目の眼鏡にするの」
「片眼鏡……」
私の言葉に、イザベラは立ち止まって、少しだけ考え込む様子を見せたけれど目を瞑り集中したようだ。
私が傍にいるから安心して集中出来る、そういう彼女が愛しいよね!!
いやあもう、うちの妹、可愛いでしょう?
「……わあ……!!」
そうして彼女なりに完成させたのだろう、魔力の眼鏡を通して見える世界は新しい驚きと喜びを彼女にもたらしたようだった。
よしよし、大成功。
私が見えている世界とはまた少し違うかもしれないけれど、おそらく私が今まで見聞きしたことから判断して精霊を視る方法の一つとして、魔道具がある。
でも極論、魔力でそういうことができると学者は論じていて、それは机上の空論だとかなんとか色々言われていたけれど……まあ、要するにイメージの問題なんだろうと私は考えている。
元より精霊を視ることの出来る人間は、魔法を使う者たちだけに留まらない。
魔力が弱くても、強くても見える人は見えるし、逆も然り。
「色が、今まで見ていたものよりもいっぱい……!!」
「精霊は見えそう?」
「ええと……色の塊の中に、薄くは見えるのですが……。わたくしの魔力操作がまだ不十分なのだと思います」
「まあ、そこは慣れかな。そろそろ解除した方がいい、維持し続ける訓練はまた今度ね」
「はい」
あちこち光っているのは、精霊や妖精の魔力によるもの。
魔力の種類によって色が違うそれが、森中を彩っているんだからそりゃもう綺麗だ。
特に夜は真っ暗になるもんだから、ちょうどいい明かりくらいの気持ちだよね!!
ムードあるわー。
この辺、害獣も少ないし、デートには最適だよね。
イザベラがこんだけ喜んでくれるんなら連れてきた甲斐もあるってものだわー。
もうちょっと行ったところにもっと喜んでもらえそうなスポットあるけど、これ以上の寄り道はさすがにあの二人に悪いからまた別の日かな。
(それにしてもフォルカスが救援信号を送るなんて、なにがあったんだろう)
吸血蜘蛛だって基本的には大人しい種族で、繁殖期だから獲物を求めてあちこち出てきて家畜被害が出るってだけの話だしね。
雲羊はその特性上、捕まえやすいっていうところがあるからなあ。
見晴らしの良いところにいるから、普段の状態なら吸血蜘蛛も森からは出ていかないけどこの時期だけは……ってやつだから。
ちょっと脅かすくらいですぐ逃げてくれるはずだし、その点フォルカスの炎があれば問題ないはずなんだけど……ディルムッドが何かやらかして蜘蛛に吊されたって笑い話でもないだろうし。
そんなことを考えていると、前方の茂みががさりと音を立てる。
私がイザベラを背後に庇うようにしていると、そこから小さな羽を生やした蜘蛛が顔を覗かせたではないか。
「まあ、……え? 蜘蛛、ですわよね……?」
驚いた様子のイザベラに、私も困惑しつつ教えてあげることにした。
なんで私まで驚いているのかって?
そりゃコイツがレア中のレアな蜘蛛だからだよ!
「うん、まあ蜘蛛は蜘蛛。コイツはね、妖精族に属する蜘蛛っていう分類になる、蝶蜘蛛ってやつ。錬金術師たちはそいつの鱗粉買うのに大金はたくって話だよ」
なんに使うかは知らないんだけどね!




