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「と……とにかく!」
フォルカスからの花は、それだけじゃなかった。
花言葉? そんなん秘密だ、秘密!!
なんと受け取った花の魔力が普通に光らす以上に籠もっているからなんだと首を傾げたところで、なんとそれが救援信号になったのだ。
おおう、器用な魔法の使い方するな……さすが大魔術師と呼ばれる〝氷炎〟様だよ。
「フォルカスが救援信号を送ってくるなんてよっぽどだと思うんだ。私は行くけど、イザベラは……」
「勿論ご一緒いたします! わたくしは確かに戦えませんが、結界や治癒魔法できっとお役に立てると思いますから、どうか、どうかお願いです、置いていかないで……!」
「お、おおっと?」
一緒に来るかと問うつもりが不安にさせてしまったらしい。
必死な顔で私に縋ってきたイザベラに、私は小さく笑って頭を撫でてあげた。
(……これまで色々我慢していた反動かなあ、寂しがりになっちゃって)
いや、これはこれで可愛いからいいんだけどさ。
怖いならマァオさんと待っててもらうつもりだっただけで、私に可愛い妹を置いてけぼりにするつもりはこれっぽちもないのだから。
蜘蛛なんざ速攻蹴散らして戻ってくるつもりだったもの。
あ、苦手だから遠慮なくぶっ飛ばそうとかそういうつもりでは。ほんのちょっとだけ。
「大丈夫だよ、ほらほらそんな泣きそうな顔しないの。じゃあマァオさんには晩ご飯をバスケットに詰めてもらって、アイツらのとこに向かおうね」
「……はい! わたくし、お願いしてまいります!!」
「うん、お願いね」
早足で出ていったイザベラを見送って、私は手の上の花を指でつまみ上げ眺める。
先ほどまで青い光を放っていたその花は、もうフォルカスの魔力を失って白くて可愛らしい本来の姿へと戻っていた。
(ラブレターみたいな花を送るなんてさ……ほんと、キザなんだから)
そんなかっこつけはするくせに、救援信号付きってなんだかおかしくて笑える。
まあ花を選んで送ってくるだけの余裕があるんだから、きっとちょっと手が足りないな程度に〝困って〟いるんだろう。
長い付き合いだからよくわかる。
あー、もしかするとヴァンデール爺さんの酒の相手に疲れたとかそんなオチもあり得るな? だとしたら手土産に酒があった方がいいかもしれないなあなんて思いながら私も一つ、伸びをする。
階下に向かえば、ちょうどバスケットにあらかた食事を詰め終えたらしいイザベラとマァオさんが二人揃って私を見て、笑顔を見せてくれた。
なんだこの可愛い組み合わせ。
「姉様、準備出来ましたわ!」
「うん。え? いや、ちょっとバスケットの量多くない?」
「マァオ様が、わたくしたちだけでなくディル様たちの分まで詰めてくださいましたの」
「ああ……そう……」
「アルマ殿なら問題ないだろう? どうせあのやんちゃ坊主たちがやり過ぎて困っているんだろうさ、気付けに葡萄酒も入れておいてあげたから、飲ませてあげておくれねえ」
「……ありがとう、マァオさん」
どこまでお見通しなんだろう。
そんな風に苦笑しつつ、亜空間収納にバスケットを入れる。
若干、イザベラが羨ましそうにしてたけどこれはちょっと使えるかどうかわかんないかな……機械都市で手に入れた魔法の鞄で許してほしい。
「それじゃあアイツらにお弁当を届けに行きましょうかね」
「お供いたしますわ、姉様」
「魔力を辿ってみた感じだと、森の奥だから馬車は止めた方がいいねえ。ちょおっと歩くようだけど、大丈夫?」
「はい、お任せください!」
そっかあ、そんなに一緒に行けるのが嬉しいのかあ。
るんるん気分のイザベラがあんまりにも可愛くてによによしてしまうんだけど、どうしたらいいのかしらこの気持ち。
それはマァオさんにも伝わっているらしく、彼女もまたにっこりと笑ってイザベラのその様子を見守っている。
気がついたイザベラが顔を真っ赤にして、私の手を引っ張った。
「も、もう! 姉様、早く参りましょう!! ……それではマァオ様、行ってまいります」
「はいはい、いってらっしゃい。アルマ殿が一緒だから大丈夫だとは思うけれど、気をつけてねえ」
ひらりと手を振って私たちを見送ってくれるマァオさんの姿が見えなくなる所まで、何度もイザベラは振り返っていた。
どうしたのかなって思ったけど、ほうっと息を吐き出したイザベラは目を細めて笑った。
「……いってらっしゃいって言われたのが、あまりにも久しくて。嬉しいものですね」
そう照れ笑いするもんだから、私は心臓が止まるかと思ったね。
何この可愛い生き物。私の妹だったわ。




