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どっしりと構えた扉の奥にはでっかいテーブルがあって、その奥にナイスミドルダンディが座ってる。私も知っているカルライラ辺境伯ライリー様。
そしてその横に立っている美形が二人。
一人はご子息のヴァン様で、もうお一人はご息女のヴァネッサ様だ。大変発音しづらいのが難点である。
まあ三人とも実は気さくなお方なので私がちょっと発音が変でも許してくれるって知ってるから全然余裕だけどね!
そんな彼らとは別に、部屋の隅にローブ姿の人物が一人いるけど、あれはディルの相棒で私にとっても見知った人物だから会釈をしておいた。反応はない。寂しいな!
「久しいな、アルマ」
「お元気そうで何よりです、辺境伯様。あーでも話はまた後ほど、まずは彼らと話してもらえませんでしょうか」
「承知した」
にっこりと笑って私に挨拶の言葉を投げかけてくれたライリー様だけど、すぐに厳しい顔つきになる。
まあ私も普段だったら辺境伯様なんて呼ばないしね!
お仕事なんだって線引きしてくれたんだと思う。
わかっていないエドウィンくんが不思議そうな顔で私とライリー様を見比べてたけどね。
「そのほうらがわしに用があるという子供達か。……ん?」
「へ、辺境伯様! お初にお目にかかります、僕はサンミチェッド侯爵家のエドウィンと申しまして」
「おお! イザベラ殿ではないか! どうしたのだ、そのような姿で……!」
「……かような姿で大変失礼をいたします、カルライラ辺境伯様」
ボロを着ていてもその身に纏う気品と教養は本物。それを体現するかのように、イザベラちゃんは見事なお辞儀を私たちに披露してみせた。
それにしてもイザベラちゃんはライリー様と面識があるのか。
(ライリー様は社交界嫌いなのに)
公爵令嬢だったっていうから辺境伯と面識があってもおかしくないとは思うけど、基本的に辺境伯ってのは国境付近に砦を構えるごりっごりの現場主義な人が多いんだよね。
だから王城でやれパーティーだ社交だっていうのよりも軍備だなんだってそっちの方がいいって行かない人も多いって聞く。
少なくともライリー様はそういう人。
「えっ? えっ? へ、辺境伯様はこの女とお知り合いで……?」
「この女?」
「さ、さようにございます。我が親愛なるアレクシオス王太子殿下によりこの者は貴族位を剥奪されておりまして……」
「そのようなことを議会の承認もなく誰が行ったのだ」
「お、王太子殿下が……」
「たわけ!」
「ひぃ!!」
一生懸命訴えるエドウィンくんに対して、ライリー様は一喝した。
まあそりゃそうだろうと貴族でもなんでもない私でも思うもんね……。
ちょっと怒鳴られただけで震えているエドウィンくんと全く動じないイザベラちゃんが対照的すぎてなんとも言えない。
いやあー、基本的に大事に育てられてきたって感じがするもんな、エドウィンくん……迫力あるじいさまに怒鳴られたらビビっちゃうのもしょうがない。
なんせライリー様って一見、ナイスミドルダンディなんだけど……今でも現場に出て行くタイプの体育会系なのよね。
そんなんにどっから見ても甘やかされて育った感じが抜けない十五かそのくらいのボウヤが太刀打ちできるはずもないっていうか。
いや待てよ? 腰を抜かしてへたり込まなかっただけ優秀じゃないかな! うん。
「そもそも立太子の儀を行わぬうちに王太子を名乗るなど、陛下が許すはずもなかろう! なにをもってそのように僭称しておるか知らぬが、アルマ殿の引き合わせでなければその発言を以て処罰をくれてやったものを……!!」
「なっなっ、ぼ、僕はサンミチェッド侯爵家の……!」
「身の証を持たず名を挙げたところで誰がそれを証明するか!」
「そ、それは……」
厳しく言われてどもるエドウィンくんが困ったように視線をさ迷わせて、イザベラちゃんを見た。
イザベラちゃんはただ黙って立っているだけだ。
「お、お前! お前は僕がそうだと証明できるだろう!」
「……確かに、彼はサンミチェッド侯爵家の人間に間違いございません。ただし、あくまでわたくしがそうだと申し上げるだけでございます。わたくしにとっても、身の証を立てるものはないのですから」
悲しそうに目を伏せる美少女の存在感ったら……。
眉をひそめたライリー様が何かを言いかける前に私は手を挙げた。
このままじゃ話が進まないだろうと思ったからだ。静観してても良かったけどね。
「まあまあ、それはともかく……とりあえず彼の言い分を最後まで聞いてから苦情の書状を書くのでいいんじゃないですか」
「ぼ、冒険者……! 貴様、よくやった!」
「よし、エドウィンくんはちょっと黙ろう」
私が助け船を出した瞬間にそれを燃やすの止めよう。
その態度が問題なんだってどうやったら気づいてくれるのかなあ!
もし今後私が結婚できたとしたら、子供にはとりあえず『親が偉いのであってお前は偉くないんだぞ』って教えようと思った。
反面教師反面教師。